五文字を



「……軽すぎるんだが、あんた、体重何キロだ……メシを食え、メシを」
「いや!なんで今体重を聞く!?五十キロだ!百五十八センチメートルの身長なら平均体重の範囲内だろう!それよりなんでベッドなんだ!……え、あ、いや、ちょっと待て、ちょっと、……その、あの、いや……心の準備というか、こういうのは、大人に……なってから……」
「あんたの筋肉量から考えて、適正体重より約五キロは軽い。なんならさわった感じ、あんたの胸はDくらい確実にある。個人差はあるが、Dカップの胸の重さは約七百七十グラムだ。そしてそれを差し引かずとも、あと一キロでも減ったら俺が毎日筋トレさせてやるからな。いや……まぁ……それは今かなりどうでもいい。……本題だ。……頼む、本当に、すまない、嫌なら本気で拒め。殴るなり蹴るなりしろ。そうでなければダメだ。まだ理性が微かに残っている理知的な俺は、それを推奨する。だが、そうでない大多数の俺は、あんたもそれなりに出来上がっているから、それをどうにかしてやれるし、これだけ据え膳というより、もはや三分の一は食べている状態のメシを残すのはどうかと思うわけだ。……出来上がっている、と、言ったが、あんた、自分の身体がどうなっているか、把握しているか?」
「え……いや、なんか、変、だとは、自覚している。頭がぼんやりする。あんたとくっついてると、ずっとしあわせな気分になる……でもなんか、足りない、とは、思う。……ええと……あとは……あ、あまり言いたく、ない……」
「……いいか、選択肢をやる。これが最後の俺の理性だ。俺にあんたの脚の付け根……これでは遠回しすぎるな。まあ、服の上から膣のあたりを触られて確認されるのと、自分で触って確認するのと、どっちがマシだ」
「そんな選択肢があってたまるか!……い、いや……その……」

山姥切はぐるぐるぐるぐる考えて、どうしようを何回も繰り返した。実際、実情はわかっているのだけれど、これがどういう現象なのかはわからなくて、多分何か、大方尿をなにかしらの拍子に漏らしてしまったのかもしれないが、それは自分で触って確かめるまでもなくわかっている。それを大倶利伽羅の目の前でやれと言われて、できるはずもないし、それ以上に大倶利伽羅に触って確認されるのは羞恥に耐えかねて死ぬ可能性があった。それでずっと山姥切が顔を腕で覆ってぐるぐるして、「どっちも嫌だ……」ともそもそ言ったら、大倶利伽羅が「最後の選択肢が無くなったな」と、山姥切の夏の終わりだというのに、白い太ももを撫でて、そのままあらぬところをさぐってきた。山姥切は反射的に脚を閉じて、「ひっ!?」っと悲鳴を上げた。大倶利伽羅は知ったことかと、薄いショートパンツの上から指でじりじりと撫でて、「湿ってる」と言った。山姥切はもう羞恥で死にそうになりながら、いや、もう半分死んだも同然の顔色になって、「ひっ……ひっ……」と過呼吸になるのではないかという喘鳴をあげた。

「……女性の生理現象なんだが……。……ちょっとまて、あんた、これも知らないとかぬかすんじゃなかろうな!?」
「え、え、な、なんかの拍子に……お、おしっこ……漏らした……」
「あんたは!どういう人生を送ってきたら!そんな無知になれるんだ!?」
「も……やだ……恥ずかし……しぬ……」
「いいか!?俺はもうあんたのこと大事にしながら殺すからな!?女は興奮すると愛液で股が濡れるんだよ!尿じゃなく!」
「こ、殺すならひと思いにしてくれ!……生物は最低限しか履修していない……」
「これは保健体育だ!もういい!知らん!端的に言うからな!?俺は今からあんたを抱く!つまるところセックスするからな!?」
「なんでそうなるんだ!?そういうのはもっと大人になってからすることで、俺は予習も学習もしていない!」
「……セックス自体は知ってるんだな。安心した。だが……選択肢はあれで最後だと言った。嫌ならさっき言ったような行動をしろ。顔面でも腹でも股間でもどこでもいいからとにかく殴るか蹴るかしろ。俺的にはかなり痛くて死ぬ思いをするが、確実に再起不能になる股間を推奨する」

大倶利伽羅はそう言うと、顔を覆っていた山姥切の腕を引き剥がし、また頭がおかしくなりそうなキスをし始めて、山姥切が思わずぎゅっと目をつむったのをいいことに、ほんとうにほんとうに最後の理性だったのか、枕元にあったリモコンで部屋の照明を落とした。そうしてから山姥切のシャツをたくしあげ、胸を愛撫し、首を撫でてくるものだから、山姥切は息継ぎをしているのか、喘いでいるのかわからなくなり、本格的に頭がぐらぐらしてきて、どうしてかわからないのだけれど、恥ずかしくて死にそうどころかもう死んでいるのだけれど、大倶利伽羅にもっと触りたいと思えてきて、けれど恥ずかしいからそれができなくて、「……っふ……んん……」と切ない喘鳴をあげた。やっとキスが終わったかと思えば、大倶利伽羅の口は山姥切の耳にうつり、そこをさっきのように舌で愛撫するのだけれど、さっきと違って、もう片方の耳を手で塞がれ、余計にくちゅくちゅという音が脳に直接なだれ込んでくる。山姥切は「や、やだ……あっ……あたま、おか、おかしくなる……ふっ……あ、」と大倶利伽羅の耳にかかっている手をどうにかしようとおもうのだけれど、それより辛いのかなんなのか、大倶利伽羅の広い背中に手を伸ばして、シャツが皺になるだとか考えず、ぎゅっとそれを握り締めた。そうしたらずっと距離が近くなって、お互いの体温がおんなじになって、怖いくらい変になった。でも、もう「変」ではなくって、「気持ちいい」と思ってしまっている自分がいて、それがとても恥ずかしかった。そして大倶利伽羅は耳元で随時、「あんたが悪いんだ」だとか「すきだ」とか言ってきて、山姥切も洗脳されたように、「う、うう……すき……あ、や、やだ、きもちい……」と言ってしまって、そしてはっとして口をおさえた。

「……今、気持ちいいって、言ったな」
「ち、ちが……」
「嫌なのに気持ちがいいのか、気持ちがいいのが嫌なのか、まあ知らんが、あんたが泣いていない時に『すき』って言ってもらえたのは、はじめてだ。……嬉しいものだな」

山姥切はそれを聞いただけで脚の付け根がぬるつくのがわかった。ああ、これはほんとに尿じゃないのだ、とわかって、自分が今まで生きてきて、こんな風になったはじめての相手が大倶利伽羅で、それはすごいことなんじゃないかと思ったけれど、それよりずっと幸福だった。こうして大倶利伽羅に触れて、大倶利伽羅に触れられて、それが気持ちがいいってことが、恥ずかしかったけれど、ずっとずっとこうしていたいと思った。今までは同じ空間にいて、一緒に別々の勉強をして、手を繋いで、とにかく一緒にいられるだけで幸福で幸福でたまらなかったのに、それ以上のことがあったんだ、と、はじめて知った。けれどそれは困惑も招いた。

