Σ-シグマ-2 | ナノ
反抗期少年と思春期青年


『…で、他の子に比べて反抗期が強いんですけどやっぱり寂しがり屋な可愛い子なんですよ』

「そ、そうか…」

『なんですか浅井先輩、普段は嫁さん自慢を聞いてあげてるのに。私の息子自慢は聞けないんですか?』

「自慢などしていないっ!!いや…そのキヨ、という息子の名は初めて聞いたからな」

『あ……末っ子ですよ末っ子、最近反抗期な末っ子』

「反抗期なお子さんにはパパが必要だと思いませんかナキさん?」

『禿げ散らかしてください明智部長。キヨには佐吉くんがいますから大丈夫です』




会社のお昼休み。昨日の残り物を詰めたお弁当を摘まみながら話すのは、最近増えた可愛い息子自慢である

今朝も他のちびっこたちと一緒に見送ってくれた。佐吉くん以外とはまだ仲良くできてないけど、ちゃんとお留守番できてるだろうか




『ちびっこの中では一番攻撃的っぽいから…弥三郎くんなら上手く仲良くしてくれるかな』

「ふふっ、ナキさんは心配性ですね。職場に連れてきたらいいでしょうに」

『それも考えましたけど…なんだか嫌な予感しかしないんで』

「何を遠慮している!ナキの子ならば我が社にとっても子宝、貴様だけで抱え込むなと何度言えば分かるっ」

『先輩…そりゃ、そうですけど我が子ながら問題児なんです見てください』

「は?」




ほら、と私が指差したのは外を見下ろせる窓

そこから覗けば会社の入り口に…





「あ………」

『あはー、見つけちゃった』




佐吉くんとキヨの手を引き困った顔をした弥三郎くんがいた










「ごめんなさい、お姉ちゃん…」

『弥三郎くんは二人についてきてくれたんでしょ?謝らなくていいよ、ありがとう。さてさて君らはどうしたのかな?』

「ナキが家を出てしばらくした後にキヨが、ナキはどこにいったと騒ぎだした」

「……………」

『うんうん、』

「そして、ぎょうぶがナキはもう帰らないぞと言ったらキヨが泣きだした」

「〜〜っ!!!」

『よし、刑部さんどつき倒す。大丈夫だよキヨ、ちゃんと私も家に帰るからね』




どうやら刑部さんの言った冗談を信じたキヨ。泣き出した彼のために佐吉くんが連れてきたらしい

そしてそれに気づいた弥三郎くんが保護者として…なんてできた子たちなんだ!




「こいつがキヨか…」

『はい、島…じゃない、我が家の清興くんです』

「清興っ!!?これはまた良い名だな!清興といえば佐和山とならび過ぎたるものと称された島左近っ!!彼は石田の…」

「ふふふ、可愛いお子さんですね」

『あ、こら明智部長!我が子に許可なく触らないでくださいっ』




長ったらしい先輩のうんちくが始まったが、誰も聞いていないようでふらふらと部長が近寄ってくる

警戒する弥三郎くんと佐吉くん。キヨは初めて見る彼をじいっと見上げた




「初めましてキヨくん。私はママの上司で、未来のパパですよ」

「・・・・・・」

「おい、キヨ、どうした?」

『初めて見る変態に戸惑ってるのかな』

「お姉ちゃん、それ失礼だよ…」

「ふふ、弥三郎くんはいい子ですね。大丈夫ですよ、さぁキヨくんも私と仲良く…」




がぶっ!!!




「っ!!!!!?」

「キヨっ!!?」

『おぉふ…!』




明智部長が触った次の瞬間、その手に思いっきり噛みついたキヨ!

