君の傍に

嗚呼、愛しき娘よ 〜ナイレン・フェドロック娘離れ奮闘記4


ふたりの新米騎士にとって初めての大きな任務。その作戦で、どうしても大切な娘の中にある不思議な力を頼らなければいけませんでした。自室のベッドでぐったりと眠るこの子が居なかったら、きっとナイレンも隊員達も……魔物と共に命を落としていました。

それだけタイミングが重要な作戦であり、ずれても不思議な力で無理に合わせられる愛娘の存在が重要だったのです。

今回の作戦を、ナイレンは実行したくはありませんでした。頭では現実的な問題としてそれしかないと理解していても、親心が頑なに拒否してしまい、一向に決着がつきません。それに終止符を打ったのは他でもない愛娘アイナ本人です。あの日以来、毎日見せてくれる柔らかな笑顔で「この街のみんなのためですから、喜んで引き受けます」と掌に残されてしまい、頷くしかなくなってしまいました。

そして今まさに、ナイレンはアイとランバートを連れ、昨夜行ったその任務の現場を訪れていました。ランバートが気付いた、あの季節外れの紅葉がどうしても気になったのです。本当はランバートとふたりだけで来るつもりでしたが、アイナが一緒に行くと譲らなくて。顔色も悪くないし、ナイレンは渋々許可しました。

「……おいアイナ。あんまり離れるな」

きょろきょろと忙しなく辺りを見回して、気もそぞろな愛娘に声をかけます。けれどアイナは頷きもせずに、きょろきょろ、きょろきょろ。

呆れたランバートがひとつため息を零して、アイナの制服の裾を噛みました。するとピタリと足を止めてランバートを見ます。やっと気付いたか、とナイレンは苦笑いと一緒にため息を零しました。

「一生懸命、森の様子探ってんのはわかるけどな?お前は方向音痴なんだ。気ぃ付けろ」

小さく頷いたアイナはナイレンの隣に戻って来て、彼の大きな手を小さな手でぎゅっと握ります。見下ろすと、娘はニッコリ嬉しそうに笑いました。堪らなく愛しさが込み上げて、彼女の髪をぐしゃぐしゃ撫で回します。

くすぐったそうに、けれど素直に受けているアイナ。ナイレンの手が退くと、ほんのちょっとだけ唇を尖らせながら空いてる手を使って、ぐちゃぐちゃになった髪を懸命に元へ戻していきました。その様子に声を出して笑うと、ナイレンは繋いだままの手を引いて再び歩き始めました。アイナが嬉しそうに隣を歩き、その隣をランバートが歩きます。

そのままアイナはナイレンの開いた手を要求し、彼はそれに応じて掌を差し出しました。その上へいつものように滑るアイナの細い指先を、いつものように読み取っていきます。

『やっぱりエアルが多い感じがする。川に沿って上の方が特に。紅葉も川沿いだし、もっと奥に行かないとわからないけど、あそこにある遺跡に原因があると思う。エアルの異常発生を促す何か、たぶん人為的な原因。じゃないと、こんなエアルの荒れ方しないはずだもん』
「そうだな……ま、考えるのは帰ってからゆっくりしようや。まずは帰る。ランバートの甲冑外してやって水飲ませて、オレ達も一服。考えるのは、それからだ」

大きくアイナが頷いて、また髪をぐしゃぐしゃと撫でたナイレンは、また声を上げて笑いました。脳内を支配する、嫌な予感を消すようにアイナの髪をぐしゃぐしゃ、ぐしゃぐしゃかき回しました。

するとアイナは今にも「もう、お父さん!もう止めてよ!」なんて言っていそうな顔をして、ナイレンはそれが嬉しくてまた笑います。それが気に入らないのか、今度はプクーッと頬を膨らませて拗ねてしまいました。

けれど繋いだ手は、決して離さなくて。ぎゅっと握ったままでした。それがまたナイレンの中の愛しさを沸騰させてしまいます。

もう愛娘が愛しくて、愛しくて仕方がなくて、ナイレンは早くこの子の声が聞きたいと強く願うのでした。



to be continued...

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