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私だって…
私だって!
いつからか、そんな思いに取り憑かれていたんだ。
柴崎との一件のあと、嵐はすぐにやってきた。
「はじめまして!本日から一ヶ月お世話になります、研修生の田辺果歩です。よろしくお願いします!」
元気良く挨拶をする彼女に、周りから暖かい拍手が送られる。
研修生、という形で地元の大学生を一ヶ月の間受け入れる試みが始まったのは今年からだった。その初の研修生がこの女子学生なのだが、彼女が身につけているのは業務部の制服ではない。
「あちゃー!やっぱりあたしの制服じゃ大きかったね。」
「いえ!袖をまくってしまえば一緒ですので!」
「それもそっか!」
やたらテンションの高い笠原は、研修生の果歩と気さくに話し込んでいた。
そう、彼女は防衛部希望。
更には堂上班所属になったのだ。
同じ女性ということで指導係はもちろん笠原。
今まで女性の後輩がいなかったからか、とても笠原は楽しそうだ。
「郁、嬉しそうだね!」
「なんだか笠原が大人に見えるわね。」
人々が散らばって行く中、柴崎と七恵はそんな二人の元へやってきた。
「どういうことよ柴崎!あ、紹介するね!こっちがあたしと同室で業務部の柴崎、こっちが果歩ちゃんと同室になる同じく業務部の七恵。」
「よろしくお願いします!田辺果歩です!」
「よろしく。」
「同じ部屋なんですね!こちらこそよろしくお願いします!」
実は七恵の部屋は現在、相方がおらず一人暮らし状態だったのだ。そこへ研修生がやって来るらしい。
「おい、笠原!」
そこへ、一通り周りに指示を出し終えたであろう堂上がやって来た。
「あ、堂上教官!」
「堂上さん!」
げ、と顔をしかめる笠原とは対照的に七恵はパッと顔を綻ばせた。それを見た堂上もまた、表情を和らげる。
「七恵もいたのか…。ちょうどいい。このまま宿舎へ案内してやれ。案内が終わったら午後からすぐに訓練だからな。」
だが、すぐに表情を引き締め笠原と果歩に指示を飛ばす。その様子を七恵はニコニコ笑顔で見つめ、柴崎はニヤニヤ笑顔で見つめていた。
「…ごほん!…なんだ柴崎。言いたいことがあるならはっきり言え。」
「いいえ、なんでもありません。」
ふふ、と意味ありげに笑う柴崎。
堂上もその意味がわかってか、少し恥ずかしそうにしながらも眉間にシワを刻んで足早に去って行った。
あ、堂上さんに今日も素敵です、って言いそびれちゃった…。
恋人同士となっても以前と変わらずに七恵はいつも堂上に気持ちを伝えていた。
もはや、それが習慣みたいなものなのだ。
いまなら間に合うかも!
そう思い駆け出そうとする七恵は、次の一言に思わず足を止めた。
「堂上二正って、素敵ですね…。」
ピタリと止まる足。
振り向いたその顔は目をまんまるに見開いていて、パチクリと音がなりそうなほど瞬きを繰り返していた。
「あ、や、やだ!すみません、恥ずかしいこと言っちゃった!」
目をパチクリさせる七恵。
口をあんぐりと開ける笠原。
頬を赤らめる果歩。
そして、目を鋭く光らせる柴崎。
嵐が、やってきた。
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