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介入者の宴3

その儚いほどの抵抗は、ものの数分も立たずに終わりを告げた。

無論最初から、シャノンも易々と勝てるなんて甘い希望は持っていなかった。敗北を承知の上での賭けだった。そんな、一縷の望みを託し、100に1つの可能性に賭けた一撃を、キャスターは呆気なく粉砕したのだ。


しかし、シャノンの健闘は称えられてもよいと言えるだろう。

キャスターに対魔力がないとはいえ、相手は魔力の塊、神秘の体現たるサーヴァント。魔眼を用いようにも、シャノンの停止の魔眼は、礼装によって付与された低級のもの。さらには、正面からの相手の不意を衝く意識制圧でなければ、投射型の魔眼の効果が半減する。ならば、こうも素早く動くモノを正面から捉え、行動を封じることなどできるはずもない。
ゆえに、シャノンは強化した身体能力のみで対応しなければならなかったのだ。
だからこそ、この結果は語るまでもなかったことだった。


相手は7騎のうち最弱と呼ばれるサーヴァントと言えど、人を超越し、世界に召し上げられた英霊なのだ。たとえ娘がどれほど魔術師として優れており、高位の霊が有する戦闘技術を一時的に憑依させていようとも、所詮は人の身。その境地にそう易々と届くはずがなく、使いこなすことなど遠い夢のようなもの。
何より娘が見誤っていたことは、キャスターとして召喚された英霊が、想定以上に優れた剣使いだったということであろう。

さもあらん、キャスターが得意とする戦術は、非凡でありながらも愚直なまでに鍛え上げられた剣技と、その修練によって得られた鉄の心。行動予測と戦闘経験がもたらす「心眼」こそ、彼の真骨頂である。

キャスターの剣技は優れてはいるものの、セイバーの様な苛烈さや、バーサーカーの様な絶望的なほどに隔たったものではなかった。その強さは非凡でありながらも、ただ只管己が持ち得たものを、一心に鍛錬で鍛え上げた、一だった。


だが、それ故に対抗できた。
シャノンの持つ魔眼と魔術の特性を合わせ見れば、それは「直感」に比類する。
なにより、キャスターの腕力ステータスが最低だったということも、有利に働いた。正直これであと1ランクでもキャスターの腕力ステータスが高ければ、一刀にて切り伏せられていただろう。キャスターの癖に剣士の真似事をできると言う点で、想定外だったが、反対に言えばキャスターの腕力で用いる剣技だからこそ、凌げたといっても過言ではない。


つまり、攻勢に出れなくとも、最低限防ぐことは出来たのだ。
率直に言うのであれば、もともと地力で劣っている娘の身としては、こういった手数や変則的な技巧で押してくるタイプの方が対処のしようがあった。
鍛錬のみで手に入れた「心眼」を、才能と魔術による「直感」が迎え撃つ。相手の先読を読むという、その一点に関してだけ言えば、彼らは拮抗していた。

―――だからこそ、最後にはその身体能力の差によって敗北を余儀なくされたのだが。



そう、どれほど強化しようとも、もともとの身体の能力の差から考えて当然の末路。
娘は最低限に肉体は鍛えていても、まともに剣を握ったことなど数えるほどしかなかった。挙句、この未熟極まりない降霊魔術。ただ、剣を奮うだけで、意識と霊魂の波長がずれて吐き気がするほどの眩暈に襲われるほどなのだ。

正直、あと10年、いやあと5年でいい、それだけの時間があれば、少しは結末も変わっていたかもしれない。そう、シャノンには鍛錬も、経験も、時間も、何もかもが足りていなかった。



とはいえ、不思議なことに魔力を食むこの剣の力で、相応に対処できたのは事実である。魔剣をキャスターの双剣と打ち合わせるごとにシャノンの魔術回路が満たされ、最後には双剣は雪のように溶け消えたのだ。

ここから導かれる解は、キャスターの宝具は、何らかの方法により括られた魔力の塊であるという事。即ち、投影魔術。どうやら、相手の剣は確固たる形のある宝具ではなく、魔術で作った投影品だったらしい。

また娘の貯蔵魔力量が莫大であったのが幸いしたのだろう。一度その事実を理解すれば、数太刀合わせるだけでその投影品を容易く壊する程度、容易いこと。相手の投影品で魔力を補充し、その魔力で魔術を放つことで、不利になった間合いを離す。



つまり、ある意味相性が抜群に良かったのである。
言い換えれば―――だからこそ、キャスターは手加減出来なくなったのだが。





甲高いく不快な、鉄がきしむ音とともに、思いきり弾き飛ばされた
耳元で風が悲鳴を上げる。
腕が悲鳴を上げ、筋が何本か切れた音がする。いやきっとこれは骨もいったかな、などとぼんやりとした頭で考える。
思いきり踏ん張ったからなのか、先ほどわき腹を強かに打ち据えた傷が更に広がった。


遠ざかる景色の中に、キャスターの、しまったと歯噛みするような顔が見える。
そうだろう、もとより私を人質として捕らえたかったのだ、死んでしまったら元も子もないというのに。
そうして、後ろに流れる景色を見やりながら
ああ、この勢いだと、下手したら死ぬな、と頭の片隅で嫌に冷静に理解する。
そうして、その避けようのない終わりを受け入れる覚悟は、あっけないほど簡単に受け入れられた。


―――――ここまでね


だが、そんなこと最初から分かっていた。
たとえどれほど魔術師として優れていようと、英霊にかなうわけもない。相手がキャスターとはいえ、それが油断も何もしていなければなおのこと。
おまけに白兵戦に優れている魔術師なんて詐欺だ

だから、もしこの結末を変えられるとするならば―――

「シャノン!!」

そうして、ぶつかると思った瞬間、何かに引き寄せられるような感触がして、思いのほか柔らかな衝撃が体を包んだ。


*****

投影品がこんなことで壊れるかどうかは、まあご都合主義ということで。


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