女王様にお願い!


高尾が変態注意!




















真ちゃんに似合うと思って。そう言って手渡されたものを見つめ、俺ははてと小首を傾げた。今日はプレゼントを貰えるような記念日だっただろうか?確かに昨日は高尾曰く《付き合って3ヶ月記念》だったが、ちゃんとプレゼントは互いに交換したはずだ。しかも今、俺の手元にあるのは名の知れたブランドもので、こんな高価なものを学生風情が手を出せるものなのか?きょとりと目を丸めながら目下にある紙袋の中にある箱を見つめていると、高尾はベッドに座る俺の足元に正座しながらじわりと頬を赤く染め、ジッと見つめてくる。それはどこか飼い主の「よし」の声を待つ犬のようだ。


「真ちゃん、これ開けてみて?」

「あぁ…………こ、これは……」


促されるままに箱のふたをあけ、俺はう、と息をつめた。というか引いた。軽く100メートルは高尾と距離ができたように思う。勿論物理的距離ではなく心の距離が、だ。もしかしてこれは高尾のいきすぎた冗談なのか?だとしたら俺は盛大に笑ってやる義務がある。いやだがしかし。チラリと見やった高尾の表情はふざけているようには見えなかった。むしろ期待に満ちた表情で俺を見つめている。最悪だ、と思った。高尾の言わんとしていることに察しがついた俺は、自身でもわかるくらい口元をヒクリとひくつかせた。


「真ちゃん、」

「嫌だ」

「お願い」

「絶対嫌なのだよ!」


バタンッ、と箱を思いきり閉めて顔を背けた。絶対嫌だ。何故男である俺がこんなものを貰わなければならないなだ。


「なんでよ真ちゃん!」

「バカ尾が!何故男が赤のハイヒールなどはかねばならないのだよ!」


似合うわけがない!憤慨しながら真っ赤なハイヒールを高尾の胸に押し付ければ、彼はヤダヤダ!真ちゃんの為に特注したんだから!と駄々を捏ねる。それはそうだろうと軽く頭を抱えながら溜め息をついた。なんせ195センチの男がはくハイヒールなど普通の店に売っているわけがない。呆れながら指の隙間から高尾の様子を窺えば、寂しそうにシュンとしながら箱を抱き締めて俺を見上げていた。その目をやめろ。俺は高尾のそういった子供が泣きだす少し前に見せるような情けない表情に弱いと自負している。そして、きっと高尾もその事に気付いているはずだ。


「ちょっとはいてみるだけ」

「……」

「外にだって出なくていいよ、俺の前ではいて見せてくれるだけでいいんだ」

「…………」

「なぁ、真太郎」

「っ、わ、わかったのだよ!はけばいいのだろう?!」


だからそんな目をするなと言ってやれば、高尾は嬉しそうにうんと言う。あぁ、またこれだ。あの表情がわざとだと分かっていても甘やかしてしまうのをどうにかせねば。そう頭を抱えながら、はいていた靴下を脱いで適当に畳んで床に置き、ズボンの裾を折り畳む。脹ら脛あたりまで折り畳んでチラリと視線を上げれば、これでもかと目を見開いて俺の足を見つめる高尾がいた。心なしか息が荒いように思うのは勘違いだと信じたい。ムスリ、と顔をしかめて眼鏡を押し上げてから、不本意だが、本当に不本意だが真っ赤なハイヒールを箱から取り出してゆっくりと足を通した。


(……本当に特注なのだな)


よく俺の足のサイズぴったりに作れたものだ。感心しながら足先を眺め、それでもやっぱり男がはくと気持ちが悪いなと小さく眉を寄せた。元々毛は薄い方だが、脹ら脛についた筋肉や足の太さはどう見たって男のもので、お世辞にも似合うとは言えそうにない。きっと高尾も思っているだろう。想像していたのと違う、と。高尾は俺に夢(という妄想)を抱きすぎなのだ。


「これで満足か?もう脱ぐぞ…」


呆れながら足先に手を伸ばせば、バッとその手を掴まれた。きょとりと目を丸くしながら高尾の名を呼べば、はぁ、と熱っぽい息を指先に感じる。


「高尾?」

「っ、ヤバイ真ちゃん。めちゃくちゃ興奮すんだけど」

「は?……っ!?た、高尾!?」


告げられた言葉に呆けた瞬間、足首を掬われて足を持ち上げられる。そしてあろうことか、高尾は俺の足にキスをしてきたのだ。いや、キスというにはあまりに生々しい、なぶるような触れ方だった。


「お前、は何をして……!?」

「ヤッベェ、踏まれてー」


俺ってM気質じゃねぇんだけどと言いながらも、唇が足を這う行為は止まらない。その上ジッと下から俺を見上げるその瞳には確かな熱情が宿っていて、ゾクリ、と背中が戦慄いた。密かにコクリと生唾を呑み込めば、ニヤリと高尾の目が細くなり、意地の悪い笑みを浮かべる。クソ、この流れはヤバイ。


「た、かお!止めるのだよ!」

「ん、はぁ、無理だわ」

「っ!」


すげぇ興奮してるもん、と悪びれもせずにそう言った高尾は、俺の足から手を放して立ち上がり、慣れた手付きで俺をベッドに押し倒す。太股に押し付けられた熱に体を強張らせれば、彼はペロリと唇を舐めて俺との距離をぐっと積めた。


「めちゃくちゃかわいい、真太郎」

「く、変態っ」


首筋に吸い付く高尾の髪を掴みながらそう言えば、触れた唇が弧を描くのを感じて俺は悔しさから唇を噛んだ。スイッチの入った高尾を止めるのは至難の技なのは普段の生活から嫌というほどわかっている。


「真ちゃん、シていい?」

「っ、聞くなバカ尾が!」


そのくせ絶対最後の判断は俺に答えを求めてくる。本当に、なんて意地の悪い奴なんだ。俺はジワリと滲んだ涙を隠すため、優しくするのだよと精一杯の強がりを見せた。


「仰せのままに、女王様?」











女王様にお願い!
(僕は君に絶対服従)











2013.01.30

変態でゲスい高尾うまい!

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