強がり彼氏


新世界編の最初
久々の再会後の二人



「ゾロは強くなったのか?」


刀の手入れをする俺と背中合わせにして座ったルフィは、興味津々、というわけでもなく、ただ何となく気になったという風体でそう小さく呟いた。


「そりゃ強くなっただろ」


2年間、正に死ぬものぐるいで修行したのだ。強くなっていてもらわないと困る。ジッと刃先を眺めながら小さく息を吐くと、ルフィは船を漕ぐように体を揺らし、「そっか」と相槌をうった。「強くなったのか」と、「俺の知らねぇところで頑張ってたんだな」と、まるで独り言のように言うルフィに「お前も強くなったんだろう?」と投げ掛ければ、「おぅ」と相変わらず無邪気な答えが返される。2年もの間離れていたはずなのに、ルフィはまるで変わらない。再会してまだ短いが、やはりルフィは相変わらず幼くてめちゃくちゃな船長のままだ。その事に少なからずほっとしている自分に苦笑が漏れる。


「なぁゾロ、」

「あ?」

「…………あのな?、その、」

「なんだ」


はっきりしねぇな。そう言いながら二本目の刀に手を伸ばすついでにルフィの顔を覗き込む。瞬間ドキリとした。なんだよ、その不安そうな顔は。片方しか見えない視界の中に映るルフィは珍しく泣きそうな顔をしていて驚いた。刀を一度地面に起き、片腕で体重を支えるような格好でルフィの顔を覗き込みながら名前を呼べば、ルフィはやっぱり少し不安そうな顔をしてポテリと俺の肩に頭をくっつける。「ぞろ、」と呟いた声は弱々しいが、きゅっと俺の着物を掴む手の力はあまりに強い。もしかして、と思い口角を上げ、あいた手でルフィの髪を撫でてあらわになった額に軽くキスをする。


「もしかして寂しかったか?」

「寂しくない」

「そうか」

「全然、寂しくなんかなかった」

「ふーん」


それはそれでつまんねぇなと眉根を寄せると、不意に顔を上げたルフィが小さく背伸びして、なんだと言葉を紡ぐ前にちゅっ、と閉じたままの左目の瞼に唇を押し付けた。ふわりと香る久々のルフィの香りに、まるで条件反射のように胸が跳ねる。ったく、ガキか俺は。


「こんな傷残しやがって」

「修行はきつくてなんぼだろ?それにオマエだって胸に傷つくってんじゃねぇか」

「これは、その、あれだ!あれだからいいんだ!」

「じゃあ俺もあれだからいいだろ」

「うー」


《あれ》ってなんだ、と口にしてから暫し考えて、まぁそんな細かい事はいいかと適当に流す。どうせルフィだって考え無しに出てきた言葉だったのだろうしな。だからだろう。特に反論する事ができないらしいルフィは、俺の胸に顔を埋めて悔し気にうーうー唸る。そんな姿が愛しくて、苦笑しながらくしゃくしゃと髪を撫でてやると、いきなりグンッとルフィに後ろに押され、片腕でしか体を支えていなかった俺は意図も簡単にそのまま後ろに押し倒された。その際にゴンッと後頭部を地面に打ち付け、その痛みに「うげっ」と変な声を上げる。


「ルフィ?」


打ち付けた後頭部を撫でながら、未だに俺にくっつくルフィを見下ろした。風に吹かれる黒髪は、変わらずサラサラと自由に揺れている。


「……うそだ」

「あ?」

「ほんとは寂しかった、かも」


ほんのちょっとだけ。そう言ってチラリと顔を上げたルフィの顔は赤くて、つられるように俺の頬にもじんわり熱が籠る。


「奇遇だな。俺もほんの少しくらいは寂しかったかも」


クスクス笑いながらそう言うと、ルフィはきょとんとした後、とびきりの笑顔で笑ってみせた。











強がり彼氏
(素直じゃない君が愛しい)











「本当はめちゃくちゃ寂しかったんじゃねぇの?」


からかうようにそう言えば、ルフィは途端に顔を真っ赤にした。


「はぁ!?んなわけねぇだろ!」


ばか!ばかぞろ!と真っ赤な顔して否定しても、そんなのはどう見たって照れ隠しにしか見えなくて。


「ったく、意地っ張りな船長だ」


俺はフッと表情を弛め、真っ赤なルフィを抱き締めた。











2011.11.20

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