その参
その参
「しーちゃんは学生なの?高校生?中学生?」
「高校生…」
「へぇー!じゃあ何年生?3年生かな?」
「3年です…あの、」
「ん?」
「近いし、その呼び方やめてもらっていいですか?」
人玉を引き連れ、元来た道を3人(?)で歩く。その間天音はあんなふうにずっと質問攻めだ、その様子を白露はただニヤニヤしながら眺めている。
「そっかな?」
「そうです」
「でもいーじゃん!紫月のしーちゃん!」
「嫌ですよ、私に似合わない」
「んなことない!しーちゃん綺麗な目してて可愛いじゃん!」
その言葉を聞いて紫月は止まった。
綺麗な、目?
この、赤くて紅くて緋いこの目を綺麗だって?
腐ってるのではないのか、と、心の底から嫌悪がふつふつと沸き上がってきた、が、ポンと肩を叩かれ後ろを振り返るとまニヤニヤした白露がいた。
「気を悪くしないで、アイツはデリカシーなんか持ち合わせてないんだよ」
それに、と続けて後ろを歩いていた一つ目はとなりに並んできた。
「見た目なんて、気にしてたらキリねーぜ?」
その言葉は素っ気ないし、ただ言っただけのような言葉。
でも、だけど、と頭の中を埋める。
見た目なんてどうにかなるもんじゃないし、諦めるしかないってことぐらいずっと前から分かって居て理解もしていたけど、この目だけはダメなんだ。
「つーか、天音ぇお前も馴れ馴れしい」
「だってさぁー仲良くなりたいじゃん?」
「なかよく?」
そうそう!ぴょこんとしっぽや耳を器用に動かしながら、ステップを踏むように歩く彼が語り出した。
「俺たちって友達少ないってか、いないじゃん、唯一仲良かった人間の女の子も『もうババアになるんだから』って線引きして会いにこなくなったし、ようやくまた俺たちに気付いてくれる人が来たんだよ?仲良くなりたいって思うのは当たり前じゃない?そこんとこ白露はどーなのさ!むっつりスケベやろう!」
喋りながらでもそのステップは止まらない、カランコロン、カランコロン、下駄を奏でるように鳴らして歩く姿に、紫月はガラでもなくワクワクした。
非日常に慣れていた少女はようやく、事の異常さとその裏にあるトキメキに気付いてしまったのだ。
「一言余計だクソ狐、でもまあ、確かに遊び相手が居ないってのは寂しいものがあるよね、俺たちは人間よりずうっと長く生きるんだし」
「そーそー!ね、だからしーちゃん、他意とか下心とかそんなん全く無くて、極々普通のお願いなんだ」
ダンスのようなステップは突然終わり、紫月を見据える。
「俺たちと、友達になってくれない…カナ」
へらっと笑った顔は少し困ったようにも見えた。
おそらく、彼らも彼らの世界では異端的なんだろうな、とぼんやり紫月は思った。
チリリッと記憶がフラッシュバックする。
周りと違うこと、大嫌いな父親のこと、人ならざる者たち、そして今日のこと。
嫌な記憶と良い記憶が混在していて頭が痛くなった。だけど、彼女は自覚してしまったのだ、二人を見て気づいた深淵は思っていたよりも明るいトキメキという単純な感情だったことに。
「…知らない人に付いていくなと言われていますが、知らない妖怪なら、問題ないですね」
右手を天音に差し出す、流れるように当たり前のように。
「よろしく、お願いします」
表情はあまり変わらない、それでもワクワクしているのは、本人が一番わかっていた。
パアアっと花が咲いたと言う表現が似合うように笑った天音は両手でその手を取った。
「コチラこそよろしくね!しーちゃん!」
「言っといてなんだけど、紫月ちゃんは面白いねぇ」
そう言って白露も手を取った。
人間と妖怪、遠いと思っていた存在は思いのほか近かったようだと紫月はこの夜、静かに笑ったのだった。
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