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手紙に返事を出した。
さすがに呼び出すというのはあまりにも危険だということで許可は下りず、手紙の内容は事前に上層部のチェックを通したものを送った。
寄せられる想いへの感謝の言葉と、そしてそれに対する自分の想いを綴った七恵らしい文面だった。
返事を出して数週間。
あれから例の手紙はピタリと止んだ。
郁や七恵は手を取り合って喜んでいたが、他の堂上班は訝しげに表情を曇らせていた。
「手塚、お前どう思う?」
「…なんというか、不気味な静けさですね。」
「あれだけ雪片さんに異常な執着を見せていたのにね。」
このままで終わるとは思えないけど…。
そう続けた小牧に、堂上と手塚も頷かざるを得なかった。
これで終わってくれればそれが一番良いことではあるのだが、どうしてもすっきり解決できたとは思えない。
かと言って、何も起こらない以上はこちらからアクションを起こすのは得策ではない。どんな事が引き金となって相手を刺激してしまうかわからないのだから。
相手の出方次第とは、なんとも歯痒いものだ。
日が経つにつれて、安心するどころか不安はどんどん増していく。しかし、一番不安に思っているのは当事者である七恵のはず。
笠原と楽しそうにはしゃいでいる七恵を三人で見つめていると、その視線に気づいた七恵が此方に笑顔を向けた。
小牧が笑って手を振り返すと、また一段と嬉しそうに笑う。
「俺たちがまだ警戒を解くわけにはいかないね。」
彼女の笑顔が曇るのは嫌だな。
「そうですね。」
静かに告げられた言葉に手塚も同意を示す。
所属する部署は違えど、既に七恵は堂上班の立派な一員だった。小牧、手塚も彼女のことをとても大切にしているのだ。
全員の共通の思いはたった一つ。
自分たちがこの彼女の陽だまりのような暖かい笑顔を守る。
当の本人は笠原の腕の中へ飛び込む恒例行事中だ。
その光景を見て三人は同じ思いを胸に抱きながら、呆れたように、でも優しげに笑みを漏らしたのだった。
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