春眠 | ナノ
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◆SIDE:白野

とまあ、こんな感じで、白乃が迷宮から命からがら逃げ帰ってきたものの、大変なことになったものだ。
いや、こちらも大変だったのだ。

白乃を助けようと慌てて術式を組上げる彼らの後ろで、高らかに爆笑する英雄王。
緊張に張り詰める生徒会室に響く、心底面白いといった笑い声。
白乃を案じて、映らないモニターを息をのんで注視するみんな。震えながら腹を抱えて机に伏してしまったゴージャス。

……本当に空気をもっと読んでほしいモノである。
というか、何が一体何が、彼の琴線に触れたのだろう。
いや、大体よからぬことだろうとは思うのだが。

この凄まじいギャップ。シリアスとはなんなのか。怒っていいのか心配して良いのか、さっぱりわからなくなりそうだった。だがまあ、不真面目極まりないギルガメッシュに対する怒りで、凛たちもかえって冷静になったのだから、よしとしよう。

―――――良しとしてください。


それにしても、彼女が戦闘能力まで有していたとは―――――これはいよいよ、俺の首も本格的に危ういのではないか?
というか、過去の英霊を自分に降ろすとか、ズルいにもほどがある。

大体、クラウダスって誰だ。
そこはもっと、有名どころを持ってくるところだろう。

高い屋根の上、月を背に現れる謎の英霊。
カメラが引くとともに、名乗りを上げ、『まさか、あの!?』とか、驚くカッコいいシーン。

……だというのに、こんなにもマイナーだと、名乗られても、誰だ?で終わってしまうじゃないか。折角の見せ場が台無しだ。

――――いや本当に。クラウダス王って誰だよ。
本気で聞いたこともないのだが。


「安心して、白野。私もよ」
「おや、ミス・トオサカもご存じないのですか?」
「当り前じゃない。どうしてそんなドマイナーな英霊までどうして知っているっていうのよ」
「そうですか。では、クローヴィス1世と言ったらいかがでしょうか」

クローヴィス1世。
1世………、1………………1とか2とか、世界史の教科書に出てきそうな名前だ。
かつて受けていたかもしれない試験の時に、単語の後につける数字に悩んだ、嫌な記憶がむくむくと蘇ってきそうである。

……ごめん、レオ。
実は俺、まだ記憶があいまいなんだ。
断じて、歴史の授業中に、先生の穏やかな声を子守歌に寝ていたわけじゃないはずだから。

「おや、そうですか。ですが、ラニはご存じのようですが?」
「はい、一通りの知識は師より与えられていますから。………クローヴィスというと、あのフランスを統一した王家、メロヴィング朝の始祖、で間違いありませんね?」
「ええ、その通りです」
「ふうん、まあたしかに、時期的には一応アーサー王とかぶっていたような気がするけど……よくそんな逸話まで網羅しているわね。流石は西欧財閥の当主ってことかしら」

それにレオは、軽く肩をすくめて、否定をした。


「いえ、僕も細々としたものまで網羅するほど暇ではありません。ですが、シャノンの属するリヴィエール家は彼の流れをくむといわれていますからね。彼女と接するにあたっては、あって困る知識ではありませんから」

で、そのクロー……なんとか王は、一体何をした人なのだろう。
ガウェインと顔見知りなのだから、きっと物凄いことをしたに違いないのだが。

「そうですね。アーサー王伝説の中での活躍だけで言うなら、アーサー王と敵対した人、と言うのが正しいのではないでしょうか」

そんな風に疑問に首を傾げる俺と白乃に淡々と今一番知りたい情報を、端的にラニが語ってくれた。
なんと!
悪役だったとは!
そして、それだけ!?

「ああ、あの王様ね。悪役っていうか……アーサー王に味方をした王様の城を、城を開けた隙を狙って落し多挙句、その燃えた都を見たせいで王様は発狂死したのだ〜とかいう逸話の持ち主かしら?あ、ちなみにその王の子どもっていうのが、後のランスロットになるんだけど。あと、なにかあった?金にあかせて騎士を募ったとか?」

悪役だ。まごうことなき悪役だ。完膚なきまでに悪役だ。
特に金にがめつそうなところとか、清廉潔白を旨とする騎士道物語においてマネー・イズ・パワ−しているところとか、赤とか黒とかを身に着けているところとか、物凄い悪役に違いない。ヘッドパ−ツが黒いところとかも、好感度が高いですね。
となると、彼女が目の敵にしていた青とは――――

「我が王が好んで身にまとった色ですね。王の心を表すような清廉で、目が覚めるような紺碧の衣。それを翻しながら、颯爽と戦場を進む雄々しい王の姿は、同時に敵の恐怖を誘ったものです」

ああ、さぞかし恐ろしかっただろうに。
なにせガウェイン一人でもこの火力だ。
それが徒党を組んで襲ってくるとか、どこぞの武将のように馬上で粗相をしても可笑しくないほどの悪夢だろう。
俺ならしっぽを巻いて逃げる。というか、立ち向かった蛮族とはいかなるものだろうか!!!

そう、シャノンの心に刻まれたトラウマを思っていると、レオが怪訝そうにガウェインに問いかけた。

「しかし、ガウェイン、彼女はそこまでの実力者なのですか?ステータスを見ても、正直……決して高いとは思えないのですが……」
「いえ、確かに彼女の実力はそう高いモノではありません。クラスにしてどう高く見積もってもD〜B、敵との相性が良ければ場合によりB程度と言ったところでしょうか。自力の高いものであれば、打倒すことも容易いでしょう。ですが――――私では彼女に勝利することができないようなのです」

DからBって、揺れ幅が広いことだ。というか、相性次第とはいえBはそれなりに高いと思うぞ。
そんなエリート発言は、お腹がいっぱい………
って、ガウェインが勝てないって断言した!?


「…どういうことですか、ガウェイン。―――それはあなたの過去と関係があることなのですか?」

そのレオの問いかけに、ガウェインは逡巡するように、口ごもった。そうして意を決したように語り始める。

「ええ、そうですね……いい機会ですので、お話しいたしましょう。彼の王と私の―――そして、犯された罪の話を」

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