Σ-シグマ-2 | ナノ
家族の夢を始めよう


『…というわけで、今日は仕事をお休みします』

「どういうわけだっ!!う、動けない?大丈夫なのか?助けはっ…」

『平気っすよ。とりあえず子供についてなきゃいけないだけなんで』

「熱でも出し−…って、部長っ!!?」

「ではナキさん!お子さんを看病する貴女のお世話を私がしたいのでそちらへ…」



ブツッ



『これでよし』

「よしじゃなかったと思うよお姉ちゃん…!」

『平気平気、これで君が名前を教えてくれるまで一緒にいられるよ』

「………………」




携帯を閉じて隣を見れば、膝を抱えて座る男の子がこっちを見上げていた

戦国時代から現代へ新しくやってきた彼。ちびっこ組の中でも年少で、それでいて一人ぼっちなんだ




「…大丈夫だよ、お姉ちゃんはすっごく優しい人だから。俺たちも一緒だし」

「…………」

「そうでござる!ナキどのは、おやさしい!」

「ごじゅうろの方が怖いしな」

「こわいな」

「梵天丸様…竹千代…!」

「「ぎゃあっ!!?」」

『逆にビビらせてんじゃないぞ堅物男子』

「いてえっ!!?」




怖い顔した片倉くんから逃げてきたちびっこたち。怖い顔をさらに怖くしてんじゃないぞと頭を叩く

その一連の流れを男の子が驚いたように見つめる。そんな彼に、弥三郎くんが笑った




「大丈夫だよ、お姉ちゃんは優しくて…あと強いから」

「…この男よりも?」

「…こじゅうろより強いぞ」

「つよいな」

「つよいでござる」

「ぐっ…!」

『あはー、強いは語弊。逞しいよ女はね、特に我が子のことにはなりふり構ってらんないし』

「お姉ちゃんは皆のお姉ちゃんなんだ。まだ俺たちもそんなに長くすごせてないけど…きっと何があっても、俺たちを守ってくれる」

「守って…」

「うんっ」

『だから君もじゃんじゃん甘えてきてね。特に可愛い子は大好きだから、ほら、可愛い』

「っ………!」

『あ………』




顔にかかるほど長い男の子の前髪を掻き上げて視線を合わせる

そしたら直ぐに手を払われて、わしゃわしゃと髪を掻き直された
















「ナキ、これ」

『佐吉くん?あ、タオルケット』

「冷えるからヒザにかけろ。ついでに貴様もだ」

「ついでって言うな!」

『じゃあ佐吉くんも一緒に座る?おいでおいでっ』

「ナキが言うなら…よいしょっ」

「っ、あんたがとなりは、ヤダ!また俺をなぐるだろ!」

「殴っていない。朝は蹴った」

「かわんねぇし!」

『………あはー、』




1日がしばらく過ぎた頃。ちびっこたちがお風呂に入っているその時、大きなタオルケットを抱えた佐吉くんがやってきた

部屋の隅に座る私と男の子、その隣に佐吉くんが並んだ。朝こてんぱんにされたトラウマがあるのか、男の子は全力で佐吉くんを拒む


…けど朝より、佐吉くんとの会話が増えた気がする。少しずつ慣れてきてくれた男の子。もう少しかな




『お腹減ったでしょ?夕飯も一緒に食べなかったし』

「…いらない」

『でも時々、お腹の虫さんが鳴いてるよ』

「ないてない!」

「ほんっと意地っ張りなガキだよね。チビたちは今見てないからさっさと食いなよ」

「っ………!」

『おー』




私たちが話していると足元にどんっと盆が置かれる

乗っている皿には温め直された夕飯。そして仁王立ちしているのは…我らが主夫、佐助くんだった




「ガキはガキらしくしたら?アンタの小さい意地に付き合うほど、ナキさんも俺らも暇じゃないし」

『ほら、猿のお兄ちゃんが持ってきてくれたよ、優しいね』

「べ、別に人数分作ったから残すのもったいないだけだし!優しいとかじゃないし!」

「…やさいキライだ」

「このクソガキ…!」

『まぁまぁ落ち着いて。君の生意気も似たようなもんだ』




鮮やかな野菜炒めに顔をしかめる男の子。すると隣の佐吉くんが「好き嫌いすると大きくなれないぞ」て

その言葉に一瞬迷うけど、やっぱり嫌だと首を横に振る




「猿が食事当番の日に落ちた貴様は運がいい、と、ぎょうぶが言っていた」

「…そうなの?」

「明日は片倉だから安心しろ、とも言っていたな」

『うん、それは私の料理に文句を言ってんだね刑部さんしばく』

「……………」




書斎にいるであろう刑部さんを思い浮かべ、拳を握りながら舌打ちする私