慌てた弥三郎くんと部長が引き剥がそうとするけど食い込んでる、可愛い犬歯が思いっきり刺さってる




「き、キヨっ!!かんじゃダメ!」

『そうだよキヨ、ばっちいでしょ。ぺってしなさい、ぺって』

「ぺっぺっ!」

「そっちじゃなくて部長さんの手がたいへんなことにっ!!」

「心配には及びません、反抗期の息子を受け止められず何が父親ですかっ!!」

「父親違うっ!!早く手当てをしてくれ部長!午後から大切な会議があるだろうっ!?」

「ああ、そうでしたね。社長と二人きりで!会議を!昨日は楽しみで眠れませんでした、深夜まで書類を眺めてはイメージトレーニングを…」

『あれ、部長、いつも持ち歩いてる書類入れ今日は持ってませんでしたよね?』

「…………あ」

「家に忘れたのかっ!?ど、どうするんだ!兄者が来る時間までもう間が−…」

「あの…」

『……え?』




騒がしいこの場には似合わない、静かで淡々とした声が響く

それはやけに浮いていて、皆が揃って声の主の方を振り向いた。そこにいたのは…






「忘れ物を…届けに参りました」

「ああ、ご苦労様です勝家」

『…かついえ?』




部長が名を呼んだのは、真っ黒な髪を切り揃えた綺麗な男の子だった

高校生ぐらいの彼は私たちなんかに目もくれず、部長に書類入れを手渡した。それは部長が家に忘れていたもの


それを持っているということは、彼は部長の家からやって来たわけで…




『……部長の隠し子?』

「…………は?」

「ナキさん!私が貴女以外と愛を育むわけがないでしょうっ!!」

『私は部長と育むつもりないっすけどね』

「彼は柴田勝家、部長が預かっている親戚の少年だ」

『親戚?』

「…はじめまして」




ぺこりと丁寧にお辞儀をする男の子…勝家くんだが、やはり私を見てはくれなかった

ただ自分を紹介してくれた浅井先輩をもの凄く睨んでる。睨むどころじゃない、殺気だ。先輩との間に何かあったんだろうか




「彼は高校受験に失敗しましてね…どうにか入学できた高校も実家より遠く、我が家に居候しているのです」

『へ、へぇ…』

「更に最近大きな失恋を…ああ、これ以上私の口からは例えナキさんであっても…ふ、ふふふっ」

『はぁ』

「ナキ?貴女が…」

「ナキ!早く帰らねばぎょうぶが心配するっ」

「さ、佐吉!お姉ちゃんたちはお話してるから、もう少し待とうよ、ね?」

「え……」



長話にしびれを切らした佐吉くんが声を掛けてきたその時、彼と隣の弥三郎くんに気づいた勝家くんが目を見開いた

そして2人と部長、そして私を見比べる。うん、3人とも銀髪なんだけど…





「………隠し子?」

『んなわけあるか』

「そうですよ勝家!隠してません、認知してま…ぐはっ!?」

『禿げ散らかしてください。可愛い我が子が部長の子なわけないでしょっ!!』

「ならば…」

『この子たちの母親してます、小石ナキだよ初めまして勝家くんっ』

「……柴田勝家です」




私の挨拶を見ていた弥三郎くんが、それを真似した佐吉くんが、さらに真似したキヨが順番に頭を下げる

それに戸惑った勝家くんもペコペコ…あ、この子、人と話すのが苦手なのかな?




『あはー、怖がらなくていいよ勝家くん。こう見えてお姉さん、若者には優しいから』

「は、はぁ」

「おいナキ、勝家が困っているじゃないか」

「貴方が、私の名を気安く呼ぶな…!」

「!?!?!?」

『まじで何したんすか浅井先輩』

「ナキ…」

『ん?はいはい、ごめんねキヨ。まだ家には帰れないから、佐吉くんたちと仲良くお留守番しててくれる?』

「っ、でも、あいつがナキは帰らないって…!」

「だ、大丈夫だよキヨ!お姉ちゃんはちゃんと戻ってくるから、ね?」

「う゛ぅ…!」

『うーん…困ったなぁ』

「そうですね…ではナキさんのお仕事が終わるまで、会議室で待っていますか?勝家、」

「っ………はい」

「ナキさんのお子さんたちと遊んであげてください」

『………へ?』




明智部長が振り向いて告げれば、勝家くんは素直に頷きこっちへ視線を向けてくる

ぐずっていたキヨも彼を見上げ、そして次に私を、最後に佐吉くんを見つめた




「キヨ、あれと共にナキを待つぞ」

「っ……りょーかい!」

「ごめんなさいお姉ちゃん…あの、俺も…」

『うんうん、弥三郎くんも一緒にちびたちを見ててね。勝家くん、うちの子をよろしく』

「…………はい」





そんな私たちの出会い





20141112.


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