君の傍に

嗚呼、愛しき娘よ 〜ナイレン・フェドロック娘離れ奮闘記5


それは、愛娘と早朝から森の捜査出かけた日の夜でした。

「あいつらが、いい加減な事すっからだよ!じいさんの金巻き上げただけで、途中で放ったらかしにしたんだぞ。そんな連中、許せるか!」

目の前に立たされている四人の中で、ただひとりユーリがそう叫びます。彼らはアイナが手伝いをしている酒場でギルドの者達と乱闘騒ぎを起こしました。許される事ではありません。

ですから、こうして隊長室でナイレンに立たされている訳ですが……それを起こした張本人の言う騒ぎを起こした理由に、なんだか納得してしまうのです。

「なるほどなぁ。ま、オレでも殴ってたかな。そりゃ」
「え……?」

寄せていた眉間のシワがなくなって、ユーリはきょとんとします。フレンもシャスティルもヒスカも、同じ顔をしました。そんなに意外な発言だったのか、ナイレンにはわかりません。けれどナイレンは騎士でなく人として、自分もそういう連中は許せないと純粋に思ったのです。

まぁ、それはいいとして。ナイレンはキセルを吹かして「だが」と話を続けます。

「ギルドは帝国の影響を受けない自治組織だ。いい面もあんだよ」
「……そうは思えませんが」

フレンが少し低めに言います。考えが若いな、とナイレンは感じながらまた口を開きました。

「今回の事でわかると思うが、オレ達では対処出来ない事もやってる。金は取るがな」
「メルゾムってやつは、あんたの事知ってたぜ」
「ん?あぁ、詰まんねぇ話だ」

そう。よくある、詰まらない話です。

同じ町で同じ時間を過ごした幼馴染みで、目指した道が違っていて対立する組織にそれぞれ身を置きました……が、疎遠となるはずだったそれは今「アイナ」で強く結びついているのです。

六年前、共にアイナを助け、共に彼女を危険から守る砦となっているのです。その繋がりは一見しただけでは脆いようで、実は根深く硬いのです。しかし四人から向けられているのは、そんな事とは全く関係ない「悪い疑い」の眼差しでした。

「ん?なんだよぉ、別に癒着なんかしてねぇぞ!」

何も言わないけれど四人の顔には「どうだか」と書いてある気がしました。ナイレンは、その辺は気にせず障らずに怪我は大丈夫か問います。ユーリとフレンの頬は少し腫れているようで、けれど手当はしているみたいです。はい、とフレンが答えてナイレンはまたキセルを吹かします。

「じゃ、とっとと部屋に戻れ」
「は?」
「懲罰房行きじゃねぇのかよ」
「今そんな事して、なんか得があるか?」

あ、となる四人。今このシゾンタニアが慌ただしく緊張状態で人手が惜しいというのに、懲罰房へ入れるのは得策じゃありません。隊の首を自ら絞める事になるどころか、シゾンタニアの人々を危険に晒す事になり兼ねないのです。

とは言え何も罰がないのは、他の隊員に示しがつきません。そこでナイレンは店への弁償を給料から差し引くと告げ、四人が肩を落としました。

「あぁ、それとフレン!お前は帝都へ行ってくれ。オレの代理だ」
「私が、ですか?」
「オレは他に行くとこがあんだよ。その間ここはユルギスに任す。おめぇは式典への出席と、この援軍の要請書を届けてくれ。湖の遺跡には、おそらく何かがある……ここの隊だけじゃ処理しきれないな。それから、でっかい方はオレと来てくれ」

セクハラね。セクハラだわ。とヒスカとシャスティルが言います。その通り「でっかい方」と言うのは彼女らの胸の事でした。

この双子は顔も身長もよく似ていて、はっきり違いのわかる胸の大小で見分けている隊員は少なくありません。もちろん、ナイレンもそのひとりですが、あくまで目印。やましい気持ちなんて全然ありませんでしたが、言われる本人達は嫌みたいなのです。

「ユーリはランバートの世話、頼むわ」
「また犬かよ!?」
「いいだろ?おめぇの大好きなアイナの一緒に居れんだから」

そう言ってやるとユーリの顔は真っ赤になって、反論できなくなってしまったようです。娘自身も気付いていないこ彼への好意に、いつか気付いてふたりが幸せなれたら……しかし大事な娘をそう簡単に男へやりたくない。と複雑な親心を胸に、ナイレンはユーリの年相応な表情を見て声を上げて笑います。

嗚呼、明日はガリスタの言うリタ・モルディオを探して、アイナの考えが正しい事を証明しに行かなければ。



to be continued...

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