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「良化隊だとぉ!?詳しく話せ!柴崎!」
あまりの大きさにビリビリと空間を震わせるほどの玄田の大声に、郁は思わずビクリと肩を揺らした。
前のめりになった玄田は今にも机をへし折りそうな雰囲気だ。
柴崎はさり気なく視線を斜め前の堂上へ向けると、玄田の数倍は怒りを滲ませた表情を浮かべていた。さながら般若のようだ。その後ろの似た者バカも同じように怒りを滲ませている。
緒方と小牧はいたって冷静で、手塚に関しては冷静を装ってはいるが動揺が隠しきれていなかった。
「七恵のファンクラブ会長だと名乗る男を突き止めました。」
「誰だ。」
間髪入れずに緒方が問いかける。
柴崎は少し言い淀んだ後、視線をあげしっかりとした声音で言い放った。
「業務部の、長谷です。」
「業務部!?っていうか長谷…?どっかで聞いたことがあるような…」
「そりゃそうよ。以前、七恵とレストランでの食事までこぎ着けたけど結局振られちゃったアイツよ。」
「あ、あー!!思い出した!!ファンクラブの会員って言ってたやつ!」
あれはまだ七恵と堂上教官が付き合っていない時期だったはず。
たった一度だけ七恵と堂上教官の間にすれ違いもあり、あまりのしつこさに七恵が折れて食事に出かけたことがあった。正確にはすぐに七恵が帰ってきてしまったのだが。
「つまり、会員じゃなくて実は会長だったんだな。」
手塚がそう言うと、柴崎は静かに首を振った。
「いいえ。あくまで長谷は会長と名乗っていた男。ちょっと問い詰めてみたら、白状したわ。実は本物の会長が別にいて、長谷はそいつに七恵の勤務状況とかを流して手助けをしていたらしいの。」
「もしかして、それが…。」
「笠原のくせに頭が回るじゃない。本物の会長こそが、メディア良化隊の幹部を務める人物だったのよ。」
なるほど、と理解するのと同時に郁にはある疑問が生まれた。
「それが何だっていうのよ?」
「今回のことで派手に動きすぎたからか他の上層部に目をつけられたらしくってね、いろいろとマズイ事もしてきてるみたいだから辞任を迫られてるらしいの。名誉挽回の為には何か大きな手柄が必要になる。」
「…つまり、これから先何かしら大きなことが起こる、と?」
「そういうこと。」
まさかこれほどまでに大事になっているとは。
誰もがきっとそんなことを胸に抱いただろう。
七恵はただ利用されたに過ぎないのだ。
爪が食い込み、皮が剥けるまで固く握り締めていた手を堂上は静かに見つめていた。
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