2.






落ち着きを取り戻した麻夜。
焦る様にこちらを見ている姿が可愛かった。


「あ、あのね、ナルト。」


「何だ…?」



俺は自分でも分からないが、
麻夜を見ていれば、
麻夜が側に居れば、幸せがこの手に詰まっている様に感じていた。


俺のその様子に少し驚いた様子の麻夜は、
その後少し恨めしそうにこちらを見た。


その姿も可愛いと思ってしまい、笑っていたら、
今度は、呆れて諦めたような顔をして、話し始めた。



「えっと、一気に話しちゃうから。
質問があったら後でまとめて聞くね。」


「……わかった。」




俺は、話の内容も分からないのに、少しその事に怯えてしまった。

けれど、麻夜の事を教えて貰えるのだと思うと、
それ以上に嬉しかった。


覚悟を決めて、麻夜を見据える。



ふぅ、と息を整えた後、麻夜は一気に吸い込み、
吐く息と同時に話し始めた。




「まず、私はこの世界の人間じゃないの。でね、何でここに居るかっていうと、私の世界での私が死んでしまったから。
で、それは運命が決めた死期じゃなかったらしくて、私は死んでから、奇抜な格好をしたお兄さんに出会った。で、そのお兄さんは私の世界の魂を調節する人らしくて、つまりは神様みたいなんだけど、その人が言うには、私はまだ死ぬ時じゃなくて、本当は私の親友が死ぬ予定だったって。
親友の代わりに死んだのは私的には別に良かったんだけど、
私に申し訳ないから、御詫びがしたいって言われて、で来たのがこの世界。
家もお金も身分証も用意してくれて、着いたのは実は一昨日なんだよね。
でも、この世界については、大体知ってるの。
何でかっていうと……、この世界は、私の世界では物語として、存在していたから。因みに主人公はナルト、君ね。
だから、物語は君が十二歳頃からスタートなんだけど、この世界の仕組みや生活については大体分かってるつもり。」



話し終え、ぜいぜいと酸欠になる麻夜。


麻夜の話は初めから終わりまでが信じ難い事ばかりで、
まるで物語を聞かされている様な感覚になった。


他の誰かが話せば一笑して終わる話だったが、

それを話したのは麻夜だという事だけで、
俺には全てが信じれてしまう。




「………質問は・・ある?」



何も言わない俺に、麻夜は不安そうな顔をしていた。


馬鹿だな、麻夜。
俺は麻夜を信じると言っただろう……。



質問をして欲しそうな麻夜に、
俺は折角だからと気になった点を聞いてみた。




「………麻夜はその物語を読んでいたのか?」


「え?うん、愛読書。
前世で一番好きな話だったよ。」



「・・・そうか。年齢は?」


「十二歳。もうすぐ十三歳になるけど。」



年齢を聞いて驚いてしまった。
落ち着いた雰囲気から、
それなりの年齢差は覚悟していたが、
まさかたったの十個違いだったとは………。


麻夜のこの落ち着きは、年齢を重ねたモノではなくて、
性格からか……と、一人納得する。







「…………死んで、後悔はなかったのか?この世界に来て・・・。」


――――後悔は無かったか?


これを聞くのには躊躇った。
麻夜の時間感覚が正しければ、
まだ死んでから三日程しか経っていない事になる………。



躊躇ったが、聞いておきたかった………。



それは麻夜の気持ちを無視した俺のエゴだと分かっていても………。




「………。う〜ん…、ないって言ったら嘘になる。けど、戻りたいとまでは思わないかな?」

「・・・何故?」




麻夜は以外にもあっさり返事を返してくれる。


「戻りたいとは思わない」
その言葉に、俺は浮かれていた。



「だって、ナルトに会えたもの。
君に会えたから、それまでの不幸なんて帳消しどころかお釣りがくるよ!」



「っ、そうか。」




麻夜は俺の喜ぶ言葉を次々に言ってのける。

平常心を保とうとしても、
麻夜の言動一つで打ち砕かれてしまう。



一番厄介なのは、
その事が「嬉しい」と感じてしまっている、この俺自身――――。




「…………ナルト、質問はそれだけ?」


「……ああ、十分だ。
有難う、話してくれて。」



「え、本当にそれだけっ?
疑わないの?自分でもあり得ない〜って思える話なんだけど!?」


俺の言葉に納得がいかないらしい麻夜。

問い詰めるように聞く麻夜に、
俺は笑いながら答える。



「言ったろ?麻夜を信じる、と。
麻夜が話した事がどんなに理解し難くても、俺は信じるさ。
それが事実なんだと、受け止める。
それに、忍術でも、死神との魂の取引をする技だってある。
全く有り得ないという事ではないと思うしな。」




そう、どんな事が起きようと、麻夜を信じている―――。

俺の真実はこれだけで十分だった。



「物分かりが良すぎだよ、そして私の事を信じ過ぎだよ………ナルトは。」



麻夜の呆れたように言う言葉に、俺は小さく笑ってしまった。
俺に釣られて、麻夜も笑う。



俺は、俺の為に麻夜が全てを話してくれたのが嬉しくて、
麻夜を信じると言った俺を信じてくれるのが嬉しかった。


誰かと笑い合えるのが、

――――――嬉しかった。






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