ねぇ、笑って?皆が帰った教室で不意に肩を掴まれたかと思えば、グッといきなり抱きすくめられた。なんでこんな事になっているのかなんてわからない。それでも彼がどこか必死だという事だけはわかっていて。
「すぐ、ろ?」
どうしたんだよ、と勝呂の制服を握りながらそう呟いた。なんで、なんでだよ。なんで勝呂は俺を抱きしめてんだ。なんでこんなに震えてんだ。わからない。わからないけど、どうにかして勝呂を安心させてやんなきゃ。
そう思い立った俺は腕を伸ばして高い位置にある勝呂の後頭部を柔らかに撫でる。瞬間、熱いヤカンに触れたかのように勝呂は俺から離れていった。体を包んでいた体温が離れた事が、何だか少し寂しく感じる。
「………………きや」
「なんだ?聞こえねぇ」
「……奥村が、好きや」
息を、呑んだ。もちろんその告白にも充分すぎるくらい驚いたけれど、それ以上に勝呂が泣いているのに驚いたんだ。いつもは厳つい目付きのくせに、凛とした雰囲気をまとっているくせに。うっすらと赤い目尻からじわじわ滲んでくるあの液体は確かに涙だろう。それは暫く鋭い瞳の中でゆらゆら揺れて、ついにはポロッとそこから溢れ落ちた。その光景が信じられない反面、何度も好きだと言って泣いた勝呂にキュンとする。どうしても好きなのだと、腕で顔を隠して泣いた勝呂を、どうしようもなく抱き締めたくて。
(……あぁ、どうしよう)
ねぇ、笑って?
(俺も勝呂のことが………)
俺は勝呂が開けた距離を積めて、ぎゅうっと自ら抱き着いた。途端にビクつく大きな体に愛しさが募ったように思う。
「おく、」
「すき」
「っ!」
「すきすきすきすき!」
俺も勝呂がすき!そう言えば、勝呂はヒュッと息を呑んでおずおずと俺の体を抱き締め返してくれて。瞬間、感情があふれるみたいに俺の瞳からも涙がぶわりとこぼれた。
2012.03.22
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