せかい


もしも世界が終わるとしたら。俺の世界が終わるとしたら。それはきっと心臓の鼓動が止まって死ぬことなんかじゃなくて、この充実した旅が終わることなのだろうと思う。大好きな仲間が、俺から離れていくことなのだろうと思う。


「眠れねぇのか」


ゾロのベッドに潜り込んでいた俺は、不意に聞こえた重低音に、ピクリと小さく肩を竦める。眠っているとばかり思っていた相手が口を聞いた事に若干驚きながら、優しく前髪をはらわれるくすぐったさに目を細めた。まわりからは静な寝息と、どこか遠くに波音が聞こえる男部屋で、ゾロとくっつくこの時間が好きだと素直に思う。


「ルフィ?」

「ん?」

「どうした?」


まるで子供をあやすようにトントン、と俺の背中を一定のリズムで軽く叩くゾロの気遣いによる行動は、その強面な顔とあまりに不釣り合いでなんだか可笑しかった。こんなゾロをサンジやナミが見たらどう思うだろう。いや、まずこんなに可愛いゾロは絶対他の奴には見せてやんねぇけど。


「ちょっとな、考え事だ」


ないしょ話しをするように、互いに顔を寄せながらそう言うと、ゾロは怪訝そうに顔をしかめ、「てめぇでもものを考える事があるんだな」とあまりに失礼な事をいうから、俺はぷぅっと頬を膨らませて眉間にシワを寄せた。本当に失礼だ。俺だって悩んだりするんだからな。


「今の俺はせんちめーとるなんだ」

「センチメンタルの間違いじゃねぇのか」


もそもそと、二人で寝るには少し狭いベッドで身動いで、すっぽりとゾロの腕の中に収まる。俺より広い肩幅とか、太い腕とか、堅い胸板とか。ゾロは俺の持っていないものをいっぱい持っていて狡い。でもだからこそこんなにも好きなのかもしれないとぼんやり感じながら、擦り寄るようにゾロの首元に額をくっつけた。


「…………ゾロ、」

「あ?」

「ゾロの世界はなんだ?」

「は?なんだその変な質問は」

「変じゃねぇもん」


全然、変じゃない。もしょもしょとそう言えば、ゾロは少しの間黙ってから、ぎゅうーっと俺の体を抱き締めた。苦しいくらいの締め付けにもがきながら、ぷはっ、となんとか顔を上げれば待ってましたと言わんばかりの素早さでちゅっ、と軽く唇を奪われて、瞬間、ぽぽぽっと頬に熱が溜まる。もう数えきれないほどしたキスだって、やっぱり不意打ちは反則だ!だってすげぇドキドキすんだもん。


「ルフィ」

「ん?なんだ?」

「ルフィ、」

「だからなんだよ」

「……俺の世界はてめぇだよ」

「う、ぇあ?」


間抜けな声がでた。本当に。いきなりの発言に頭が鈍る。何言ってんだコイツ、と顔をしかめると、ゾロはニヤリと意地の悪い顔をしてまたちゅっと不意打ちのフレンチキスを仕掛けた。


「ま、また!」

「俺の世界はルフィだ。ルフィが俺を海賊にして、ルフィが俺を仲間にして、ルフィが俺を恋人にした。今、俺が生きる場所は全部ルフィが関わってる」


だから、俺の世界はルフィだ。そう力強く言ってのけたゾロにポカンと呆けてしまった。なんだそれなんだそれ。絶対可笑しいだろ。ゾロの世界はもっとでかいはずなんだ。世界一の剣豪になるゾロの世界は、俺でできているはずがないんだ。そんな感情をいっぱいいっぱい込めながら、「へんなの」と言ってやった。顔は見れなかった。だってきっと、ゾロは酷く優しい顔をしてるから。そんなゾロをまともに見てしまったら、俺は絶対情けなく泣いてしまうに決まってる。


「変じゃねぇよ」

「変だっつーの」

「変じゃねぇ」


ゾロって頑固だ。そう思いながらぎゅうっ、と抱きつくと、優しくてでかい手が俺の髪を優しくて撫でて。気恥ずかしさからぐりぐりと額を擦り付ければ、体に電流が流れるようなエロい重低音で言葉を紡ぎ、パクリと俺の耳に噛みついた。












きみのせかい、ぼくのせかい
(きっと傍を離れたら死んでしまうから、絶対僕から離れないで)











2011.11.28

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