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あれから一週間が経った。
その間は書庫の中の業務のみを行い、七恵がカウンターに出ることはなくなった。

今までのケースと照らし合わせて考えた結果、利用者の中に手紙の犯人がいると考えられたため利用者から目が届かないよう徹底した策が取られたのだが、それでもなお例の手紙は減ることなく届き続けていた。

むしろ、まるで「知っているぞ」といわんばかりに七恵の休みの日には手紙が来ないという徹底ぶりだった。





「七恵…。」

昼食の時間になって書庫の机にお弁当を広げていると、郁が眉を寄せて気遣わしげな声で七恵の名前を呼んだ。

「どうしたの?」

いつものようにソプラノの声で笑って首を傾げる。すると、郁は更に悲しそうな表情で身を乗り出してきた。

「平気そうな顔しなくていいんだよ!辛い時は辛いって言わなきゃ!」

ガタン、と机が大きな音を立てた。周りに人気のない今日はやけに音が響き渡る。

七恵は突然のことに驚いて目を丸くするが、また何事もなかったかのように笑って大丈夫、と笑みを浮かべた。

その表情を見て身を乗り出したままの郁は持っていたペットボトルを強く握りしめた。




七恵はきっと自分のせいで周りに迷惑がかかってる、なんて思っているはずだ。だから少しでも重荷になりたくなくて、今でも無理して笑っているんだ。でも、化粧で隠したつもりでいるだろうけどその目の下にはくっきりと隈ができているし、いつも通りに見える笑顔にもどこか力がない。



何年、一緒にいると思ってるのよ…。
あたしが気づかないとでも思ってるの…?


幼馴染みをなめんなよ!







「七恵は悪くない!恋愛って人の自由じゃない!こんなことで騒ぎになることがおかしいのよ!」


郁が、怒鳴った。


涙を目にいっぱい溜めて真っ直ぐこちらを見ている。投げかけられた言葉は、七恵の心に深く刺さった。





最初は少しだけ嬉しかったんだ。チヤホヤされて、こんな私を好いてくれる人達がいることに舞い上がっていた。

けれどそれは段々と大きくなっていって、更にはファンクラブなるものができて…。どんどん手のつけられない事態になっていくのをただ見ていることしかできなかった。

その時に私が何か行動をしていたら…。

或いは、麻子のように上手くあしらうことができていたら、ここまで騒ぎがエスカレートすることはなかったのかもしれない。

全て私が引き起こしたこと…。

そう思うと今ここで泣いてしまってはいけないような気がして、必死に涙を笑顔の下に隠したのに。

郁には、全てお見通しだった…。



「あたし、七恵が何を思ってるのか分かるよ。幼馴染みだもの。」

「郁…。」

「七恵のせいじゃない。だから、泣いていいんだよ。」


真っ直ぐこちらを見つめる郁の顔が次第にぼやけてくる。気づけば、温かいものが頬を濡らしていた。


そっか…。いいんだ…。



そう思ったら、七恵の中ですっと何かの蓋が開いたような音がした。すると途端に堰を切ったように七恵の口から嗚咽が漏れ始めた。

郁がそっと隣に寄り添い、背中をさすってくれた。


「い、郁…。」

「…ん?」

「……辛いよ…っ…。怖いよ…。」

「うん…。七恵は堂上教官のことを好きになったこと後悔してる?」

「後悔なんてしてない!大好きだもん…。大好きなんだもん…。」

「うん。それでいいと思う。」


郁が笑顔でそう言うと、七恵も涙に濡れた顔を上げて少しだけ恥じらうように笑った。




それから数分後。ようやく七恵も落ち着いて昼食に手をつけ始めた頃だった。

「…郁。あのね、私ちゃんと自分の気持ちを話そうと思う。」

「話す?誰に?」

「手紙の人に。」

「はぁ!?!?」


さっきまで落ち込んでいたと思ったら、今度は何を言いだすんだこの子は!



あまりの驚きに声が出ず、口をパクパクと動かして七恵を見つめる。

そんな郁を他所に七恵は勢いよくタコさんウインナーを頬張ると、どこか吹っ切れたようにあらぬ方向に向かって力強く頷くのだった。






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