しあわせにしてあげる


「ぞーろっ!何してんだ?」


甲板で昼寝をしていると、不意にひょこりと真っ黒でデカイ目が俺の事を覗き込んだ。クンッと片目を開けて「ん?」と声を漏らせば、ルフィがニシシッと笑いながら俺の胸に顎を乗せる。そのくすぐったさに身を捩り、くしゃくしゃと黒くて堅い髪を撫でれば、ルフィは猫のようにすりよって甘えてくるので、自然と口元も緩んでしまう。


「くすぐってぇぞ」


コロコロ笑う姿はまだまだ幼げで、こんなガキ臭い船長他にはいねぇよな、なんて事を染々と考えて苦笑を漏らした。まるで猫をあやすように顎の下をくすぐってやれば、嫌がるどころかまたうひゃうひゃ笑うから、コイツは本当に前世は猫なのではないだろうか、なんてバカなことが頭を過る。


「急に甘えるなんてどうした?」

「ニシシ、たまにはいーだろ?」

「まぁな。でもたまに、じゃなくて毎日こんな調子でも俺は全然かまわねぇぜ?船長、」


体を少し持ち上げて、チュッ、と柔らかな頬に唇を寄せた。相変わらずもちもちしたその肌を感応すべく、カプリと軽く噛みついてから触れるだけのフレンチキスを何度も送る。そうすればルフィの頬は鮮やかな桜色に染まり、その初々しい反応が酷く可愛らしい。少し伸びたルフィの横髪を耳の裏にかけ、スッと耳元に唇を寄せてから誘うように「ルフィ、」ととびきり甘い声で名前を呼べば、ルフィは簡単に俺に堕ちる。コイツは俺の声にどうしようもなく弱いのだ。それは今も例外でなく、顔を放してルフィの顔を除き込めば、すでに潤んだ瞳でトロン、とした表情をしていた。よし、堕ちた。ニタリ、と我ながら意地の悪い笑みを浮かべ、スリッと首筋を指先でなぞってキスをする。赤い鬱血を残せばルフィはピクンと体を小さく震わせるのだが、不意にハッとしたように目を見開いて「あぶねぇ!流されるとこだった!」と正気に戻る。


「チッ、いいとこなのに」

「舌打ちすんな!俺はゾロに用があって探してたんだ」


左手出して、とニコニコしながらいうルフィに小首を傾げながら、素直にそれを差し出すと、ルフィはおもむろにズボンのポケットに手を突っ込み、赤いリボンらしきものを取り出した。そして鼻歌混じりにそれを俺の薬指に結ぶのだが、如何、繊細さに欠けるルフィが結んだ蝶々結びは悲しくも縦結びになってしまっている。しかしルフィはそんな事はお構い無しのようで、俺がリボンを見つめる姿に歯を見せて笑ってみせた。


「たんじょーびおめでとー!」

「……は?」

「11日はゾロのたんじょーびだろ?」

「あー、そうだったか?」


すっかり忘れていた。キョトンとしながらそう言えば、ルフィははぁ、と困ったように溜め息を吐き腕を組む。


「ちゃんとしたプレゼントを次の島で買うつもりだったんだけどな、ナミの話によるとまだあと1週間はかかるらしいんだ」


だから島で買うのは止めた。ルフィの話はそうだったが、その話しと俺の薬指に巻かれたリボンの意味は図りかねる。ルフィの考えている事はいつもはちゃめちゃなのだが、やはり今回もいつもと変わらないらしい。苦笑を漏らしながら「で?」と話を促せば、ルフィはニシシッと笑いながらぎゅうっ、と俺の両手を包み込む。不覚にも、そんないきなりの接触にドキリとしてしまった。


「ルフィ?」

「でな、俺はいまなんも持ってねぇからゾロに俺をやる!」

「は?」

「だから、俺の人生ぜーんぶ、ゾロにやる」

「……本気か?」

「シシッ、こんな冗談言うかよ。なぁゾロ、」

「あ?」











しあわせにしてあげる!
(だから俺の全部を受け取って!)











2011.11.11

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