春眠 | ナノ
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介入者の宴4

碧い旋風が稲妻のように走り寄り、飛ばされた体をたくましい腕で抱きとめる。

シャノンは呆然と目を見開いた。
その視界に覇気をまとい、若草色の戦支度に身を固めた男が浮かんでいる。
最初、一体それが何なのか、理解ができなかったのだ。
逞しい体に衝撃が和らげられたとはいえ、すべての衝撃を受け止めたわけではない。
そうして、咽ながら、軋む体を抱きしめる。
その動きで無事を確認したのか、シャノンを抱きかかえていた男がほっと安堵する気配がした様な気がした。

「ラ、ンサー?どうして」

咽ながら、どうして、こんなところにいるのかという問いに

「サーヴァントと戦うなど正気か!」

そう、驚くほどすごい剣幕が返ってきた。
いつもは戦場であろうと穏やかで憂いを秘めていた眼差しが、今は激情で燃えている。
その聞きなれぬ、感情を露わにした声に、シャノンは思わず身体をこわばらせ、大きく目を見張った。


「どうして助けを呼ばない!…俺が信用ならんというのはわかる。だが、命の危機に瀕しても、助力を請わないとはどういうことだ!それほどまでに俺を信用できないのか!」
「……っ―――!」

その言葉に一瞬頭が真っ白になった。
目の前で露わにされた声に、その声に含まれた色に、頭を打たれたように衝撃が走る。
それは、軋む体よりもより遥かに強くシャノンの胸を揺さ振った。


「っ!…これはケイネス殿の采配だ
お前の窮地を知った俺が助けに行かせてくれと、頼み込んだのだ」
「えっ?」


魔術師にとって利己主義が当然。
だからこそ、その言葉を理解したとたんシャノンは愕然とした。あの、ケイネスが請われたとはいえサーヴァントを寄越したということが、信じられなかったのだ。
馬鹿馬鹿しいとその考えを否定しようとする。確かに互いの状態を察知できるよう、軽い共感の魔術をかけておいたから、危機的な状態にあることには気づくだろうが、初めにそうなった場合は見捨てるとあいつも断言していたではないか。


くらり、と、世界が揺れる。
疲労とダメージが今になってきたのか、混乱続きの頭も、まるで打ち据えられたかのように痛く、くらくらと眩暈すらする。
が、それ以上に心配そうにこちらを見つめるランサーに、無性に腹が立った。


「ば、馬鹿じゃない!?主の傍を離れて私なんかを助けに来るなんて正気なの!?。サーヴァント失格よ!わかっていて!?」
「ああ、馬鹿で結構、生憎と俺はそんな生き方しかできなくてな!それはお前も知っているだろう?」
「っ!!
ええ、確かに貴方の勝手さは二日前の夜に嫌と言うほど思い知らされました!」
「なら結構、それで立てるか?」


それで気が付いた、まだランサーの腕の中にいることに。

「――――!?!?」

「もういいのかね?こちらの都合もあるのだから、あまり時間を取らせないでほしいのだが…
それで、話を進めてもいいかな」

空気を読んだキャスターの、絶妙な合いの手にシャノンは煮えくり返るほど腹立たしくなる。
だいたい、お前がこんな魔術師一人に手間取っているから、私がこんな風に混乱する羽目になったのよ!などと、内心八つ当たりじみた悪態をつきながら、キャスターをねめつける。



「いいから、今はこのキャスターだ。

…このような戦場とは無関係な女まで、恥ずかしげもなく襲うような輩に手加減入るまいな」
「あいにくと、彼女を非戦闘員とみなすのはどうかと思うがね?いや、魅力的な女性ではあるが、いささかレディとしては活発すぎやしないか?
いや、正直サーヴァントに魔力を供給しながら、おまけに打ち合える魔術師など初めて見たぞ。…本当に女かね?」
「減らず口を、ならばこの場で我が槍で貫かれようとも文句はないな、キャスターよ」


相も変わらず皮肉を飛ばしてくるキャスターの言葉に煽られたのか、あるいは怒りでか、ぼんやりと霞んだように鈍っていた思考が回りだした。

鈍る自分に喝を入れて気を取り直し、今の状況とこちらの戦力を頭の中で確認する。


まず先ほど剣を合わせた時に宝具が壊れたところを見ると、キャスターの宝具は魔術で作ったすべて贋作、投影品とみてよいだろう。
ならば、ランサーの紅槍を使えば、この戦い十分に勝算はある。

ある、はずなのだが
骨が喉に引っかかったような違和感を覚えて、シャノンは覚えた不快感に眉をしかめる。



そうして、その予感は次の瞬間確信へと変わった。

ぞわり、と全身が総毛立ち、背筋に虫が這うような悪寒が走る。
溢れでる、暴れ狂うような魔力が、魔術回路に負荷をかけ、痙攣したように疼く。
そうして、目の前の空間、冷たい電灯に照らされた今は何もないその空間から、冷たい魔力が溢れ出してくる。

その圧力に、ざあ、と血の気が引いた。
シャノンは理解したのだ。この場に、新たなサーヴァントが訪れるのだということを。

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