Σ-シグマ-2 | ナノ
来れ未来の過ぎたるもの


「…………」




最近、引っ越しを済ませたばかりの家には、荷物を運んだたくさんのダンボールが積まれている

それを一時的に保管しているのは一番奥の書斎。そこから物音が聞こえた気がして佐吉は一人、扉の前に立つ


書斎に出入りするのは刑部とナキ、そして松寿丸くらいだ。しかし三人は居間で朝食中、他の奴等もしかり




「…くせ者か?」




小さく首を傾げた佐吉は、書斎への扉を開き中へ入った


すると―…





「っ、だれだっ!!?」

「ん?」





そこには、小さな子供がいた。自分よりも小さく竹千代…いや、弁丸と同じくらいだろうか

崩したダンボールの前でしりもちをついていた彼だが、佐吉に気付いた瞬間に身構える


それは自分がここに来た時と同じ殺気を孕んだ目だ




「だ、だれだって、言ってんだよ!」

「貴様こそだれだ」

「っ……!」

「む……」




まだ幼いながら佐吉も武将の子。この小さなくせ者が、自分を攻撃対象に見ていることは分かる


いつも梵天丸と喧嘩している時とは違う、本気の殺気だった。しかしやはりコレは年下で、自分が負けるはずはない

刑部であれば尚更、赤子の手を捻る程度。何も心配はいらない


だが―…




「ナキなら…」





この家の主であるあの女なら、傷ついてしまうだろうか?







「でいやあっ!!」

「ぎゃあぁあっ!!!?」










『ちょ、なんかスゴい悲鳴が聞こえたんですけど』

「安心せよ、佐吉の声ではない」

『あ、なら大丈夫―…』

「じゃねぇよっ!!明らかに餓鬼の悲鳴だっただろっ!?」

「え、弁丸さま、梵天丸、竹千代…弥三郎もここにいるだろ…佐吉のじゃないなら誰だよ!」

「まぁとりあえずは見に行くか。佐吉が向かった先であろ」

『えっと、書斎の方から聞こえたような』





………………。






「あ、ナキ!安心しろ、くせ者はとらえた!」

『おぅふ…やっぱり君が犯人か』

「ヒヒッでかした佐吉、流石よなぁ偉い子ヨイ子よ」

「褒めてる場合じゃねぇよっ!!!」




一応は刀を持った片倉くん、そして刑部さんを連れてやって来た書斎

開きっぱなしな扉をくぐり部屋へ入れば…その真ん中で、佐吉くんが小さな男の子を倒していたよ大丈夫かい




「物音がしたので来てみれば、コレがいた」

『そっか、うん、分かったから頭から足を退けてあげてね』

「だが、ナキが危ない…」

『え、私のためだったの?今の聞いた?この子可愛いんですけど!』

「いいからその餓鬼を助けてやれっ!!」

『はいはい、君、大丈夫?』

「っ!!!!?」

『あ……』




佐吉くんの足を退けて男の子を起こした瞬間、バチンと手を弾かれ隅の方へ逃げられた

一瞬、私を見たその顔は…とても怯えていたような気がする




「っ、たく…こいつも俺らと同じなんだろ?」

『たぶん…』

「おい、お前。名前は?何処の家だ?」

「…………」

『ダメだよ片倉くん、この子、完全に怖がってる』

「ぬしの顔は尚更恐ろしいゆえ」

「悪かったな…!」

『うーん…』




もう一度、男の子へ目をやる。ふわっとした茶色の前髪から覗く目は殺気だっていて、私たちを睨み続けている

そんな彼の前にとことこと駆けたのは佐吉くんだ。早速、彼がトラウマになったらしく肩が跳ねる




「おい、貴様。名は何だ?」




そう問う佐吉くんから彼は、そっと目をそらした










「それがし、弁丸ともうす!」

「ワシは竹千代だ!こっちは、ぼんてんまる!よろしくなっ」

「………おう」

「よろしくーっでござる!」

「……………」

『…なるほど、松寿くんでもあの子が何処の子か解らない、か』

「ああ。少なくとも城主の子ではない」




無理矢理居間まで連れ出したが、やはり部屋の隅っこに座る男の子

同年代の登場にはしゃぐ弁丸くんと竹千代くん。梵は人見知りを発揮してるけどそのうち慣れてくれるだろう




「それよりナキちゃん手、大丈夫かい?」

『ん?平気だよ、ちょっと切っちゃっただけだし。あの子こそ怪我してないかなぁ…』

「まったく…聞き分けない餓鬼は面倒だよね。自分の状況くらい分かってるくせにさ」

「それ、佐助が言えたことじゃ―…叩かないで!叩かないでっ!!」

『こらこら喧嘩しないの』




だが佐助くんが言うように、彼は自分の状況を知っている。知った上で私たちを敵と判断した

朝食を出してみても口にしないし…これはこれは、なかなかに大変そうだぞ




『心細いに決まってるよね…あんな小さい子が、独りぼっちなんだから』

「お姉ちゃん…」

『……………』




じっと見つめた手の甲には、男の子が手を払いのけた時についた傷

力一杯手を弾いたんだ…きっと今でも




『…よし、ちょっとごめんねー』

「っ、く、るなっ!!」

「おい、ナキっ!!?」




男の子を囲む弁丸くんたちに寄ってもらい私は彼の隣に座り込んだ

やはり暴れる彼。叩かれ蹴られるけどここは我慢だ。止めに入る片倉くんたちを制して彼と話す




『私、ナキって名前だよよろしくね。お腹すいてない?食べていいんだよ?』

「……いらない」

『そっかそっか、食べたくなったら言ってね。それまで私もここにいるから』

「っ………!」

「付きっきりと言うか?ナキ、仕事はどうする」

『浅井先輩に電話します。大丈夫だよーここは怖い場所じゃない、私が絶対に君を守ってあげるから』

「………」




ね?とできるだけ優しく声をかけるが、男の子は何も返してくれなかった

ただ、弁丸くんと竹千代くんが「それがしもー」「ワシもー」と抱き着いてくる、うんうんおいで




『あはー、ここにいる間は私が君のお母さんだから。頼ってね』

「……だ…」

『ん?』

「……俺のははうえの方が、びじんだもん」

『おぅふ…』




彼の言葉に、刑部さんがお腹を抱えて笑いだしたので近くのクッションをぶん投げた





20141026.


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