「ど、どうしよう……」
「なにが」
「い、いままで、一緒にいるだけで、よかった。でも、こ、これからはそれだけじゃ多分、なんていうか、ダメになる……。大倶利伽羅に触りたくなるし、……も、もっと……なんか、したくなる……でもそれは……だ、ダメだと思う……」
「じゃあ俺はもうダメになってるな。あんたと一緒にいるだけでも、確かに幸福だ。でも、俺はあんたのどこにでも触れたいし、キスしたい。セックスしたい。今までずっと、一緒にいるだけじゃ、手を繋ぐだけじゃ、満足できなかった。だから今こうしている」
「え……」
「あんた、ほんとうに可愛い。誰にも手をつけられてない。俺だけがあんたを作り変えている。……最高に興奮する」

大倶利伽羅は見たことのない顔でそれだけ言うと、邪魔だ、と、言わんばかりに上体を起こして、自分のシャツを脱いだ。それは薄暗い照明の中でも見惚れるくらいに引き締まっていて、恰好がよかった。山姥切ははじめてそれを見たので、「て、テレビ以外で腹筋がむっつに割れてるの、はじめて見た……」とまた変なことを言った。なんならついでに手を伸ばしてぺたぺた触って、「おお……」と、雰囲気をぶち壊すようなことばかりするけれど、大倶利伽羅は「あんたが触るなら、俺も触るからな」と、山姥切の腹を撫でた。

「……すべすべしてる。手にしか触れたことがなかったけれど、柔らかくって、細くて、心配になる。俺的にはもう少し肉がついていてもいい。いや、柔らかさを残して欲しいからインナーマッスルの方がいいな。体幹を鍛えろ、体幹を」
「この筋肉オタク!」
「なんとでも言え」

大倶利伽羅はそのたくしあげたところの山姥切の腹に舌を這わし、ねっとりと舐め上げた。山姥切は「ひっ」と悲鳴をあげて硬直して、大倶利伽羅が脇腹に触れたのに、「ひあっ」と悲鳴をあげた。そのたんびに大倶利伽羅の欲望みたいなものがむくむくと膨れ上がっていくのがわかって、これから一体自分はどうなるのだろうと不安に思ったし、大倶利伽羅に大事に扱われているのだということもわかって、余計ひどくなった。そうして山姥切がどうしよう、どうしよう、と、何もできないでいるうちに、大倶利伽羅の舌が、胸のすぐ下まできて、シャツは胸の上までたくし上げられて、山姥切が静止する前に、大倶利伽羅は山姥切の胸の突起を、口に含んだ。そうしたらもう羞恥とか困惑とかはどこかへ吹き飛んで、とんでもない感覚だけが襲ってきて、山姥切は「あっ」と大きな悲鳴を上げた。

「あ、あ、や、っ……ああ、」

自分で自分が出している声が怖くなって、急いで口を両手で塞いだ。それでもくぐもった喘ぎがその隙間からこぼれて、むしろ口からなんにも出ないぶん、身体のどこかしらにそれらがぐるぐるうず巻いて、どうしようもなくなった。大倶利伽羅は山姥切のもう片方の突起もいじりながら、片方の突起を舌で転がし、押しつぶし、甘く噛んだ。山姥切はもう頭がおかしくなりそうで、片方の手は口をふさぐのに使って、もう片方の腕で大倶利伽羅のたくましい肩を押した。それでもびくともしなくって、なんならそこに息がかかる距離で、「本気で抵抗しないと、やめてやらんと、先に言った。これが本気か?」とぬかすものだから、またびくりと身体を震わせて、なんにもできなくなる。そうして、胸の少し上あたりを、また痛く吸って、何回も痛く吸って、山姥切は「な、なに……?なにしてるんだ……?」と大倶利伽羅に尋ねた。大倶利伽羅は短く、「マーキング」とだけ言った。

「ひっ……い、痛い……か、噛んでる……?」
「噛んではいない。吸っているだけだ。……キスマークも知らないのか」
「……キスマーク……」
「……なんだ、やりたそうな声出して。別にいいぞ。……男の身体なら……そうだな、首の横あたりが、一番つけやすい」
「な、なにかマークがつくのか……?」
「ああ、俺のだってマークがつく」
「す、吸えばいいんだな……?」

大倶利伽羅が自分の首をどうぞ、と言わんばかりに差し出してきたので、山姥切はぼんやりした頭で、ちゅっと音を立てて、そこを僅かに吸った。

「……そんなんじゃつかない。これくらい、強く」

大倶利伽羅はそう言って、山姥切の首筋にじゅっと、もう音からして違うキス、というよりなんだか食べているようなことをした。けれど歯が立てられているわけでもない。そうして、「これくらい」と大倶利伽羅がまた首を差し出してきたので、山姥切はやっと大倶利伽羅にしがみつきながら、何回もちゅっ、ちゅっと、精いっぱい吸ったのだけれど、うまくいかない。暗がりだから何か残っているのかもわからなくて、山姥切は「大倶利伽羅は俺のってマーク、うまくつけられないな……」と、大倶利伽羅の首筋に必死にキスをした。そして不思議に思ったのだけれど、大倶利伽羅はずっと、興奮はしているのだろうけれど、涼しい顔をしている。自分は大倶利伽羅にキスされるたんびにひどく声を出して、頭をぐちゃぐちゃにしていたのに、やっぱり自分では大倶利伽羅を満足させられないのだ、と、しょぼくれた。

「そんなに、俺のことをあんたのだって、しるしをつけたいくらいなのか」
「……そりゃあ……そうだろ……」
「ああ、あんた、本当にかわいい。すきだ。そういうとこ、たまらなくなる」
「で、でもあんた、全然涼しい顔、してる……。俺はキスされるだけで……頭おかしくなるのに……」
「……あんまり煽らないでくれ……。俺は別に首がそこまで性感帯ってわけじゃないだけだ。弱いところを強いて挙げるとすれば、鍛えようがない耳くらいか。まぁ、なんにせよ、あんたが敏感すぎる。いままでほんとになんにもしてこなかったせいなのか、体質なのか……まあいい。全部俺好みに開発する。それができるって、男冥利に尽きるな……」

