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お昼過ぎの食堂舎。
ピークを過ぎた頃合いだからか人がまばらで、席が選び放題だった。柴崎は迷わず角の人目につかない席を選んだ。
今日の日替わりは焼き魚かー。
そんなことを思いながら七恵が食事を始めたときだった。
「ところであんた達どこまでいってるの?」
「ん…?あんのこふぉ?」
唐突に聞かれたその質問の意味がわからなくて、首を傾げる。
口にものを入れて喋らないでよ、と眉をひそめながらも柴崎はどこか楽しそうにニヤリと笑った。
「しらばっくれんじゃないわよ。」
「え〜?なんだろう?」
しかし、本当になんのことかわからない、と困った顔をする同僚。
彼女はどうしてこんなにも鈍感なのだろうか。まあ、だからこそ退屈しないのだが。
これはもう単刀直入に聞くしかない。
そう思った柴崎は箸をそっと盆へと戻した。
この後、七恵がどんな反応を返してくるのか、柴崎には楽しみでしょうがなかった。
「わかった。言い方を変えるわ。…堂上教官とはもうキスしたの?」
ガシャン!!ガタンガタン!!!!
「あーら、あらあら。顔真っ赤にしちゃって。」
「な、だ、そ、そんなこと言うから!!」
「しっ。目立ってるわよ。」
「うぐ…。」
まさに期待通りの反応。
吹っ飛ばされた椅子を引き静かに座り直す七恵の顔は未だに真っ赤で、なんだかこっちが申し訳なくなるほど小さくなっていた。
「や、あの…堂上さんは悪くないの。私の心のじゅ、準備が…。」
「はぁ、そうだろうと思ったわ。あんたね、言っておくけどいい年した大人が3ヶ月も経ってキスもまだなんて幼稚園生もビックリするわよ!」
あからさまな溜息をつくと、七恵の肩がびくりと跳ねる。更にビシッと指を指して眼前に突き出せば、その目はまんまるく見開かれた。
さすがにここまで言えば七恵でも危機感が生まれるらしい。
思考が停止したように数秒動きを止めた。そして動き始めた彼女は、またもや柴崎の期待通りの言葉を吐くのであった。
「え!今時の幼稚園生ってそんなに凄いの!?」
「…ぷっ、あははは!!もう七恵ったら!そんな調子だとあんたの堂上教官、誰かに横からかっさらっていかれるわよ。」
「え、えぇ〜…。」
「あー、面白かった!」
「う〜…。」
散々からかって満足したようで満面の笑みを浮かべる柴崎とは反対に、七恵はがっくりと肩を落とすのだった。
まさかこの事がきっかけになりあんな事件が起きるとは、今はまだ誰も知る由もなかった。
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