春眠 | ナノ

34

「はあ、本当にあなたたちって緊張感ないわね。――――まあ、それがいいところなんでしょうけど」
「なるほど、こうして彼らは精神のバランスをとるのですね」

呆れたように大きく嘆息して、肩を落とす凛に感心するようにうなずくラニ。
ごめん、本当にごめん。そこまで過大評価されると、むず痒くなるからやめてください。


「まさか、そこまで高尚な事、こいつらが考えているわけないじゃない」
「つまりどんな時も常に自然体でいられることを、褒めているのですね、ミス・トオサカ」
「ばっ!……そんなこと言ってないわよ!」

うん、わかっているよレオ。
凛がお人よし、で凄くいい奴だってことは。
でも、そんな風に褒められると……こう、体温が上昇しそうになる。

「だから違うって!そ、それに、そんなこと本人の前で言うこと!?」

だが真実なのだから仕方ないだろう。
別にSGのように隠すようなことでもないのだから、いいじゃないか。

「―――う、それは……そう、だけど」

だがまあ、これで少しは肩の力が抜けたのは、良かった。
硬直した思考回路では、いい案が出るわけもないのだから。


「ですが、比較的面倒な宝具かとおもいますが、ガウェインなら…いえ、貴方だからこそ押し切れるのではないですか?」
「そうね、あの子、耐久力も紙みたいだし、なにより火力もなさそうだし。ぱっと倒して、押さえつけちゃってよ。その隙にSGを引き出せばいいんだし、ねえ白野?」

簡単に言ってくれるな凛。
あと、女性を組み敷いてSGを引き出すそんな危なげな絵面を記録に残したら、あとあと君たちからどんな暴利を吹っかけられるか恐ろしくてたまらない。もう少しソフトな案をください。切実に。

だが、そんな彼らの期待に背く様に、ガウェインは沈鬱そうに黙っている。

「どうしたの、ガウェイン?」
「いいえ、もう一つ言わなければならない事実があります。彼女―――クラウダス王は目がいいのです」

白乃の問いかけに、言いづらいことを語るように重い口を開く。

「目、ですか?それは、視力。それとも――――」
「未来を見通す眼ではありませんが。観察眼、と言い換えればわかり易くあるでしょうか」
「それは……困りましたね」

ラニの問いかけに、答えられた回答。それにレオの顔が、軽く歪められる。
その事実に、こちらの分の悪さを思い知らされたのだ。
地上の戦いの場合であればいざ知らず、、この月の聖杯戦争において、相手の手を読まれるというのは、勝機を完全に失うと同義である。
相手サーヴァントに情報を得ようと、表側では散々奔走したのだから、その重要さは十分に理解している。
そんな湧き上がる疑問に促されるように、白乃は思わず言葉を漏らした。

「観察眼。それって、アーチャーの『心眼』みたいなもの?」
「ええ、または私の『直感』に比類するものでしょうね。――――ですが、正直、今の彼女は生前のそれを超えています。今の彼女の場合は……そう、未来視系統に特化した『千里眼』とも言うべきものでしょうか。」
「なにそれ、こっちが次に出す手が、全部見破られるってこと?」

柳眉をしかめて言いつのる凛に、ガウェインは首を振って宥める。

「いいえ、本来であれば、いくらスキルが優れているからとはいえ、そこまでの越権能力はないでしょう。問題は私の手が、生前打ち合ったため、彼女に知られているということ。それと―――――」
「BBですね。そもそも彼女の自己召喚能力ですらも、彼女のバックアップあってこそです。ならば、部分的に強化されていてもおかしくありません」

強化――――表側で、教会にいた青崎姉妹の片割れが行っていた魂の強化と同じようなものだろうか。

「はい、彼女の手にかかれば…おそらく、生前の因縁がある私の場合ですと、次に出す8割の手を見抜かれてしまうでしょう。ですので、申し訳ないのですが、私では―――いえ、私だからこそ力になれそうにもないのです」

そう言って、ガウェインは己の未熟さを悔いるように、眉根を寄せ、静かに口を噤んだ。
ああ、だからモニターが回復した時、ガウェインは傷だらけだったのか。
それはさぞ困難な戦いだっただろう。
お疲れ様ですガウェイン。

――――はて、なぜそんなにも微妙な顔をしているんだ白乃?
まるで、リスが砂糖菓子をなめた後に、麻婆豆腐を口にしたような顔をしているぞ。



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