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「俺が、マスターとして歴史を修正をする……?」
「そうよ、コフィンに入っていた彼らは外部からの助けがない限り解凍できない。そして、この子たちのマスターがあなただからよ!何度言ったらわかるの!?私だってできるなら私が―――」
ままならないことばかりおこる現状に、オルガマリーは唇をかんで、悔しげにつぶやいた。
「私だって不本意よ。文句があるならミリアムに言ってちょうだい。あれだけ高いマスター適性率を示しておいて、なによモチベーションって」
「ごめんなさい…でも、霊基というか精神がサーヴァント寄りになっているから、マスターがいないと万全に力が発揮できそうになくて」
「それはあなたの甘えじゃなくって?今はそんな我儘を聞ける余裕なんてどこにもないのよ。この一般人と比べるまでもなく、あなたのポテンシャルがどれだけ高いか、自分でもわかってるでしょう?カルデアのバックアップがあるとはいえ、サーヴァントの能力はマスターに左右されるんだから、合理的に考えて……」
オルガマリーは苛立たしげに厳しくミリアムを責めたてている。
だが、そんな所長に、ミリアムはどこか困ったように微笑むばかりだ
『いや、実際にマスター権の移行は難しい。彼女たちの霊基は今の状態で安定しているからね。満足なバックアップとなぜ彼女らが今になってサーヴァント化できたのか、その調査、解明ができない状態で、令呪と権限の移行を認めることはできないよ』
「―――わかりました。いいわ、どうせこの特異点を修正してカルデアに戻るまでだけの話ですもの。とにかく良いですね? ここからはわたしの指示に従って役目を果たすのです」
いまだに納得がいかないのか、わずかに口をつぐんだのち、渋々といったように言葉を絞り出した。
「で、でも」
だが、一度でもこの肩の荷を下ろせるのかと思ってしまったからか、立夏が尚も言いつのろうとしたその瞬間
『マスター!!』
二人の声が唱和した。
「きゃ!」
「―――っ!」
前に出たマシュの盾にかばわれ、短刀の雨から身を守る。
ガンガンと盾にぶち当たる音が、鼓膜にこだまする。
と同時に、どこからかジャラジャラと耳障りな音が響いて―――すぐ近くて重い鋼がぶつかり合う、鈍い音が聞こえた。
咄嗟に顔を上げると、立夏の前には、黒色の外套に身を包み、おぞましく歪んだ鎌を構えた女。
「これが……」
フードから垣間見える口元だけでも、人間離れした美しさ。
未熟な立夏でも理解できるほどの、大気をゆがめる魔力の塊
濃密な死の気配。
まだ敵意すら見せていないのに、体が凍り付いている。
見た瞬間に理解した。確かめるまでもない。
これは人間であるはずがない。
何のクラスかはわからないが、これは紛れもなくサーヴァントに他ならない
アレは、自分とそもそもステージが違う存在だ。
あんなものに、人間が叶うはずがないと直感的に感じた。
そんな絶対的な死の体現者である女を前に、ミリアムは戸惑うことなく迎え撃った。
「姉さん―――私も…私だって……!マスター、指示を!あなたがいれば、私は、私だって戦えます!」
その姿を見て、マシュも立夏と同じように震える足に力を込めて、立夏らを背にかばい盾を構える。
ああ―――なら、自分も逃げるわけにはいかない。
「マシュ!上だ!!」
「!!!」
眼の端に移った影に、反射的にマシュに指示を出した途端、それは降ってきた。
黒衣の女と同じ、影を纏った黒衣の男。異形の相貌は暗く沈み、その片腕は布で封じられているようにも見える。
「マスター!盾の陰から出ないでください!」
「くっ!」
目で追うことすらできないほど、四方を素早く飛び回る黒い影。
ランサーとは異なり、このサーヴァントは声を発することすらせずに、大きく虚空に飛び上がり、襲い掛かってくる。表情すら見えないその影から銃弾のように短刀が放たれた。
苦戦するマシュらの姿をしり目に、向かい合う白と黒の女は数度槍を交差したのちに、距離を取った。
無造作に立っているように見えて、黒衣の女には一部の隙もなく、完全にミリアムは攻めあぐねていた。
焦るミリアムに対して、黒衣の女はローブから除く口元を、妖艶にゆがませた。
「あら、もう詰み、ですか。始まったばかりなのに可哀そうに―――そうですね、大人しく無様に許しを請うのなら、彼らを助けないこともありません、と言ったらどうしますか?」
「どうもしないわ、ランサー。あなたを叩きのめして、助力に向かうだけよ。誰がそんな陰湿な申し出うけるものですか。性根がゆがみ切ってるじゃない、あなた」
「減らず口を。ええ、これを見てもそんなことを言えまるでしょうか―――?」
フードがゆっくりと持ち上がる。
そら恐ろしいほどの美貌があらわになり―――
――――瞬間、全てが凍りついた。
「嘘っ、石化の魔眼ですって?なんだってここで」
オルガマリーの声が遠い。
――――魔眼。
立夏も一度だけ聞いたことがある。
魔術師が持つ、一工程の魔術行使。
それだけで完結した魔術回路。
ただ、見るだけで相手を絡め捕る魔術の網。
黒衣の女の瞳は、一睨みで対象を石にする桁外れの神秘で編まれていた。
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