なくしても、それでも / 鳴上 悠
「もういーかーい?」
「まーだだよー!」
「もういーかーい?」
「…まーだだよー!」
「………もーいーかーい!?!?」
「あははっ!もーいーよー!」
遠くで笑う声と合図が聞こえた!
座っていた場所から立ち上がると一目散に駆け出す。
「ここかなー?」
浴室。
「それともここかなー?」
押入れ。
「今度こそ、ここかなー!?」
家庭菜園。
「実はここだったりしてー!?」
ガチャリと思いっきりドアを開け放つと、部屋の主はソファーから少しずり落ちた格好で驚いた顔をしていた。
「び、びっくりした。なにしてるんだ、名前。」
「かくれんぼー!でも、なかなか菜々子ちゃん見つからないの。ん〜、こうなったら味方を増やすのみだー!」
そう言って、名前は本を読んでいたらしい彼の腕を掴み立たせる。
すると、やっとこちらの意図を理解したのか、悠は飽きれながらも本を机において立ち上がったのだった。
「…みーつけた。」
二人掛かりで捜してやっと見つけたお姫様は、すやすやと寝息を立てていた。
お日様がポカポカとあたる、ここは確かに眠気を誘う。
洗濯物に囲まれながら眠る顔はとても幸せそうだ。
「どんな夢見てるのかな?」
「さあ。でも良い夢だといいな。」
「おにぃ…ちゃん…。おねぇ…ちゃん。」
ああ、こんなに幸せだと当たり前のように感じられる日がくるなんて思いもしなかった。
優しく菜々子の頭を撫でる悠と、穏やかな寝顔の菜々子。
この二人がいれば、私はもうきっと孤独になんか負けない。
きっと。
なくしても、それでも(また私は温もりを求める)
(それが私の力になるから)
♭お題:)ひよこ屋
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