いつだって、君といっしょ


大学生



「旅行に行こう!」


そう意気込みながらテーブルに出された旅行パンフレットを、俺はもぐ、と口を動かしながら見下ろした。旨い?と尋ねてくる高尾に、まぁまぁだと伝えてやれば、彼は笑みを漏らしながら自身も《和成スペシャル》なるケチャップでハートの描かれたオムライスに手をつける。実際は高尾の作る料理はけっこう旨い。まぁ絶対言ってやらんが。


「何故急に旅行なのだよ」

「んー?いわゆる卒旅ってやつ」

「お前が幹事なのか?大変だな」


テーブルに出されたパンフレットには二人から五人用の案内が掲載されている。だとしたらサークル仲間と行くというわけではないのだろう。ということは同じ学科の仲のいい友人辺りか?まさか……女が混じってるなんてことはないだろうな?そんなことを考えていると、高尾はきょとりとしながら何言ってんの?と小首を傾げてみせた。


「真ちゃんが行くんだよ?」

「は?」

「だから卒旅に行くのは俺と真ちゃん」

「バカ尾が。俺はまだ学生なのだよ」


自身と俺を交互に指をさした高尾に呆れながら眼鏡を押し上げる。高尾が四年大学だったのに対し、俺は六年の医科大学。つまり高尾と俺の大学卒業の時期は二年もずれているのだ。


「だって高校んときも卒旅行けなかったし、」

「それは当日に風邪を拗らせて高熱を出したお前せいなのだよ」

「う、ごもっともで」


あの時の高尾の落ち込み様は酷かった。熱に侵されながら、高尾の家族に看病を申し出た俺に対して「ごめんね真ちゃん」と何度も謝り、情けなくふぐふぐ泣いていた。その時は馬鹿な奴だと思うと同時、俺との旅行を楽しみにしていたのだということが気恥ずかしくも嬉しかったのを覚えている。


「それにパンフレットに書かれている日程はまだ休みではないのだよ」

「え、マジで?」

「マジなのだよ」

「ちぇー、じゃあ諦めっかなぁ」


この日逃したら俺就職先の研修だし、と唇を尖らせた高尾はつまらなそうに椅子に沈む。大学の友人と行けばいいだろうと言ってやれば、真ちゃんとじゃないと楽しくないと不機嫌になった。いったい俺にどうしろというのだ。


「だいたい、別に《卒業旅行》にしなくとも旅行になど行けるのだよ」


皿の上のチキンライスをさらえながらそう言ってやる。実際、高熱を出してキャンセルした旅行はその年の夏に再度計画し直して実行したし、去年だって近場ではあったが温泉に行ったりもした。


「どうせこれからもずっと一緒にいるのだから、時間は有り余るほど存在しているのだよ」


だから無理に今いかなくてもいいだろう。そう言いながらさらえたチキンライスを口に入れて咀嚼していると、「あぁ、うん、そっか、うん」と歯切れの悪い返事が返ってくる。なんだ、納得していないのか。そう思って視線を上げれば、そこにはそっぽを向いて、なにやら必死ににやけるのを堪える(全く全然堪えきれていないが)高尾がいた。心なしか顔が赤い。


「なんなのだよ」

「いや、うん。やっぱ無自覚だよね真ちゃんは。そうだろうと思ってたよ」

「意味が分からないのだよ」


眉を寄せて高尾を見れば、高尾はへへっと笑いながらやっぱ旅行はこんどでいーやと、何故か嬉しそうにそう言った。











いつだって、君といっしょ
(さぁ、こんどはどこへ行こう?)











2013.02.23

真ちゃんが普通にデレてるんだよ!
てか真ちゃんは無自覚に高尾を喜ばしたり煽ったりするのが天才的に巧いと思うんだ(≧∇≦)

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