幸せの定義


警戒心が強くて気紛れ。
でも、一度懐に入れると綺麗な笑顔を惜し気もなく見せてくれる。

そんな貴方が大好きで仕方が無いんです。










「りょーた」

生徒会特権として一人部屋に住む恋人のソファーで寛いでいたら
恋人の少し舌っ足らずな声で呼ばれ、雑誌に落としていた目をそちらに向ける。

すると、思いの外近くにあった綺麗な顔に思わず視線を外しそうになったけれども
そうすれば、この人が判りづらいながらも拗ねてしまうのは経験済みだから、頑張って彼の顔を視界に納めた。

(いつまで経っても慣れないな…)

アップに耐えられる整った顔と言うのは有るけれど
剰りに綺麗な其は逆に直視しづらいモノが有る。

「……………」

「……宏樹さん?」

無言のまま直視されている事と、胸の奥で主張しまくる心臓の音が聞こえてしまわないかという事で、背中に変な汗が流れているのが分かって気が気じゃなくて恋人の名前を呼ぶが返答はない。

(な…何か会話!!!)

沈黙と視線が変な居心地の悪さを作り出して、必死に会話をとパニクる頭の中でネタを考えていれば

「りょーた」

もう一度、さっきよりも柔らかい声で綺麗な笑顔で名前を呼ばれて一際強く心臓が動いたと思ったら

ぽすり、と膝に重みが乗った。

「………宏樹、さん?」

「んー?」

所謂、膝枕という状態で膝に有る負荷と温もりに戸惑っていると
長く綺麗な彼の指が優しく俺の頬を撫でて、擽ったさに少し肩を竦めた。

「……幸せ」

「えっ?」

ぽつり、元々声が大きいとは言えない彼だけれども本当に小さな声で呟かれて何と聞き返せば

「幸せだなぁって……こんな何でも無いのに、りょーたと居れる空間が何よりも幸せだなって思ったんだよ」

「―――っ」

酷く殺傷能力の有る言葉が俺の息を一瞬止めて
見ている俺が恥ずかしくなる位に幸せそうに浮かべた笑みに、喜びを感じる以外の思考が全て止まった

(どうしよう。すっげぇ嬉しい)

「僕はね、りょーたと逢うまで自分が一番大事だったの。
生徒会も親衛隊の子達も大事なんだけど
それよりも優先順位はいつでも自分を一番上に置いてた。
でもね……」

りょーたと出逢って
りょーたが僕の傍に居てくれる様になって、僕の優先順位が全部一個下がっちゃった。

何て、穏やかな声で優しい笑顔で言われしまえば目頭が熱くなってきた。

宏樹さんはずるすぎる。
そんな風に言われてしまえば、俺が喜ばない筈は無いのに。
今だって嬉しすぎて忙しなく動く心臓をもてあましている。

「……りょーた。泣かないで」

親指でいつの間にか濡れだしていた頬をなぞられて
あぁ。今、自分は泣いているんだと客観的に自覚する。

「りょーた…」

小さくソファーが軋んだ音を立てて宏樹さんが起き上がる。
そのまま綺麗な顔が近付いて来て

(キス…される……)

反射的に目を閉じて待っていれば、柔らかな感覚に触れたのは唇じゃなくて目尻。

ちゅっとリップ音を立てて目尻に残った涙を吸われて
もう、マジで心臓が持たない。

「キス、期待してた?」

ふふっと笑う意地悪な言葉に顔が熱を帯びて
恥ずかしさと、やられっぱなしの悔しさを誤魔化す様に
俺から目の前の綺麗な形の唇に噛み付く様に口付けた。

宏樹さんが驚いた様に息を飲んだのは一瞬で
穏やかだった筈のこの空間が熱い湿度を持つ様になるのはそれから数分も経たなかった。



END

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