大倶利伽羅はそう言うと、また山姥切に深いキスをはじめた。そうして、「暗が、眼は、あけろ」と命令してきて、山姥切はそれに逆らえなくて、目を開けるのだけれど、そうすると大倶利伽羅の、暗がりでも光る金色の瞳と視線が重なって、自分が今何を考えているのか、どれくらい気持ちいいのか全部見透かされてしまうようで、恥ずかしかった。それで目をぎゅっと閉じてしまうと、大倶利伽羅が「じゃあ、そのまま、閉じてろ」と、吐息で言って、あろうことか、ショートパンツをなんでそんなにうまく脱がせられるんだ、というくらいするりと脚から抜いて、山姥切は「やっ……」と悲鳴を上げたけれど、その悲鳴ごと、大倶利伽羅の舌に絡めとられる。そうしてするりと山姥切の脚を開かせ、その間に自分の脚を入れた。そうして大倶利伽羅の手が、太ももを優しく撫でながら、ついに脚の付け根まで来て、山姥切は反射で脚を閉じるのだけれど、大倶利伽羅の身体がその間にあるので、閉じられない。大倶利伽羅の指が、ついに山姥切が自分でも風呂の時くらいしか触れない場所に、パンツごしとは言え触れてきて、さすがに「や、やだっ」と、息継ぎの時に悲鳴を上げた。けれど大倶利伽羅はそれをやめないで、じりじりとそこを指でなぞり、そうするとじゅくじゅくと粘着質な水音がかすかに聞こえてきて、山姥切は「やっ」と悲鳴を上げた。

そうしたら、大倶利伽羅はキスを一旦やめて、少しどころでなく不安そうな眼で、「……本当に俺で、いいのか。流れでこうしてしまって、いいのか」と、尋ねてきた。山姥切はそれで、ああ、大倶利伽羅は自分が思っていたよりずっとずっと自分を大切にしてくれていて、それで、特別に思っていて、そして、不機嫌すぎる顔しかしないくせに、ずっとずっと優しくて、優しくて、自分と同じくらい繊細なんだ、と、わかった。だから、その身体にぎゅっと抱きついた。

「あんただから、いい。あんたじゃなきゃ、嫌だ。……あんただから、こうなってる。……でも、俺はこういうことを、……こういった性的なことを、やったことなくて、なんにも知らなくて、嫌とか、恥ずかしいとか、死ぬとか、いっぱい言うと思う。……あんたは、一年半も待ってくれていた。あんたなら、他の女に困らなくて、いくらでも、もっとずっとあんたを満足させられる、いい女を見つけることだって、できたのに、そういうことを、しなかった。だ、だから……その……お、俺が、これから何回嫌とか恥ずかしいとか死ぬとか言っても!……あんたの……好きに、してくれていい……俺は多分、それが一番、嬉しい……。俺に……その、そういうこと……教えてくれ……そしたら、いつか、多分、確約はできないけれど、あんたを満足させて、やれるかもしれないから……」

山姥切がそんなことを言ったら、大倶利伽羅は痛いくらいなはずなのに、全然痛くない強さで山姥切を抱きしめて、「もう満足している。これ以上は俺も、あんたみたいに、死ぬから。なんだろう……矛盾しているのだけれど、間違っているのだけれど、はじめて女を抱いている気がする」と、山姥切の知らない声音で言った。そしてまた見つめ合いながらキスをしたのだけれど、山姥切の瞳が溶けているのと同じくらい、大倶利伽羅の金色もにじんでいて、どうしようもない気持ちになった。眼を閉じたらきっと恥ずかしくなんかなくなるかもしれないけれど、この鈍い金色の瞳が、自分によってこんなにかたちを無くしているのだと思うと、どうしようもなく、たまらない気持ちになった。

そうして、ああ、ずうっとこうしていたいなあとおもった矢先に、大倶利伽羅が山姥切のパンツを脱がすという暴挙に出て、さすがに「ひっ」と悲鳴が零れた。その拍子に大倶利伽羅の舌を噛んでしまって、大倶利伽羅が「つっ……」と眉間に皺を寄せる。

「す、すま、すまない!でもあんまり唐突だったから!ぱ、パンツ……」
「大丈夫だ。血は出ていない。……いや、普通に、これ以上汚させるのも忍びないと……ん……?ちょっと待て、あんた……ええと、綺麗な表現を使うと、アンダーヘアーを剃るのが習慣なのか?それとも脱毛でもしているのか?」
「え?なんだ?それは……」
「いや、下の毛。陰毛だ」
「……?普通、女性は生えないだろう?」
「普通生える!!修学旅行の風呂で気づくだろう普通!」
「修学旅行の風呂は怖すぎて……その……月のものだって嘘ついて……先生の部屋のシャワーを借りていた……え、生えるのか!?」
「いや、待ってくれ、いるのかそんな人種……え、ちょっと待て、いや、たしかにいるにはいる……確率はいくつだった……?……まて、いや、冷静にならなければいけない。素数を……一……」
「だから一は素数じゃない!冷静になれ!というか、……え……変、なの……か……?す、すまない……えっと……嫌だったのなら、本当に、申し訳なく思う」
「いや、マジで無理。いや、そういう意味での無理ではない。本当に、ヤバい。まってくれ、俺の彼女がこんなにかわいくて、演技でなくあんな感じやすくて、その上天然パイパン?俺の大脳がショートしようとしている。ヤバい、マジで、ヤバい。あんたこの年までよく本当に彼氏いなかったな!?そしてよく性被害に遭わなかったな!?い、いや……ど、どうすべきなんだ?自我を保てていない自覚がある……」
「あ、あんたそんなキャラじゃないだろう!?え、え、ぱ……?え、それはなんだ?ぱ、ぱいぱん……?俺はぱいぱんなのか?」
「やめろ!これ以上俺を刺激するな!死ぬ!」
「死にそうになってるのはパンツ脱がされてるこっちなんだが!?」

山姥切はそう言ってからそうだ、恥部が丸見えではないか、と、今更気が付いて、シャツの下を伸ばしてそこをどうにか隠そうとしたけれど、ふう、と一息ついて冷静な目になった、というより、目が座った大倶利伽羅の腕で、その腕が取り払われてしまう。山姥切が羞恥で死にそうな視線を送るが、大倶利伽羅はそれをものともしないで、突然山姥切の脚を腕で押し上げ、陰部がもうどうやっても隠れないような体勢にして、あろうことか、臍の下からつつつ、と、時折リップ音を立てて舌をどんどん下へと這わせていった。

「や、嫌だ!何をするんだ!?き、汚い!やだ!やめっ……」

そうして大倶利伽羅の舌が、あるところに到達したら、山姥切は「あ!?」と大きく背をのけ反らせた。ちゅっちゅっと吸われる音や、ぴちゃぴちゃ、じゅくじゅくと舐められる音が、あらぬところから聞こえてくるのだけれど、羞恥を感じるより早く、なんだかわからないものが背筋を這いあがって、脳みそが真っ白になった。怖いくらい気持ちいい、と、いうよりこのビリビリするおかしいものは気持ちいいというくくりにしてしまっていいのかもわからないくらい何も考えられなくなって、「あっああ!ひっ!あっ」とあられもない嬌声しか、口から出てこない。

