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あれから一週間が過ぎた。
メディア良化委員会には未だこれといった動きはなく、不気味な静けさが続いていた。
七恵も漸く落ち着き始め、今日は堂上と朝から仲良くお出かけだ。
つい数週間前まで可哀想なくらい気を張り詰めていたのだから、今日くらいゆっくりして欲しい。
可愛らしいワンピースとコートを着て微笑む七恵を寮の玄関まで見送った郁は、二人の姿が見えなくなると大きくため息をついたのだった。
「堂上さん、カミツレのハーブティー美味しいですね!」
「………。」
「堂上さん…?」
「七恵、そろそろあの約束を思い出せ。」
とあるカフェ。郁のおすすめであるカミツレのハーブティーを飲みに二人で来たのだが、大好きな堂上は眉間に皺を寄せて仏頂面だ。
この男が不機嫌な理由を七恵は知っている。
「あ、あの…。篤、さん…。」
小さく名前を呼べば、さっきとは打って変わり堂上は優しげな笑顔を浮かべた。
「ああ、美味いな。」
満足したように笑ってまたティーカップを口元へ運ぶ。
「そんな顔ずるい…。」
「お互い様だろ。」
以前、研修生事件があった時に交わした約束なのだが、恥ずかしくてなかなかできず有耶無耶にしてしまっていたのだが、どうやら堂上はしっかりと覚えていたらしい。
「“堂上さん”と“敬語”を辞める、って話だったよな。」
「うっ…はい…。」
「いつまで経っても変わらないから、忘れてるんじゃないかと冷や冷やしたぞ。」
「は、恥ずかしくて…。」
「少しずつ慣れていけばいい。」
その言い方は、まるでこの先も長いんだから、と言われているような気がした。
どうしようもなく嬉しさと愛しさが込み上げてきて、七恵は自然と顔を綻ばせた。
「篤さん、大好きです。」
「知ってる。」
「はい!」
嬉しそうに笑う七恵は、とても幸せそうだった。
それを見た堂上はおもむろに七恵の手をとった。何かを探るように指を絡ませ、また眉間に皺を寄せている。
「あの、何してるんです?篤さん…。」
「ん?まあ、ちょっとな。」
どうやら怒っているわけではないようだが、お店にいる間眉間の皺が取れることはなかった。
ハーブティーを飲み終え店を出ると、時刻は昼過ぎを指していた。
自然と手が重なり、指が絡まる。
今後の話を交わしながら、二人は通りを歩いていた。
「この後はどうする?」
「最近、篤さんも忙しそうだったからのんびりできるところがいいですよね。」
「じゃあ、映画にでも行くか。」
「はい!」
早速上映時間を調べようと携帯を取り出すと、タイミング良く着信音が鳴り響いた。それは堂上も同じだったらしく、その発信者に首を傾げた。デート中にわざわざ電話をしてくるような二人ではないだけに、嫌な予感がしたのだ。
「もしもし、麻子?」
この日、図書隊全体を飲み込む大きな波が押し寄せてきた。この事件は二人の運命を大きく揺るがすこととなる。
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