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「遅いなぁ…」


初デートとか名前ついてるから、無駄に緊張してる。ただ、新八を待ってるだけなのに。


「ちょっとがんばりすぎたかなぁ」


ガラス越しに映る姿を見て溜め息。

今日のために、と友達に教えてもらった化粧も。普段履いたことのないスカートも。何だか空回りしてる気がする。

それにしても、


デートのとき女は少し遅れてくるもんだ、なんてみんな言ったから。わざと遅れてきたのに。


「それより遅れてくるなんて…意味ないじゃない」


待ち合わせの時間からもう30分は経ってる。電話かけても繋がらない。また寝坊したんだろうけど。いつ起きるのかな。もう一回かけてみようか。出たら何て言ってやろうか。


「この私を待たせるなんていい度胸ね……なんて」


死んでも言えないわよ、そんなこと。何キャラよ私。あ、でも気合い入った。電話、かけてみよう。



3コール目で繋がった。


「もしもし」

『わりぃ!今全速力で向かってっから!』

「…ケガ、しないでね」

『大丈夫だ、心配すん…っておわ!』

「し、新八!?」


携帯の向こうで鳴り響くクラクション。あれ、意外に近いかも。辺りを見回してみると、ものすごいスピードでこっちに向かってくる人がいた。


「新八、大丈夫?さっき電話で…」

「いや、ずっとお前のこと考えて走ってたら信号赤だったのに気付かなくてよ。危うく車に轢かれるとこだったぜ」


まぁ、新八らしいと言えばらしいけど。……心臓止まるかと思った。何かあったのかって心配したのに。


「ん?お前、そのかっこ…」

「え、あ、これは、その…」


似合って、ないよね。普段履かないし、ズボンばっかだし。やっぱやめとけばよかった。


「可愛いな。スカート似合うんだから履けばいいのに」

「えっ…」


心臓ドキドキしてる。新八が、誉めてくれた、んだよね。

え、とかあ、とか言葉に詰まっていると新八は私の頭を撫でてきた。


「可愛いかっこしてんのに、待たせちまって悪いな。遅くなったけど、デート行くか」


いつも馬鹿で情けないくせに、何でこんなときだけ男らしいのよ。


「うん、行こう」



もし、今日がいつか終わるその時がくるのなら。


世界で一番
(幸せでいますように)


Lipstick/タイナカサチ
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