「やっ……あ、あっ!ひあっ!な、やだ!こわい!あっあっ!なに、なに!?やだ!あああ!ひあっ……や、え、な、ひっ……な、なんか、ああっ!なん、なんかちがっ!あ、やだ、むり!あっ!あっ!あああ!!」

大倶利伽羅の舌が動くたんびに恐ろしいくらいの何かが昇ってきて、自分もどんどんどこかへと追い詰められていくのがわかって、最後に大倶利伽羅が陰部の膨れた部分をじゅっ、と吸った瞬間に、目の前で火花が散って、なんだかとんでもない高さから落とされたような感覚がした。それで完全に脳みそが溶けて、はくはくと息をしながら、完全に脱力したのに、身体がびくびくとまだ動いていて、身体中が快楽に支配されて、もう何も考えられない。こんな感覚ははじめてだった。こわいと思った。それで結局こわくてこわくて、自分がおかしくなったんじゃないかと、身体を小さくして「ひっ……うう……」と泣き出して、顔を、やっと持ち上がる腕で覆った。

「……う、う……俺の身体、変……やだ……変になった……あ、頭おかしいのかもしれない……ひっ……こ、こわい……こわい……大倶利伽羅……大倶利伽羅……」
「……別に変じゃないから安心しろ。今のは……まぁ、オーガズムという現象だ。性的興奮や快感が絶頂に達すると起こる現象。俗にイク、とも言う。正直女性のそれについてはあまり詳しくないので、医学的コメントは差し控える。……いや、正直、なんの開発もしてないあんたが、こんな早くそうなるとは、思わなかった」
「お、俺、おかしくない、のか……?で、でも、こわいから、こわいから……ちょっと、お願いだから、安心させてくれ……」
「……具体的提案を要求する」
「だ、抱きしめてほしい……」

山姥切がそう言った瞬間にもう大倶利伽羅は山姥切を抱きしめて、息をついて、「あんたのこと、大切にしたいのに、あんたが、俺が大切にしよう、大切にしようって作ってる壁、かたっぱしから壊していくんだから……もうどうしようもない……頭がおかしくなるくらい、あいしてる」と言った。山姥切はぐずぐずになりながら、前半の部分に反論する前に、「お、俺もすき……あいしてる」と言った。大倶利伽羅の体温が愛おしくて、自分よりずっと硬い身体なのにやわかく思えて、涙が滲むほど安心した。

「こ、これで終わりで、いいんだよな……?も、もうこわいこと、ないよな……?」
「……常識……いや、この表現はあまり使いたくないな。定義的に、セックスをするという行為は、女性器に男性器を挿入することを前提にしている。そのために愛撫……ペッティングをし、女性器を濡らし、男性器を勃たせ、挿入しやすい状態へと持っていく。つまり、すまないが、もう少し怖い思いをさせるし、あんたは処女……一度もセックスを体験したことのない身体だし、自分でマスタベーションも行っていないだろうから、かなりの痛みを伴う行為になる。正直、ここで泣かれるとは思っていなかった。多分、これ以上したら、あんたはもっと泣くから、少し後ろを向いてもらっていて、俺が自分の分は自己処理するという方法もある。全部一気にやるのは、あんたには多分でもなく絶対、向いていない。これ以上俺の欲望を押し付けるのは利己的すぎる」
「……でもそれじゃあ、大倶利伽羅が、満足はできないんだろ……?お、俺、言っただろ……?俺がやだ、とか恥ずかしい、とか死ぬって言っても、……あんたの好きにしていいって……」
「その約束の中に、『こわい』は含まれていなかった。あんたをこわがらせるのは嫌だ。自分が嫌になる。あんたがこわいって泣くのが、俺は一番嫌なんだ」
「し、知らなかったから……そう思っただけで……はじめからそういうのがあるって教えてくれていれば、大丈夫……だと、思う、多分、きっと……いや、うん、あんたなら、なんでもいいんだ。だ、だって、その……こわいことっていうか、知らないこと覚えてかないと、いつまでもあんたにおんぶに抱っこで、それは俺が一番嫌なことだ。……で、つかぬことをお伺いするのだけれど、自己処理って、何をするんだ」
「……オナニー」
「お、俺の部屋でそんなことするな!俺がいるのに!」
「あんたなんでイクとかパイパンとか知らんのにオナニーは知ってるんだ!?これまでマスタベーションとか英語で言っていた俺が馬鹿みたいじゃないか!ドイツ語専攻じゃないだろう!?」
「たしかに俺はフランス語専攻だが!普通知ってるだろそれくらい!」
「普通知ってるだろそれくらい!ということを知らんあんたが言っても全く説得力が無いんだが!?」

大倶利伽羅が身体を離して、頭に手をやり、大きく息をついたあたりで、山姥切はそれを見上げながら、どうしてか、もうなんにも怖くないな、と、思った。

「……はは、うん、安心した。……抱きしめてもらうと、すごく幸せで、あったかくて、安心するんだ。……いつかは、まぁ、結局、最終的には、そういうことをしなければならないんなら、俺だけ愛されて、あんたが自己処理とか、そういうのはダメだと思うし、嫌だと思う」
「……付き合ってたって、セックスしなきゃならんということはない」
「でもあんたはずっと我慢してたって言ってた」
「……まぁ、男だからな」
「俺は、もしかしたらあんたに嫌われてしまって、別れることになるかもしれないと、いつも思っている。これからはまあ、頻度は減ると思うが……。けれど実際、そういう未来が無いということは絶対に無いとは言えないだろう。ええと……絶対という言葉の確率論的曖昧さについては割愛する……パラドクス系……哲学は苦手だ。それで、別れて、もしかしたらまた違う人と付き合うのかもしれない。……これは絶対にないけれど。えっと……その……長ったらしくなるのは、嫌だから、端的に言うと、俺は、はじめてそういうことをするのは、大倶利伽羅が、いい。一時的な感情なんかでは、決してない。大倶利伽羅じゃなきゃ、嫌だ。俺のペースじゃ、いつまでたってもできないだろ……」
「……俺は女じゃないからわからんが、かなり痛いらしいぞ」
「わ、わかった」
「どうしようもなく……死ぬほど痛くて、相手を蹴り飛ばした女もいるんだぞ」
「……う、うん」
「あと……あんたははじめてで、貴重な時間を、大切にすべきものを、俺にくれようとしているが、……俺ははじめてじゃない。不平等だ。平等という概念の曖昧さについては言及しないでくれ」
「なら、その不平等なぶんだけ、俺のこと抱きしめてくれ。こわいって言ったら、抱きしめて安心させてくれればいい。抱きしめてもらったとき、俺のからだのかたちが、あんたのかたちにぴったりになるまで、そうしてくれ。それにあんたは初めて女を抱くようだって、言った。もうそれで平等だと思う」
「……ああ、もう、ほんとうに……もう、言葉が出てこない。無理だ。こんなのを言葉にできるやつはいるのか。いたとしたらそいつはノーベル賞がとれる。……俺はあんたのこと、大切すぎて、もう、ダメだ。すまない、大切だとか口で言いながら、痛い思いをさせるし、こわい思いもさせる」
「……わかった」
「でもあんたが泣いたら、すぐやめて、抱きしめる。絶対、そうするから」
「ありがとう……」

