天球儀 | ナノ
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6

「うっ……ぁ」

ミリアムは縫いとめられたように、ピクリとも動かない。いや、動けないのだ。

そもそも、魔眼というのは、視線を合わすことでその効果を強く発揮する。
視界の範囲内に入っていようとも、目が合っていなければこのように、多少の負荷がかかるだけで即座に凍りつくことはない。

だがミリアムはあの距離で、数多の英雄を石としたその魔眼を直視したのだ。
もう、呼吸すらままならないだろう。

だが、立夏たちを背にかばい続ける限り、マシュは攻勢に出ることも、ミリアムを助けに行くこともできない。
盾の陰に身を置いているから、かろうじて魔眼の効果範囲から外れているのだ。
マシュが動けば、オルガマリーはともかく、未熟な立夏はたちまちに石柱に成り果てるだろう。


「マシュ!これは石化の魔眼よ!!絶対に眼を見ては…いいえ、視界に入ってもだめ!」
「は、はい。でも、姉さんが!」
「―――っ」

ただ立ち尽くすことしかできないミリアムに黒衣のランサーが、ゆっくりと近づいていく。
血塗れた微笑みを浮かべたその美しいかんばせに

「さぁ、まずはその口から引き裂いてあげましょう―――大丈夫、彼らもすぐにあとを……」

―――杖が叩き込まれた。

「な」
「なんだって――――!」

それは吹き荒れる嵐だった。
鋭い杖が音を立てて、容赦なく女の体へと叩き込まれる。

いや、それを杖と呼ぶのはおこがましい。
良く見れば、先端部には鈍器のような装飾と、刃物が付いているのだ。
槍やメイスと言った方が正しいだろう。

「ぐっ……私の目に射止められて動けるだなんて、なんて出鱈目な対魔力」

対魔力。
それはサーヴァントのクラスに付随するスキルで魔術に対する抵抗力のことを指す。
そのランクが高ければ、一定ランクの魔術を無効化、あるいは効果を軽減するスキル。

彼女の身に備わっている対魔力が、魔眼の効果を減じているのだろう。

「っ、キャスターが肉弾戦なんて?正気の沙汰じゃありません」
「あら、すいぶんと古い考えね。それに、私がキャスターだなんていつ言ったのかしら?」
「なんですって…」
「この聖杯戦争において、7つのクラスは埋まっている。なら、呼び出されるのはエキストラサーヴァントしか許されない」
「つまりは…」
「ええ、サーヴァント・ルーラー。この聖杯戦争を正すものです」






「―――マリー!」
「わ、わかってるわよ。命令しないで!」

魔眼は視界に入ったものを封殺する。
言い換えれば、視界に入りさえしなければよいのだ。

「そうよ、大丈夫よマリー。魔眼なんて仕組みは単純なんだからそう、見られなければいいのよ。不意を突かれさえしなければこっちの勝ちなんだから…」

震える指で文様を刻み、オルガマリーが力ある言葉を口にする。
と、同時に空間が歪んだ。

「よし!これであいつは私たちを見付けられないはずよ」
「わかった。マシュ。頼む!」
「はい、マスター!」

短刀の雨は、対象を見失ったからか、止んでいた。
影のサーヴァントにも無駄打ちをしたくないという、プライドがあるのだろうか?いくつかを捨て石にして、そこらじゅうに短刀をばらまけば相手の勝ちだったろうに。

マシュが踏み込むと同時に、短刀が彼女に向かって放たれた。
だが、マシュの大盾はそれをなんなく弾き返す。
もともとわかっていたことだ。
マスターというお荷物さえなければ、マシュがこんな小物に負けるはずもない―――!

「は、ぁぁぁ!!」

マシュは大きく振りかぶり、そしてその一撃は影のサーヴァントを捕らえた。


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