春眠 | ナノ
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介入者の宴5

瞬間、赤い魔術師と若草色の槍兵との間合いのちょうど真ん中に、昏い魔力の奔流が吹き荒れた。
その魔力は、見る見るうちに凝固し屈強な黒い人型へと形をとる。



「バーサーカー!?何故ここに!」



驚くようなランサーの声が聞こえる。
だが、シャノンの表情には驚愕はなく、ただ込み上げる感情を押し殺したような表情だけが張り付いている。
そう、決まっている、このタイミングで現れたのだ。

黒い影が、キャスターとそのマスターをかばうようにこちらに居直る。


『そう、やつら、同盟を結んだのね』


シャノンの胸の内に、焦燥が湧きあがってくるが、歯をくいしばって耐える。焦れば得られる勝機すら見いだせなくなるのだ。
そう、バーサーカーの能力ではランサーの槍の前では容易く敗れ去ることは必至。
実質上1対1と言っても過言ではないはず。
ならまだ、対魔力のない彼ら相手ならば、私の魔術も通じるはず…となればまだ対処の使用はある、と考え、シャノンは深く息を吸い、魔術回路に火をともす。




と、その時、黒い騎士の総身を塗りつぶしていた霧が、渦を巻いてみるみるとけていった。
陽炎のように揺らぐ姿
死神を思わせるような暗い影は、段々と闇を剥ぎ
そうして、月にかかった雲が払われたそこには、漆黒の甲冑を細部まで露わにした騎士の姿があった。
その鎧は華美に走らず無骨にも堕ちない、猛々しくも流麗な、細緻な設え。どれほどの者が羨望の眼差しで見た事だろうと思わせるような鎧姿。


同じように霧が払われるように、ステータスが露わになってゆくのがランサーを通じてマスターに見て取れたらしく、息をのむ様子がシャノンにまで伝わってくる。




黒い騎士は鞘込めのまま携えていた剣の柄に手をかけ、鞘からゆっくりと抜き放った。
涼やかな鞘走りの音が静寂に満ちた公園に響き渡る。
だがその音に、シャノンの背筋に冷たいものが走る。
直感的に理解したのだ。
あれを抜かせてはならない、と。

そうして、バーサーカーが手に取るは一振りの剣。
今まで奴の能力で奪った仮の武器ではない、真の宝具。
冴えわたる月を照り返して輝く、魔性に落ちた剣。

どこか、先日垣間見たセイバーの剣と相通ずる意匠に、あの刻印は精霊文字か?
だが、一目見たただけでわかる、あれは本物だ。
いかに投影に特化したキャスターとはいえど、あれほどの神秘を有した宝具をそのまま再現することなど叶わないだろう。


『ステータスを隠匿する能力を持った、聖剣…?いや魔剣使いね』


名を秘する逸話を持つ英霊、今は暗く濁っているが生前はさぞかし壮麗であっただろうと思われる戦化粧、そうしてあれだけの名剣を持つとあれば、相当に名のある剣士、いや騎士かもしれない思われた。

ゆえに…



「その剣とその武練。
さぞ名のある騎士であると見受けました。
己の名に誇りがあるのであれば、私の問いに答え、名乗りを上げなさい!」

今のバーサーカーからはどうも狂気が感じられない。魔力がつきかけたマスターの意向であろうか。信じられないことだが、理性が戻っているらしい。ならば、と思いダメもとでカマをかけてみる。せめて真名だけでも持ち帰らねば、ここまでの窮地に陥った意味がない。
それにもし、自分が思っている英霊であれば、女性からの名乗りの申し出に答える可能性のほうが高いのだ。



そうして、その鋭い問いかけに

「御婦人に名を聞かれたとあっては、答えぬわけにはいきません。
わが名は、ランスロット。此度はバーサーカーのクラスをもって現界いたしました」


黒いサーヴァントは、そう、真摯さと、そしてどこか昏さを感じるような声でそう名乗った。



「ランスロット!?ではセイバーの」

ランサーの驚く声がする。
ああ、だからああもセイバーを執拗に狙ったのか、と納得をし



「かの高名な湖の騎士と相見えようとは、思ってもおりませんでしたわ。
ですが、2対1とは騎士道に反するのではなくて?」
『これで、引いてもらえたら儲けものなんだけれど…』

そう、揶揄したように問いかけてみるものの


「いや、これは戦いなどではなく、少し手荒な説得と言うやつでね。悪いが、我々にエスコートさせていただけないかな」

だが、赤いサーヴァントが皮肉気な声で横槍で、その目論見はあえなくついえる。

 
『やっぱり、そううまくはいかないわよね』


刻一刻と天秤の針が傾くように、悪化していく状況に、ぎり、と歯を食いしばった。


*****



初めて出会った時のことをランサーは思い出した。艶やかに光る髪は琥珀のように滑らかな亜麻色で、その肌は初雪の如く白く、その瞳は夜明け前の星空のような昏い紺碧色。
そう、彼女を一目見て、春の曙光が似合うような娘だと思った。


そうして今、ずっと張り詰めていた虚勢を思いがけず取り払われた彼女の姿は、普段よりも一回りほど小さく見えた。そうだ、初めてみた時、彼女は戦事などという血腥いものに合わない乙女だと思ったのだった。そんなことを、今更になって思い出した。

だからこそ、どれだけ彼女に責められようとも、シャノンの言葉に強く出ることはできなかった。その言葉には幾ら隠そうとも、誠実さがあったのからだ。


だからそんな彼女がこんな風に、無為に果てかけたことがなんて許せず、心が沸騰したように煮え立つ。


「ランサー」
「シャノン、ここは俺一人で食い止める。その隙に、マスターの所まで逃げろ」


死を受け入れられても、助けが来たことが受け入れられないとばかりに驚き体をこわばらせた、そんな彼女に見当違いとはわかっているが、心が締め付けられるように痛んだ。
だから、自分だけは彼女を何の見返りもなく守ってみせるのだといわんばかりに、彼女を背に庇いながら、そう声を掛けた。
そう、この状況では、シャノンを守りながら、彼らと打ち合うことなどできるはずもない。
せめて、彼女だけでも安全なところに逃がさなければ。
そうして、そっと小さく言葉を告げる。

「俺は騎士だからな…君を守らせてくれ」

そう、娘を心から案じた真摯な言葉を

「いいえ、逃げても同じよ。なら、ここですべて仕留めましょう」

シャノンは何のためらいもなく、真正面から切り捨てた。


******


雁夜の蟲とかって、使い魔だったら、けっこう見逃しそう。

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