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一難去ってまた一難。
ぶっちゃけあり得ないでしょ。
どこぞで聞いたことがあるようなフレーズを思い浮かべながら、郁は頭を抱えていた。
研修生という嵐が去ってから、やっと平和な日常が帰ってくると思った途端コレだ。
普段は静かな筈の図書館がザワザワと騒がしい。
そのざわめきの中心へと郁は意を決して、突入していった。
「はい、はい、はい、ストーップ!!カウンターにご用がない方はお下がりくださーい!」
「用ならあるさ!」
「邪魔しないでくれ!」
「今日こそは連絡先聞くんだから!」
ドン、と強く押され郁はあっという間に人混みの外へと放り出されていた。
なんなの!こいつらー!
人が下手に出たらいい気になってー!
「応援を要請してください!」
カウンターの職員に声をかけて人混みを睨む。中心にいる人物の泣きそうな顔が目に浮かぶようだ。
今度こそ、と腕をまくって再突入しようとした瞬間。
凛とした声が場に響き渡った。
「あの!」
シン、と静まり返る。
集まっていた野次馬ですら、固唾を飲んで見守っていた。
「私、お付き合いをしている方がいるんです。だから皆さんのお気持ちにお答えできません。」
そ、それでは、と震える声で席を立つとスタスタとカウンターを出て行く。
その姿をギギギと音が鳴りそうな程、ぎこちない動きで追う例の人混みはついに追い討ちをかけられるのだった。
エントランスには、応援要請を受けて駆けつけた堂上と手塚がいた。
その姿を見つけた彼女は迷わず走り寄り、それを堂上は優しく愛おしそうな目で見つめていた。
そして、ゆっくりと頭を撫でてやると堂上が手を引き、手塚が背後について事務所の方へと消えていった。
「そんな…そんな…」
これで、ことごとく彼らは打ちのめされたのだった。
そしてこの日が、雪片七恵ファンクラブ解散事件の始まりであった。
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