あいしてる、と、言う前に、大倶利伽羅の唇が、山姥切の唇を塞いだ。けれどそれはすぐに離れて、「指からいれて、できるだけ慣らすぞ」と、言った。

「……?ええと、どこに?」
「……膣」
「え、あ、そ、そうか……そういう手順を踏まえるんだな……。男性器を女性器に挿入するということは知っていたが、そういうことも必要なんだな」
「……いきなりいれたら、AV女優でも痛いだろう……」
「そ、そうなのか……えっと、ゆ、ゆっくりな……いや、もうなんか、とても恥ずかしいのだけれど、もうなんか、その恥ずかしいのに慣れてきた感がある……」
「……ありがたいことだ」

大倶利伽羅はそう言うと、「多分指だけでも痛むかもしれないから、俺の背中にでも腕をまわしていろ」といった。山姥切は少しだけ震えながら、言われた通りにした。そうしたら、大倶利伽羅の背中の熱がわかって、少し安心した。その矢先に、大倶利伽羅がもう大倶利伽羅の唾液なのか、山姥切が分泌したものなのかわからないもので濡れた場所を、つつつと撫でて、それから、ひとさし指を、その割れ目の奥に、少しだけ、つぷりといれた。山姥切は初めての感覚に驚いて、ぎゅっと目をつむって、大倶利伽羅の背中にしがみつこうとしたけれど、服を着ていないからしがみつくところがなくって、爪を立ててしまった。

「す、すまない!お、驚いて……つ、爪……き、切ってるけど……痛かっただろ……?」
「いや、いい。痛むか?」
「い、いや、まだ……変な感触はするけれど」
「まあ、まだ第一関節だからな……しかし、うん、いや、なんでもない」
「……?なんだ?言ってくれないと……わからない、から」
「……処女膜が、あった」
「それは、まあ、そうなのだから、あるだろうな」
「いや、……うん、そうだな」

大倶利伽羅は慎重に、慎重に、指をいれていった。そうして、その第二関節まで入ったあたりで、山姥切は僅かな痛みを感じたが、まだ、我慢できないほどではなかった。だから少しだけ手に力が入っただけで済んだのに、大倶利伽羅が「……痛いのは、我慢しないでくれ」と声をかけてきて、「ま、まだ微妙に、そうかな、くらいだから……」と言った。そうしたら大倶利伽羅は痛みから気を逸らさせるためなのか、山姥切に深いキスをしてきた。山姥切がその気持ちよさと安心感に、全部意識がもっていかれて、どろりと眼が溶けた。大倶利伽羅と見つめ合って、お互いに瞳がとろけて、もうなんでもよくなってしまう。その分だけ、瞳が揺らいだ。そうしたら大倶利伽羅の瞳も揺れて、もっと、ずっと、キスが深くなった。大倶利伽羅は息継ぎの間に、「歯があたらない角度があるから、俺がやるように、やってみろ」と言った。だから山姥切は言われたように顔を傾けて、はじめて大倶利伽羅の口の中に舌を入れようとした。けれど大倶利伽羅がはっとしたように顔を離して、山姥切の方が驚いた。

「えっ……」
「……いや、ちょっと、申し訳ない。本当に頭がおかしくなっていた。かなり、いや、ものすごく、申し訳ないことをしていた」
「……な、なにが……?」
「……その……舐めた口でキスを……すまない……」
「……舐めた……?」
「……さっきの」
「……?……あ、ああ、ええと、把握は……したが……それがどうして謝るようなことになるんだ?」
「普通嫌だろ……そんな口でキスされるの……」
「どうしてだ?俺の身体で、俺の体液だろう。風呂に入った直後とはいえ、繁殖している可能性がある菌についてはコメントを差し控えるが、論理的に考えて俺から分泌されたもので俺の身体がどうこうなるとは思えない。むしろ俺はあんたの身体が心配だ」
「……俺はあんたの頭が心配だ。……まぁ、あんたがいいって言うなら、いい」

大倶利伽羅はそう言ってから、それでもおずおずといった風に顔を近づけた。山姥切はなんだか不思議な気分になって、それがどういう気持ちなのかはさておき、大倶利伽羅に教えられたように、自分の舌を、大倶利伽羅の口の中に差し入れた。そうしたら大倶利伽羅の味がして、どうすればいいのかが頭の中から吹っ飛んだ。そうしてチロチロと舐めるにとどまっていたら、大倶利伽羅が「こうするんだ」と言わんばかりに山姥切の舌を吸って、甘く噛んだ。だから山姥切も同じように、けれど拙く、その真似をしようとしたら歯がすこし当たって、「す、すまない……下手くそだ……」と言った。そうしたら大倶利伽羅がなんにも言わないで、空いている手で口元を覆っていて、もそもそと何か言ったが、山姥切には聞こえなかった。そうしてどうしたのだろうと見上げていたら、大倶利伽羅が「ああ、もう、」と呟きながら、これは本当にキスをする時の音なのだろうか、というような音がするようなキスをしはじめて、山姥切はそのことで頭がいっぱいになってしまった。

山姥切のキスの知識なんて少女漫画で止まっているのだ。親が厳しかったせいでドラマも映画もそういったシーンがあるだろうものは見ることを禁止されていたし、少女漫画も中学受験の際に止められた。高校に上がってから持たされた携帯電話も、ネットにはつながらない仕様のもので、実際親と連絡をすることにしか使っていなかった。なんなら舌を入れるものだと知ったのもついさっきだ。だからもう山姥切は脳みそがどろりととろける心地がして、それが少しでもなくこわくて、大倶利伽羅のどこかにすがろうとするのだけれど、うまくいかなくて、一番手が届きやすい首に腕を回したら、もっとずっとキスが深くなって、どうしよう、と思った。その全部が、ゆるくでも眼をあけたまんまに行われる行為だから、大倶利伽羅に知れてしまう気がして、恥ずかしかった。けれど、大倶利伽羅の眼もどうしてこんな風にとけてくれるんだろうというほど、溶けていて、山姥切は満たされるような、もっと欲しいような、不思議な気持ちになった。そう感じてから、さっき大倶利伽羅がおずおずと顔を近づけてきたときの気持ちが、「もどかしい」という気持ちだったことに気が付いて、恥ずかしいというより、ああ、自分は心の奥底、自分の知らないくらい深いところで、こんなにも大倶利伽羅を求めていたのだな、と納得をした。そうしたら少し笑えて、そのまま表情に出したら、大倶利伽羅の眼がもっととけて、そうしたら自分もとけて、このままひとつになるんじゃないかって、思った。その時に、少々痛いものを感じて、それも顔に出た。そうしたら大倶利伽羅が、「……すまない、指、増やした」と吐息で言った。