…そんな私を、やはり男の子は不思議そうに見上げた














『……すー、』

「……………」




明かりを消し、真っ暗になった部屋。暗闇に目が慣れた頃、隣から聞こえてくる寝息

ちらりと見上げようとするが、寝息の主が自分に寄りかかっているのでなかなかできない




「………おもい」





気づいたら見知らぬ場所にいた。見たことのない不思議な物、広い部屋、知らない人

自分に寄りかかる…ナキと呼ばれたこの女が主らしい。結局、一口も食べなかった夕飯は足元で冷めていた





「っ………さむい」

「ならば肩まで引っぱっておけ」

「っ!!!!!」




同じく眠っていると思っていた片側から手が伸びてきた。引っ張り上げられた薄い布団

ハッと隣を見れば、ここに来て初めて出会った少年が自分を見つめている。尖ったような銀髪に、今朝の痛みを思い出して身を縮めた




「貴様、寒いのか?」

「さむくないっ」

「だが、さっき…」

「さむくない!」

「……………」

「っ…………」




声を大きくした自分に、彼はしーっと人差し指を立てた

すぐ隣では、あの不思議な女が眠っているんだ




「…明日も仕事がある。ナキはゆっくり休ませろ、とよく片倉が言っている」

「…この人、女なのに家を守ってんのか?」

「ああ」

「……つよいから」




弥三郎、と呼ばれた眼帯の少年。そして自分と年の近い子供たちが言っていた。ナキは強いと。優しくて強い、だから頼れるんだって

確かに頑固なところはあるかもしれない、と今日を振り返っていたその時。隣の佐吉が首を横に振る




「ナキはそんなに強くない」

「でも、あのコワイ兄さんをなぐってだまらせた。みんなもつよい、て」

「だが宗兵衛は、女は弱くて守る存在だと言う」

「っ………」

「ナキに力はない。だから弱い。ぎょうぶより小さいし、そのうち私の方が大きくなる」

「そりゃ…」

「初めてここに来た時、ぎょうぶは私を守ろうとした。猿が来た時、片倉が来た時、ぎょうぶはナキを助けた」

「……………」

「だから私も、助けるために貴様をたおそうとした」

「やっぱりたおそうとしてたじゃんっ!!」

「そうしなければ、ナキが傷ついたかもしれない」

「っ!!!!!!」

「ナキも、私とぎょうぶを守ろうとする。だから私もそうする、男だからな」

「男……」




…では今、自分と一緒にいるのも見張りのつもりなんだろうか?

そう疑っていると佐吉はやはり首を振る。何も言っていないのにすべて読まれているようで




「貴様ももう、ここの家の者だ」

「っ……え?」

「だからナキを傷つける敵ではない。それにナキは私たちを家族と呼ぶ」

「かぞく…じゃない、しょ」

「じきにそう思える」

「っ………!」




そう言い切った後、佐吉は大きくあくびをした。ゴシゴシと目をこする、今はどれほどの時間だろう?

確かに自分も眠い…でも、それでも、あと一言





「目がさめても…そこに、母上はいないんだよな」

「ああ」

「…そっか、」




そっと目を閉じて現実を受け入れよう














『ん……ふ、ぁあ…!いててっ、やべ、座って寝たから腰が痛い』




目が覚めるといつもと違う風景。ここは居間だ。布団の上じゃない

膝にかかるタオルケットに、そういえばあの男の子とここで寝て−…




『…って、あれ?』




ふと隣を見るとその男の子がいない。一緒にいたはずの佐吉くんもだ

時計に目をやるがいつも起きる時間より早い。いったいどこへ…キョロキョロと二人を探していたその時、




「…………」

『あ………』





男の子が、台所の方から顔を覗かせた。その手には洗った後の皿。それをカシャンと食器立てに置く

それは昨夜、佐助くんが夕飯を入れてくれたもの。そしてそのまま彼は私の方へ走ってきた




「…おはよう」

『お、おはよ』

「……………」

『えっと…』

「…………キヨ」

『え?』

「っ、島、清興ですはじめましてっ!!」

『っ…え……』

「……………」

『……うん、はじめましてキヨ、よろしくね』

「っ………!」





我が家に島さんちの清興くんがやって来ました





20141102.


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