天球儀 | ナノ
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「ばかばか!自分の真名も宝具名もわからないくせに、あんな自信満々だったの!?なによ、あの挑発!常識的に考えて、ありえないでしょ!」

燃える廃墟にオルガマリーの元気な怒声がこだまする。

「その、まず形から入ることが大事かなあ、って思って」
「恰好付けたって、実力が伴ってなかったら意味ないんだから!サーヴァント相手に勢いだけでなんとかなるとでも思ったの!?」
「はい、反省しています…」
「うっ……そ、そんな顔したって、ごまかされませんからね」

身をすくめながらも反論するも、あえなく撃沈。尚も言い募る彼女に対して、さも申し訳なさそうに見えるように、意図的に肩を落として心なしか小さくなってみると、オルガマリーは怯んだように口ごもった。実にちょろい。

「まあ、いいじゃねぇか」
「だいたい、あなたもあなたよ!何、味方面してやってきて、いきなりそっちの嬢ちゃんも試してやろうって、空気読みなさいよ。この、野蛮人!連戦することになった、マシュの気持ちにもなってみなさいよ!」
「結果として、よかっただろ。そこの嬢ちゃんも宝具を使いこなせたわけだしよ」
「そういう問題じゃない!」

あの後、キャスターの力試しによりマシュの宝具の能力も判明した。連戦になったマシュには申し訳ないことだが、サーヴァントである以上、各上の敵でも打破しうる切り札、宝具が使えなくては、話にもならない。結果として、彼のスパルタじみたおせっかいは功を制したといえよう。

ちなみに、ミリアムもその時いざとなれば助太刀に入れるように杖を構えてはいたが、真横で傍観と応援に徹していたので、これもまたオルガマリー案件になった。
問題は―――

「でも、姉さんの宝具はいったいどんな効果だったんでしょうか。いきなり、敵サーヴァントが消滅するなんて…」

そう、結局マシュと同様、ミリアムの場合も真名はおろか、宝具名までさっぱりわからないときた。

令呪を使用したことによる、ブーストによって、たまたま宝具が発動できただけでも、良しとしなければならないのだろうか、とミリアムは頭を抱える。

とはいえ、宝具にサーヴァントを倒すだけの火力はあるのだ。
なんかふわっと周囲が光って、敵が倒れるとか、一体どういう論理の展開でそうなっているのか、さっぱりわからないが―――とにかく敵が倒れるのならそれでいいか。

そう、ミリアムは自分を大雑把に納得させた。

個人的には、ビームとか大爆発とかもっと派手で分かりやすい宝具がよかったが、この際贅沢は言ってられない。必要なのは、敵を倒せるという結果だ。

だが、ミリアムとは異なり、真理を探究するという極めて真っ当な魔術師であるオルガマリーの考えは違ったらしい。

「生憎と、部外者の身では真名まで分からねぇが、ある程度の効果は想像できるわな」
「ええ、そうね」

キャスターに同意して、どこか嫌そうに顔をしかめたオルガマリーが、腕を組んでため息混じりの声を漏らす。

「―――そうなの?」
「自分の能力なのにわからないの!?……ま、まあいいわ。恐らくだけど、あれはね、神秘を解きほぐす、まあ対神秘宝具と言うべきものよ。神代の怪物メデューサなんて超弩級の神秘の塊。反面、あの黒衣のサーヴァントの腕に強く効果が及んだのは、きっと彼の腕だけがより高度な神秘で編まれていたからでしょうね」

神秘を否定することは、すなわち魔術世界の否定と同義である。魔術師であるオルガマリーにとっては、怒りしか覚えないその能力に、腹立たしいと言わんばかりに歯噛みしながらも、彼女は説明をしてくれた。

「つまり、私の宝具さえあれば、どんな魔術師もサーヴァントもイチコロってことなのね。ん?つまり、最強と言っても過言ではない…?」

強力なサーヴァントであればあるほど、旧い逸話、つまりは強い神秘によって編まれている。ただでさえ、サーヴァントはエーテル体なのだ。つまり、チート!

「どんなサーヴァントも、殴れば死ぬわ。神秘に頼らない能力持ちのサーヴァントに、精々気を付ける事ね」

殴れば死ぬ。真理である。
確かに、実際に存在した英霊でかつ、武勇などが宝具まで昇華された英霊など、まさに天敵。そうでなくても、耐久力が低いのだ。最悪、石をぶつけられただけで死ぬ。

「―――マシュ、私を護ってね」

コンマ一秒で計算したミリアムは、あっさりと最愛の妹に泣きついた。だが、これは逃げでも甘えでもない適材適所というものだろう。盾のサーヴァント・シールダーが守り、調停者であるルーラー(物理)が殴る。完璧ではないか。


「は、はい、もちろんです、姉さん」
「即座に妹に泣き付くなんて、あなたにプライドはないの!」
「もちろんですとも、オルガマリー。私は勝つためなら手段を択ばない女ですから」

突き刺さる冷たい視線に、えっへんと胸を張って答える。

「……だめだわ、この子…」






開き直りも甚だしいミリアムにあきれ果てたのか、オルガマリーは気を取り直すようにマシュへと向き直り、その宝具に名前を付ける。

『人理の礎(ロード・カルデアス)』

星見の一族が告げる、人理をただすために相応しい呼称である。


「あの、それで私の宝具の方は…」
「知らないわよ。勝手になさい」

私の命名は、と期待をこめて見つめるも、オルガマリーは氷のようにひどく冷たい言葉で、あっさりバッサリと切り捨ててきた。

「―――!」

なんたる悪逆非道か。差別だ。そんなことが許されるのだろうか、と恨みを込めてじっとりとした視線を送る。

「そ、そんな顔しないでよ、情けない。あなただって、少しでも―――カルデアの魔術師としてのプライドがあるなら、自分で考えればいいでしょう」
「所長…… 」

意地悪しないでください、といわんばかりの物言いたげなマシュの援護射撃もあってか、諦めたように彼女はしぶしぶといったように口を開いた。

「うっ、わ、わかりました。あなたにも名づければいいんでしょう!ああ、もう―――そうね…猛き神秘よ、死に絶えよ(フィニス・アンティキティラ)。よりにもよって神秘を否定するんだから、ぴったりなんじゃない」


「アンティキティラ……?」
「アンティキティラというのは、世界最古の天体運行を計算するための科学計算機、アナログコンピューターと呼ぶべきものが見つかった場所の名前です。カルデアに相応しく、そして神秘と相反するという面でもぴったりだと考えたのではないでしょうか」

聞きなれない単語にはて、と首を傾げるマスターに、マシュが誰かに教える、ということが楽しいといわんばかりに胸を張って得意げに説明をしている。

「オルガマリー…」
「ふん、この程度すらの発想力もないなんて、不勉強にもほどがあるわ。帰ったら、もう一度初期研修からやり直すべきよ」

この通り、いつも口では厳しいことを言っているが、突き放すだけではなくなんだかんだ言ってこちらを気にかけてくれる、オルガマリーがミリアムは好きだった。

たとえ、彼女がミリアムを厭っていたとしても。


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