「……そ、そんなでもない……ちょっとだけ……あと……ちょっと……その……怖い……ちょっとだけ……」
「……わかった」

大倶利伽羅はそう言うと、山姥切の頬に頬を寄せて、その体勢からできる限り山姥切に身体を合わせて、片腕を山姥切の頭の後ろに滑り込ませた。大倶利伽羅はいつも約束を守ってくれて、こうして山姥切を安心させてくれる。それなのに愛されていないだとか、自分のことをなんとも思っていないだとか、過去に少しでも思っていた自分が信じられなくなった。そうしたら自然と、「すまない」と言葉が出てきた。大倶利伽羅はどう受け取ったのか、「いや、痛いのは、普通に嫌だろう」ともそもそ、呟いた。

「いや……俺のこと、なんとも思ってないとか、酷いこと、言ったし、思ってた。あんた、絶対約束は守ってくれてたし、今思えば大学で俺に話しかけてきてくれたのはあんただったし、俺を変えてくれたのも、あんただった。……あんたがあんなに怒ったのも、当然だなって……」
「……自己嫌悪はそれくらいにしてくれ。あんたが誰のことを嫌悪してもいいし、それが間違っているものだと俺が思ったら、ちゃんと指摘する。俺のことを嫌悪してもいい。けれど、あんたがあんたを嫌悪してしまったら、俺はなんにもできない。……まぁ、だから、ちょっとはこっちに集中してくれ」
「え……っん、あっ!?」

大倶利伽羅の指が、ぐにっと動いて、それがおかしな感覚を生んで、山姥切はまたぎゅっと大倶利伽羅の首にしがみついた。そうしたら大倶利伽羅が「……首はさすがに締まるし、動きづらいから、すまないが背中あたりにしがみついてくれ……」というから、必死に背中にしがみつこうとするのだけれど、代謝がいいのか、この部屋に熱がこもっているせいなのか、少し汗ばんでいて、滑るようになっていた。結果、掻き抱くようになって、爪だけは立てないように気をつけたけれど、大倶利伽羅の指が動くたびに、どうしても爪を立ててしまって、山姥切は「ひっ、あ、あ、ご、ごめん、ごめん……」と謝るのだけれど、大倶利伽羅は別段気にする風でもなく、入り口のあたりを拡げるように動かしていた指を、何を思ったのか、ずっと奥へと、さしいれた。

「っあ!?」
「……いま、あんたの一番深いとこに触れている。名称くらいは知っているだろう。子宮口だ」
「な、あ、なん、で、いきなり……っ」
「俺はあまり、そういう気はないと自覚していたんだが、どうにも、あんたは嗜虐心をくすぐってくる。泣かせたくないのに、気持ちいいって泣くあんたは、ちょっと見てみたい。まあ、今回は痛いばかりで無理だろうが」

山姥切がそれに何か言おうとしたら、その指が、奥をつつ、と撫でて、なんとも言えない感覚がして、山姥切は「んっ」と、とっさに唇を噛んだ。あんまりびっくりしたものだから、思いのほか強く噛んでしまって、酷く痛んだ。それを見とがめた大倶利伽羅がそこに指をやり、「……血が出てる」と言った。山姥切もそれを舐めて、鉄の味がしたので、ああ、と、別にたいしたことではないように拭おうとしたのだけれど、大倶利伽羅が代わりにそれを拭って、痛そうな顔をした。

「……これはどういう感情なんだろうな。嗜虐心はあるくせに、あんたが痛い思いをするのは嫌だなんて、まるで俺が二人いるみたいだ」

大倶利伽羅はそのまんま、自分の親指を山姥切の口に突っ込み、もう片方の手の指も、ぐにぐにと動かした。それから舌で、山姥切の乳房を愛撫したり、首を舐めたり、とにかく山姥切がひどく声の出るようなことばかりしてきて、山姥切は声を抑えたいのに、噛むものは大倶利伽羅の指しかなくって、結局、甘い声を出して、身を捩った。大倶利伽羅が触れるところからどんどん何かがあふれてくるのに、自分のなかにどんどん溜まるものもたしかにあって、それがなんなのか、どうにも見当がつかない。そうしているうちに、また痛いのがきて、山姥切は今度こそ「いっ!」と悲鳴を上げて、大倶利伽羅の指を思いっきり噛んだ上に、背中にもひどく爪を立てた。それでパニックになって、謝ろうとするのだけれど、指を噛まされているせいで「ふぉへ、ふぉへんひゃひゃ……」と言葉にならなくって、それがまたパニックに繋がって、わけがわからなくなって、こわいと思った。痛いし、大倶利伽羅も痛いだろうし、でもどこかが気持ちよくて、頭がぐちゃぐちゃになって、山姥切はどうしようどうしようとぐるぐる、べそをかいた。そうしたら大倶利伽羅が口から指を外して、いれていた指を全部抜いて、「……下手くそですまない」と、ほんとうに身体がぴったりになるくらい、山姥切を抱きしめた。

「ちが、ちがくて……うっ……ごめ……痛く、した……指……背中……」
「……そんなのは体育館の床でスライディングした時の方が痛いんだから気にするな。むしろ俺は、あんたが痛いのは、しょうがないとはいえ、どうにも、こたえる」
「お、俺はあんたに傷をつけるのは嫌だ……痛いの程度じゃなくて……」
「……俺に傷をつけないようにする方法はいくつかあるがしかし、どれも強姦まがいの拘束プレイになるわけなんだが……正直そういうのは趣味じゃないな。……そうだな……そういえば、あんた、オナニーしたこと、ないんだよな」
「そ、そうだが……」
「あんたの指の方が、俺より細い。バスケばっかりやってきたせいで俺の指は関節が太くなっているしな。それにくらべてあんたの指は節くれ立ってもいない。一回自分でやってみろ」
「それは俺が羞恥で死ぬ!」
「……どうせ、俺がいないとダメな身体にしてやるんだから、俺がいないとき、ひとりでもできるようにしておかないと、後々困るのはあんただと思うわけだが」
「そんな計画を立てないでくれ!俺の許可を取ってからにしろ!」
「なるほど。じゃあ、そうだな……。ひとをもの扱いするのは、好みじゃあないんだが……俺の、俺だけのものになってくれ」

