意地悪な人*勝呂がアナウンサー
*燐がサラリーマン四角い画面の中、スラスラと標準語を喋る彼を見詰めながら、俺は手元のアイスクリームを口に運んだ。彼がテレビに出ているという事だけでも驚くべき事なのに、その口から発せられる標準語にいつもの事ながら変な気持ちになる。
「なんか変な感じ」
ボソッと呟いて隣に視線をやれば、テレビに映る人物がそこにいた。ぼんやりとテレビから流れる声を聞きながらジッと彼を見れば、不意にコチラを向いた彼と視線が交わる。
「なんや?」
「んー?いや、全然訛ってねぇなぁって」
「訛り?あぁ、テレビの事か」
「そう。てか勝呂ってヒゲ剃ると若く見えるよなぁ」
高校生の頃に生やしていたヒゲは見る影もない。彼の話によると、ニュースキャスターは清潔感が大事らしく、彼のトレードマークであったヒゲは今の職に就いた際に綺麗さっぱり剃られてしまった。確かにキスする時なんかはジリジリして痛かったけど、結構カッコよくて好きだったんだけどなぁ、ヒゲ。手を伸ばして勝呂の顎をツツッと撫でれば、勝呂は目を細めて俺の手を掴む。そしてニッと意地の悪い笑みを浮かべてグッと俺の方に身を寄せた。「なんや?標準語の俺は嫌いなんか?」
「そうじゃねぇよ、なんか新鮮?みたいな?」
違う人みたい。そう言って口角を上げれば、不意打ちのようにキスされた。
「ん、なに?」
「好きだ」
「え?」
「愛してる」
「な、な、な」
スルリと頬を指先で撫でられれば、あからさまに肩が揺れる。くっそ、相変わらずカッコよすぎんだよバカ!
「絶対手放さないから、覚悟しとけ」
「っ!」
なんだよなんだよ!なんだよその恥ずかしいセリフ!!カァッと顔を赤らめると、それを見た勝呂は楽しそうにクックッと笑うからそこでやっとからかわれたのだと理解した。
「勝呂!」
「くく、堪忍堪忍。ほんまにお前はかいらしぃな」
「っ!マジで質悪ぃ!」
意地悪な人
(なのに嫌いになれないの!)
テレビの中で柔らかな笑みを漏らす勝呂を眺めながら、きっとあれは偽物なんだと顔をしかめた。だって本物の勝呂はこんなにも意地悪な笑い方をする。
「……猫被り」
小さな反抗のように呟いて、甘いキスに身を任せた。
2012.03.12
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