これはこれで悪くない / 堂上 篤



一体、どうしてこんなことになってしまったのか。


今更後悔したところで状況が変わるはずもなく。

ただ、動揺する心を落ち着かせることだけに神経を集中させる。


落ち着け、俺。
とにかく落ち着くんだ!


視界を閉ざしてあらゆる情報をシャットダウンする。
しかし、鼻からくすぐる甘い香りはどうすることもできなくて。

ただただ自分の心音が聞こえないように願うことしかできなかった。

「ま、参っちゃいましたね…。」

「あ、ああ。その、すまない。」

「なんで堂上さんが謝るんですか!?むしろ謝るのは私の方です!突然、避難警報が鳴ったから慌てちゃって…。咄嗟に近くにいた堂上さんを巻き込んで掃除用具入れなんかに…。しかも、何かがひっかかって出れなくなるなんて…。ああ、本当にすみません。」

「まあ、警報も誤作動だったんだがな…。」

「ほ、ほほ本当にすみません!!」

「こ、こら!こんな狭い中で頭を下げようとするな!」

「え?あ、わ!」


ああ、言わんこっちゃない!

二人でやっとのスペースで無理に動こうとしたからか、バランスを崩すのは目に見えていた。

業務部、いや、関東図書隊随一のドジっ子とはよく言ったものだ。



咄嗟に抱きとめてやれば、さっきよりも濃くなる甘い香り。ぎゅっと握られたシャツ。


ああ、もう、駄目だ。
理性はもう限界だった。



「………あ、ありがとうございます。」

「い、いや、その…。無理に、動くな。 その、危ないから。」

「え、あ、はい。……!!ど、堂上さん、心臓の音…。」

「…アホ。言うな…。」

「……はい。」


そっと背中に回された腕はとても細くて、暖かかった。





その後、連絡を受けて助けに来た笠原と柴崎に散々からかわれたのは言うまでもない。




これはこれで悪くない
(お互い実は満更でもなかったりして。)



♭お題:)ひよこ屋

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