最後のセリフだけ、額と額をくっつけて、キスできそうでできない距離で、じっと、まっすぐに見つめられて言われたものだから、山姥切にはもうイエス以外の選択肢以外残されていなくて、けれどそれで頷いてしまうのは、最初のように自分ばっかり、という気持ちが吹き上がるだろうから、「あ、あんたも……俺のに……俺だけのに、なって……くれるなら……」と、返した。そうしたら大倶利伽羅はらしくなく少し笑って、「もうなってる」と、山姥切を抱きしめた。その、鍛え上げられた身体の筋肉のせいではないあたたかさが心地よくって、山姥切はまだ涙も乾かないのに、少し笑って、大倶利伽羅の背中に腕を回した。そうしたら、何か、どこか、具体的には脚の付け根のよくわからない部分が大倶利伽羅のどこかにちょうど擦れてしまって、「あっ!?」と嬌声が出た。

「ん?」
「あっ、あ、やだ、まって、ちょ、は、はな……ひっあ、んんんっ!」
「え、おい、ちょっと待て、」

大倶利伽羅は咄嗟に自分の脚が当たっているあたりに気が付いて、すぐ身体を離したのだけれど、山姥切はまた半泣きで、眼をとかして、びくびくと痙攣する身体を大倶利伽羅の突っ張った腕の下で、縮こまらせた。

「ふ……あ……ぁ……も、これ、こわ、こわい……ちが、ごめ……困らせ……」
「……まぁ、うん、丁度いいか」
「なにが……えっあっ!」

大倶利伽羅は、どんなに身体を小さくしても大倶利伽羅が山姥切の脚の間にいる限り存在するスペースに、また手をいれて、まだ痙攣をしているそこへ、つぷりと指を入れた。

「やっ!あっ!だめだ!ひっ……あっあっ……ま、まだ、なんか、まだ……!」
「いや、あとは痛いだけだろうから、今のうちにと思って」
「や、奥、ダメだ!……って、手前でも指曲げないでっ!あ、やっ!ひっ……」
「今、指、三本入ってる。でもあんた、さっきほどは痛くなさそうだ」
「あっあっあっ、なん……!ひっあ、あ、あ、やだ、また、あ、またなんか、も、やめっ……」
「最初からナカイキできるのは才能だと聞いたが……」
「はっ、はっ、んんっ、も、無理……!やだ、やだ、死ぬからっ!……え、やだ、なに!?なんだ!?あっ!あっあっ!?ちが、さっきとちがっ……!あ、や、あああ、あ、あっあああ!」

山姥切は脳みそに手を突っ込まれてぐちゃぐちゃにかき回されているような感覚がして、それから身体のどこからこんな感覚が、怖いくらいの快感が生まれてくるのかわからなくて、それが本当に快感なのかもわからなくて、大倶利伽羅の腕や背中や、とにかく手がふれる場所のあちこちを引っ掻いたのだけれど、結局大倶利伽羅はやめてくれなくて、追い詰められて追い詰められて、もうどこにも逃げられないというところになって、頭が真っ白になった。それはもうさっきまでのものとは全く違っていて、ずっと長く、ずっとその感覚で、身体にはぜんぜん力が入らなくなっていて、大倶利伽羅にすがっていた手も腕も、ずるずると力を無くし、ベッドの上にぽとんと落ちた。息はひどく上がり、身体は力が入らないくせにゆるくびくつき、ずっとずっと激しい快感が続いて、いつまでも「あ、あっ、あ、ひっ」と喘ぎながら、激しく呼吸をした。

大倶利伽羅は過呼吸を警戒したのか、行為を一旦やめて、「大丈夫だから、俺の呼吸に合わせて息をしてくれ」と、山姥切と額を合わせて、そこでゆっくりと、呼吸をした。山姥切も、もう何も考えられない頭で必死に、大倶利伽羅の吐いた息を吸うようにして、少しずつ、少しずつ、息を落ち着かせた。そうしたらだんだん、落ち着いてきて、泣きそうになりながらも、大倶利伽羅に首と背中にそれぞれ腕を回して、キスをして、抱きついた。大倶利伽羅も抱き返してきてくれて、それがこわいくらい、どうしてか喜んでいるような気がして、とっさに「なんで」とだけ小さく呟いたら、「あんたが少しずつ俺のになってる実感があった」と返ってきた。そのまま少し、ひそひそと可愛いような、欲望が少し詰まっているような、「すき」だとか「あいしてる」という会話をして、山姥切が、「だ、大丈夫になったから、おさまったから……その……つ、続き……」と、言った。

「……まぁ、たしかに俺も限界だな。これ以上は待てないところだった。しかしそうだな……暗いとはいえ……あんた、ちょっと眼を閉じていろ」
「……?」
「いや、今から俺は下の衣服をずらして男性器を出し、コンドームをつけなければならない」
「ええと、まずコンドームというものについて教えてくれ」
「男性用避妊具だ。薄いゴム状の伸縮するもので、それを男性器に被せてから女性器に挿入することで、先走り……まあ、射精前に出る多少の精子を含んだ液体や、射精によって排出される精子を閉じ込める。それによって相手の女性の妊娠可能性を下げると共に、性病の予防にもなる。避妊可能性は九十五パーセントにとどまるが、これを着けるのと着けないのとでは雲泥の差だ」
「……なんで俺は目を閉じないといけないんだ?」
「いや、あんたが男性器なんてものを見たら意識を失うかと思って」
「あんたは俺の見てるのにか!?不公平だ!」
「なら絶対に卒倒するなよ!?」
「立っていないのだから卒倒できないだろう!?」
「そうだな!そうだけれど言いたいのはそこじゃないし、俺はもう死ぬほど我慢したからもう知らん!」

大倶利伽羅はそうは言いつつ、山姥切にキスをして、耳や首のあたりにキスをしたり、舌を這わせたりしながら、ごそごそとポケットに忍ばせていたコンドームを取り出し、少しだけキスをしている間にその封を切り、左手で山姥切の両目を覆って、右手で器用にそれを着用した。そのあとになってから両手でもって山姥切の力の入っていない両足を持ち上げたのだから、山姥切は「いたっ」と悲鳴をあげた。

