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「どうしてこうなった…。」


そう呟いた堂上は、今まさに窮地に陥っていた。


「わ、私、あの…すみません!」

「落ち着け。とりあえず、そこを退いてくれないか。」


暗い部屋の中。
こんなことになろうとは。



つい先ほどのことだ。
備品をきらしていたことに気づき、手伝いを申し出た研修生の田辺と倉庫まで取りに来たところまでは良かったのだが…。








「ここが備品倉庫だ。そこに電気のスイッチがある。」

ギィ、と音を立てて扉を開くと埃っぽい匂いが鼻を刺激する。

「あ、これですね。…あれ?電気、消えそうですね…。」


パチパチと瞬きを繰り返す倉庫の蛍光灯は、今にもその寿命がつきそうだった。

どことなく不安げに田辺が眉を寄せたので、堂上は手早くこの場を去ろうとすぐさま指示を出した。

それでなくても、彼女と自分はよからぬ関係にあるなとど変な噂が立ちつつあるというのを手塚から聞いている。

七恵が悲しむようなことは、したくなかった。


「このメモに必要な備品が書いてある。俺はちょっと業務部に連絡に行ってくるから、先に戻っておけ。」


手早く指示を出し終えると、何か言いたげな田辺をそのままに踵を返す。

そういえば、最近全くと言っていいほど七恵に会えていない気がする。
業務部に寄るついでに顔を出して行こうか。久しぶりに、あの可愛らしいソプラノの声が聞きたい。


歩き出した足は少しずつ早くなって、心まで弾むようだった。


しかし。



「キャーー!」


聞こえたのは先ほど田辺を置いてきた備品倉庫からだった。


「どうした田辺!」


慌てて戻ると、そこは暗闇。
ああ、蛍光灯が切れたのかと倉庫に足を踏み出した瞬間、何かに足をとられた。


体制を崩した瞬間、何かが覆いかぶさってきて、堂上はその何かに気がつくと咄嗟に受け身の体制をとった。


「うっ!」

ドサ!という音と衝撃に僅かに声が漏れる。
まずはどこも怪我をしなかったことにはあ、と息を一つついてから、周りを目を凝らして見渡すと備品が散乱しているのが見えた。

足をとられた何かはこの散らばった備品らしい。

そして、覆いかぶさってきた何かに堂上は声をかけた。


「田辺、どうしてこうなった。」


そして冒頭に至る。




「き、急に蛍光灯が切れてしまって!そしたら、私パニックになって、いろいろ倒してしまって!あ、あの…ほ、本当にすみません!!」

「いや…。お前に一人で任せた俺の責任だ。すまない。とにかく、そこを退いてくれないか…。」


田辺がハッとして、ようやく今の体制に気がついたようだ。

倒れてきたのが田辺と気づいたから咄嗟に受け身の体制をとったものの、よそから見たらまるで押し倒されているような体制だ。

いい状況とは言えない。


しかし、肝心の田辺はいっこうに退こうとしない。



「田辺?」
「…き、です。」


再度、声をかけるとか細い声で田辺は言った。よく聞き取れなくて問い返すと、今度ははっきりと聞こえる声で彼女は言った。



「…は?」

「好き、です。堂上二正のことが。」


「だから、退きたくない、です…。」

「…お前、」


驚きに目を瞠る。


そんな時、音と共に光が差し込んだ。


ギィ…


そして、つい先ほどまで聞きたいと思っていたソプラノが部屋に響いた。







「…え?」






「あ、…七恵さん…。」







ああ、こんなことって…。






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