その弐



まずは状況を整理しよう。
紫月は変な時間に目が覚めて、眠くもないしやる事もないから散歩に出かけた。そこで久々に火の玉をみてしまって、神社にたどり着くとどっからどうみても人間じゃないモノに遭遇してしまった。こういうこと、口で説明するには簡単だが、

「どうしよう白露、あのニンゲン俺らのこと見えてるっぽい」
「しかも慌ててないな、常日頃から見えるタイプか?」
「話しかける?」
「おいおい、おれら一つ目と狐だぜ?ビビられる通り越して失神とかしたらどーする?この上なくめんどくせぇ」
「いや…そう言うこと以前にガン見してくるし」

コソコソ話をしているが、どうやら紫月は耳が良かったようで、所々聞こえていた。話しかけてもいいのか、大いに迷う。すると、しびれを切らしたのか狐と言われた少年が近寄ってきた。

「ええっと、見える?」
「……至極残念ながら見えます」

すると彼は、耳と尻尾をピンッ!と張って目を見開いた。

「まじまじまじ!?どーしよ白露!やっぱりこの子見えてるって!確実に!」

「はあ!?」と大きな声を出して近寄ってきたのは、目がひとつしかなかった。錯覚だと思ってたのはどうやら真実だったようで、紫月は顔に出さないが相当困惑していた。

「マジかぁーこのご時世にどんだけ霊力もって産まれてきたんだよ」
「白露!見えてる!見えてるよこの子!」
「わぁーてるよ、ったくアンタも災難だな、俺たちが見えちゃって」
「ええっと…」

喋ってるけれど、現実味がわかない。
確かに自分は起きたが、もしかしたら夢かもしれない。そう自分を納得させようとした。

「君名前はなんていうの?」
「なまえ…?」
「うん、俺は天音っ!天の音って書いてあまねってよむんだ」
「わ、私は紫月。紫に月でしづき」
「へぇ、いい名だ」
「えっと…あなたは…?」
「白露、白いに結露の露ではくろだ、よろしくね紫月ちゃん♪」

スッと差し出された手を見て「はぁ」と、やる気なく返事をして手を握り返した。

「…エラく落ち着いてるけど、俺らみたいなの見るのは初めてじゃない?」
「ええ、まぁ。火玉とか怨霊とか地縛霊とか色々…妖怪に会うのは流石に初めてですケド」
「うわー本当に霊感強いんだねぇ」
「…まぁ慣れました」

慣れとは恐ろしい。最初こそ初めてに驚くがよくよく考えたらいつもと同じ、人ならざるモノとわかるとだいぶ気持ちが落ち着いてくる。そして、紫月は事を大きくしても無駄ということを知っていた。見えるのは自分しかいないのだから、言ったって騒いだって伝えたって無駄なのだ。だったら、事を受け入れて諦めて冷静になるしかないのだと、たった17年で悟ったのだ。

「ところで、紫月ちゃんはどうしてこんな時間うろついていたんだ?」
「そうそう!いくら超過疎化の限界集落まがいのド田舎でもあぶないよー!」
「夜中に目が覚めて、変に頭も冴えちゃったから散歩するしかないなって…読みたい本もちょうど読み終わってたから」
「ふぅん、それでも危ないことには変わりないよ」

白露と名乗った青年のような一つ目はパチンと指を鳴らして火の玉をだした。青白い色ではなく落ち着くようなオレンジの炎だ。

「送ってくよ、ホントはニンゲンに毒だからこんなに関わっちゃダメなんだけど、君なら良さそうだ」
「わっ白露やっさしー!俺もついてくーー!」
「え、いいですよ、田舎ですし」

「あのねぇ」そう言って近づいてきた白露に少し驚いて、半歩下がる。

「女の子、デショ」

デコピンをされてパチパチ瞬きをしていると、「それに」とクスッと笑った

「あんまり無防備だと、アブナイよ?」

小声で囁かれた言葉に、何故か顔が赤くなる。また送ってくと言った白露に無言で頷き、状況がうまく飲み込めない紫月は夢のような気持ちで歩き始めた。

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