アンドロメダに響け!


珍しい。珍しいことこの上ない。あの真ちゃんがチャリアカーに乗らずに帰ると言い出すだなんて。基本、真ちゃんの通学は俺の引く(毎回じゃんけんしてんのに何故か1回も勝てない)チャリアカーと相場が決まっていたというのに。吐いた息が薄い靄になる様をぼんやり見やり、真ちゃんとこうやって並んで家路につくのは本当に数えるほどだったことを思い出す。俺と真ちゃんは恋人同士で。だけど普通の恋人同士みたいにイチャイチャとかは全然しない。俺は別にいいけど、人との距離感を上手くとれない真ちゃんはそういうのが苦手なようだったから。付き合っているからって無理強いするのは嫌だった。だからイチャイチャはしない。手も繋がない。キスだって、真ちゃんが許してくれるだろう瞬間を見計らって、キスしていいか了承を得てから。どこか独り善がりのようにも感じる恋愛。それでも、きっと真ちゃんの1番近くにいるのは俺なのだと確信を持っている俺は、ちょっと自惚れが強いのかもしれない。


「…………」

「真ちゃん?どったの?」


俯いたままに街灯の下で立ち止まった真ちゃんは、特に何を言うでもなくただただカバンの紐を握りしめている。ひょい、と下から覗き込むように近付いてみるが、真ちゃんの表情はマフラーに埋まっていてよく見えない。どうしたのだろう。もしかして何か忘れ物でもしたのだろうか。ジッと彼の反応を待っていると、不意に伸びてきた細く、綺麗な指が俺の制服の裾をキュッと摘まみ、普段とは打って変わってどこか頼りなげな、弱々しい声が「たかお、」と呼んだ。うわ、なにその声。超可愛いんですけど。


「ん?なに?」

「………、た…じょ、び」

「?」

「誕生日、おめでとうなのだよ」


驚いた。真ちゃんが俺の誕生日を覚えていただなんて。「覚えててくれたんだ」と俺の制服を摘まむ真ちゃんの手に手を重ねると、マフラーから少しだけ顔をあげた真ちゃんが「当たり前なのだよ」と小さく笑う。「高尾の誕生日だからな」と。


(っ、マジ勘弁してくれー)


恥ずかしそうに頬を染めて、そんな風に柔らかく笑わないで欲しい。今すぐ抱き締めて、キスしたくなる。


「ありがとう、真ちゃん」

「いや、だがプレゼントを用意できなくて……」

「えー、じゃあチューでいいよ」


ほっぺにチューって。冗談のように頬を指差しながらそう言えば、真ちゃんは焦ったように眼鏡の奥の瞳をギョッと開いて「ここでか!?」と唸る。真っ赤になる顔に吹き出して笑えば、真ちゃんは長い睫毛をパチパチと何度も瞬かせた。


「冗談だよ冗談!誕生日覚えててくれてただけで俺は充分嬉しいって」


「コレを言うためにチャリアカーも断ったんだろ?」と真ちゃんの手を握ったままに歩きだせば、少し後ろから「そうだ」と小さく呟く声が聞こえる。暗闇の所為か、真ちゃんは嫌がる素振りも見せずに手を繋いだままに歩いてくれた。素直な思いを表現するのが苦手な真ちゃん。そんな彼がとった行動に愛しさが募ったように思う。


「たかお」

「んー?」

「産まれてくれて、俺に出会ってくれてありがとう」

「うん」

「い、いつも傍にいてくれて、その、感謝しているのだよ」

「ははっ、うん。こちらこそ」


笑いながらそう返すと、真ちゃんは「俺の方が感謝の念は大きいのだよ」と独り言のように呟いたきり黙ってしまった。え、今の発言けっこうくるんですけど。ドキッと跳ねた心臓を自覚して、それを誤魔化すように繋いだままの真ちゃんの手にまたぎゅっと力を込めると、戸惑いがちに握り返してくれて。あぁ、くそ。柄にもなく泣きそうだ。苦笑を漏らしながら夜空を見上げれば、思いの外星が綺麗だった。


「……たかお」

「んー?」

「…………」

「どったの?」

「…………かず、なり」

「!!えっ、な、なまっ」


なんで名前!?驚きでバッと勢いよく振り返れば、瞬間、チュッと唇を奪われた。


「す、すきなのだよ、かずなり。だれよりも、すきだ」


初めての名前呼びと真ちゃんからのキス。そして滅多に言わない愛の告白。いきなり色々なことが起きてしまって頭がついていかなかった。え、なにこれ。なにこの幸せのオンパレード。もしかして俺って立ったまま眠ってんの?繋いだ手とは反対の手で頬をつねると、ビリリと走る確かな痛み。


「っ!!」

「高尾?」

「不意打ちとかずりぃから!」


あぁ、きっと俺の顔は真っ赤になっているのだろう。真ちゃんに振り回されるのはいつものことだけど、今日ほど心臓や精神を揺さぶられたことはないに違いない。知らねぇよ真ちゃん。聞いてねぇ。真ちゃんがそんなに俺を好きだなんて。そんなに真っ赤な顔して、めちゃくちゃ可愛い顔して俺の名前を呼ぶだなんて。そんなの全然知らねぇよ。


(これのどこが独り善がりだよ!)


真ちゃんはこんなに俺のことが好きなのに、それのどこが独り善がりなのだろう。


「あーくそっ!!俺も大好きだっつぅの!真太郎!!」


夜空に響くくらい、思いっきりデカイ声で叫んでやった。











アンドロメダに響け!
(僕らはこんなにも恋をしている)











2012.11.24

高尾誕小説!遅れたね!3日も!
真ちゃんは箕浦の中で1番のピュアピュアっ子です。

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