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「相変わらずね。」
トボトボと帰っていく男性を不思議そうに見送る。そんな様子の同僚に声をかけたのは、黒髪ロングの凛とした女性だった。
「あ、麻子!」
「利用者はあんたの事情なんて知らないものね。」
「なんのこと?」
「あんたの彼氏さまは大変だって言ってんのよ。さ、お昼行きましょ。」
少しだけ茶化す言い方をして腰あたりを少し強めに叩く。これぐらいしても罰は当たらないはずだ。何せ、彼女は今、幸せ真っ盛りなのだから。
腰を押された本人は漸く意味を理解したようで、顔を真っ赤に染めて立ち尽くし、通りかかった笠原に声をかけられるまでそこから動けなかった。
そんな様子を陰で見ていたのは、先程の黒髪の男だった。
はぁ、とため息を一つ零す。
「おい。いつまで笑ってるんだ小牧。」
「いや、だって…くくく!すまない!昼休憩だっていうのに、カウンターに向かっていくから何かと思えば…!」
いつまで経っても笑いが収まらない同僚に、堂上は眉間のシワを更に深めた。ツボに入ってしまうほどおかしかったのだろう。周りの目も一応は気にしているらしく、何度も堪えようとしては吹き出す様はなんとも言えなかった。
もはや何度目かもわからない一連のやり取りに、堂上は少しばかり肩を落とすのだった。
変なところで天然を発揮するのは、もはや彼女の得意技だ。どれだけ露払いをしても彼女の魅力の前では、それも無駄になる。
では、一体どうすればいいのか。
そんなことを思いながらも、こんな風に努力をしている自分の姿に驚きつつ、これからもこんな心配を胸に抱き続けなければいけないのかと将来の心配をする堂上であった。
「ど、堂上さんが大変ってどういうことなの麻子ー!」
「えぇ〜…。」
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