「……おい、あんた、高三の長座体前屈の記録は」
「え、……十一センチ……」
「殺されたいのか!?どうりでスカートでないときも低い場所にあるものをわざわざ屈んで取っていたわけだ!高校三年生女子なら平均は四十センチ台だからな!?ちなみに俺は五十六までいく!いいか!?あとであんた用のストレッチメニューを組むからな!?」
「この脳筋!」
「いいからもうできるかぎり膝を曲げろ!手の位置を膝の裏からずらすから!物理法則に従っておけ!」
「ひっ!やっ!どこ触ってるんだ!いたっ!腰が痛い!」
「太ももの裏だが!?今度は腰だと!?あんたほんとどうしたらいいんだ!?初体験で騎乗位させられたいのか!?」
「きじょういってなんだ!?」
「あとでみっちり教える!今はもう無理だ!……で、これくらいの体勢ならどうだ」
「……だ、大丈夫だが……」
「じゃあ、まあ、とりあえず、今からものすごく、ものすごく、かなり、死ぬほど、痛いことをはじめるわけだが、心の準備はいいか」
「……あれ、男性器をたたせる工程は……」
「随分前から勝手に勃っている」
「あ……はい。……ゆ、ゆっくり……ええと、わからないけど、ゆっくり……」
「わかってる。いいか、どこでもいいから俺のどこかにしがみついておけよ。自分の腕とか指なんて、絶対に噛むな。そんなことするくらいなら俺の首の根本あたりに噛みつけ」

大倶利伽羅はそう言うと、山姥切のそこに、自分のそれをひたりとあてがった。暗がりで、先ほども眼を塞がれていたのでわからなかったけれど、それが指よりずっと太いものだということはわかって、山姥切はとりあえず片腕を突っ張っている大倶利伽羅のそこに、片腕でしがみついた。そうしたら、熱いものがゆっくり、ゆっくりと山姥切のそこを無理矢理拡げていって、山姥切は思わず、「いっ!」と悲鳴をあげた。

「……やめておくか……?」
「や、やだ……い、いたくないから……大丈夫だから……」
「……俺は嘘は好きじゃない」
「……い、痛いけど、痛いけど、や、やめないでほしい……」
「多分これはさっきまでと違って、痛いばかりで気持ちよくなんかなれないぞ」
「別に、気持ちがいいから、するわけじゃ、ない」
「……そうか」

大倶利伽羅はどうしてか少し怖がっているような顔で、また、ゆっくりと腰をすすめた。そのぶんだけまた入り口が広がって、山姥切は大きな悲鳴を上げるような痛みに襲われたけれど、ぎゅっと歯を食いしばって、大倶利伽羅の腕にすがって、「ん、ん、」と悲鳴をかみ殺した。全部が入ってしまうまで、どうにも、体勢を変えられないらしく、大倶利伽羅は申し訳なさそうに、「耐えられないなら、そう言ってくれ」と言うから、山姥切は小さく、首肯した。

そうして、ゆっくり、ゆっくり、じりじりと山姥切の身体の中に大倶利伽羅が入り込んできて、一番痛いのは通り越したけれど、やはりどうしても痛くて痛くてたまらなくて、山姥切がすんと鼻を鳴らしたら、大倶利伽羅が「……一応、あと少しではあるが、見たところ、駄目そうだ。やめにしよう」と言った。

「どう、して……」
「あんたが、泣くから」
「っ、まだ泣いてない」
「つまり、これから泣くんだろ」
「や、やめても、泣く自信がある」
「そんな変な自信を持つな。……やはり相当痛いか……?いや、すまない、痛いと知っていても、俺にはどれくらい痛いのかわからない」
「な、泣くほどじゃない……あんたに、嫌いっていわれるより、痛くない」
「俺はセックスできなかったくらいであんたを嫌わない」
「お、俺は!あんただから!こんなこれまでの人生の中で一番痛い思いをしていてもいいって言っているんだ!ほんとうに痛いんだ!男を蹴り飛ばす女がいたことにも頷ける痛みだ!けど!……っ……あ、あんたが……ほ、ほしい……っ」
「……っ……エロ漫画も読んだことないくせになんでそんなに煽るのだけは上手いんだ!?くそっもう泣いても叫んでもやめてやらないからな!?」
「はじめからそうしろって言ってるだろ!」
「普通セックスってのはこんな怒鳴り合いながらやるもんじゃないからな!?あんたほんとうにこんな初体験でいいのか!?」
「あんたとだったらなんでもいいって言ってるだろう!?」
「だからもう煽るな!わかった!ああ、もう……なんでだ……なんでこんな雰囲気もクソもないセックスなのに、どうしてこんな、今までで一番興奮して、今までで一番……幸せなんだ……」

大倶利伽羅は、近づいた分、動けるのか、身体を倒して、山姥切にキスをした。だから山姥切は大倶利伽羅に教えてもらったように、舌を出して、絡めて、吸って、それに応えた。そうしている間にも、ずっと痛いのが続いたけれど、でもキスの時は眼を開けているから、どうしたって大倶利伽羅の欲情と色んな感情に濡れた瞳が愛おしくて、愛おしくて、それが自分によってそうなっていることに、喜びを感じた。山姥切がそうして幸福感に浸っていると、大倶利伽羅が、拙いキスから、深くて、どうしようもなくなるようなキスに切り替えてきて、山姥切の瞳をどろどろに溶かした。いつからか山姥切はキスの間にもちゃんと息ができるようになっていて、その分だけ、大倶利伽羅のものになっていたし、大倶利伽羅も山姥切のものになっていた。そうしている間に、痛いのは変わりないけれど、何かが終わったような感覚がして、その感覚を山姥切が覚えたのと、ほとんど同じくらいに、大倶利伽羅が「全部はいった」と、山姥切を抱きしめた。

「痛いだろうから、まだ動かない」
「う、動くのか」
「そうしないと、まぁ、射精に至らないからな。抜き差しするかんじで動く」
「そ、そうなのか」
「痛くなくなるってことはないだろうから、マシになったら教えてくれ。少し緩和させるから」

大倶利伽羅はそう言うと、愛おしくて愛おしくてどうしようもない、という風に、山姥切の頬から、首にかけてをするりとなぞった。山姥切が「んっ」と声を漏らすと、大倶利伽羅は「首」と言った。そうして、次は耳に触れて、やはり山姥切が反応を示すと、「耳」と言った。それから山姥切の色々なところに触れて、なぞって、反応があったところは「脇腹」、「胸」、「鎖骨」と、その場所の名前を上げ連ねていく。

「な、なんで名称を言うんだ……?」
「……あんたの性感帯を、脳に刷り込んでいる。さわると、……その、声だけでなく……わかる」
「……」

山姥切は静かに、大倶利伽羅の背中に回していた腕を外して、その耳に触れた。すると大倶利伽羅がピクリと目を細めて反応をして、だから山姥切は「耳」と言った。そこから、大倶利伽羅がやったようにするりと首までのラインをなぞり、「恰好いいな」と呟いた。そうしたら大倶利伽羅は、「……あんたはどうしようもなく、可愛い」と返した。

「今のでもう限界になった。今まで限界だったのが、さらに限界になった」
「……限界、という言葉の定義からして……」
「……今更俺が言うのもアレだが、こういうことは理論や理屈じゃ語れないものだ」

大倶利伽羅はそう言うと、山姥切の返答を待たずに、はじめはゆっくりと、それを動かした。ゆっくりと少し抜いて、少し挿入して、たしかめるように、動かした。


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