Σ-シグマ-2 | ナノ
小さな恋の始まり


もし、あの時

小さな君の恋心を育んでいたら、私たちは何か変わっていたのだろうか


そんな淡い夢を見る







「ナキーっ!!朝だぞっ!!」

「朝だなっ!!!」

「朝でござるーっ!!!」

『ぐはっ』




お腹に落ちた衝撃で、私は目覚めると同時に見ていた夢を忘れた

そして次に自分のお腹に目をやると…ニコニコ笑う可愛い我が子が、起きろっと私を急かしているところだ


その子たちの頭を順番に撫でる




『やぁやぁ…おはよう梵、竹千代くん、弁丸くん。今日も今日とて可愛いね』

「ナキ、朝だ!早く起きろよっ」

『うん、分かったから、起きるから、お腹から降りてくれるかな』

「ナキどのっ本日は、さすけがちょーしょくとーばんでごさる!早くおきられよ!」

『ぐはっ、弁丸くん、楽しみなのは分かったから、お腹の上で飛ばないで…!』

「ん?あ、佐吉っ!!!佐吉もナキを起こすの、手伝ってくれ!」

『え?』




竹千代くんの声に寝室のドアの方へ目をやると、綺麗な銀髪を尖らせた男の子…佐吉くんがじっとこっちを見つめている


我が家に真っ先にやって来た彼は、仲間が増えた今でも刑部さん以外と馴れ合いはしなかった

同世代の中でも飛び抜いて落ち着きがある。それでいて天然さん。年上にも臆しない度胸と同時に年相応の無垢もある


こっちに来いって誘う竹千代くん、彼に気づいて手を振る弁丸くん。喧嘩ばっかりな梵は少しだけ顔をしかめた

そんな中、佐吉くんは一言





「…私はいい」




そう呟くだけで、さっさと何処かへ行ってしまった





『行っちゃったね』

「…ぼんてんまるどのが、こわいかおをしていたゆえ」

「オレのせいかっ!?た、竹千代がイヤだったんだろっ!?」

「わ、ワシなのかっ!!?」

『こらこら喧嘩しないの、そんなこと言ってると―…』

「おらテメェらっ!!!さっさと顔洗って飯食えっ!!」

「「「ぎゃあっ!!!?」」」

『君は朝っぱらから怒鳴ってんじゃないぞ堅物男子』

「ぐはっ!!!?」




入れ替わりにやって来た片倉くんが子供たちをビビらせたので、その顔面に枕をぶん投げてやった











「……ちょっと旦那、鼻が真っ赤だけど大丈夫なの?」

「…………」

「さすけ、おかわりっ!!」

「オレも!」

「ワシも!」

「じゃあ俺も!」

「宗兵衛は自分で入れてこいっ!!」

「いってえっ!!?」

『朝からよく食べるね育ち盛り。うん、でも美味しい。流石は佐助くん』

「べ、べつに、これくらい朝飯前だしっアンタに褒められたって―…!」

『あ、松寿くん、魚の骨取ってあげるねー』

「うむ」

「・・・・・」




今日も今日とていつも通り、ここ何日か繰り返している朝

皆で仲良く机を囲みながら食べる朝食は、我が家の思春期忍者こと佐助くんのお手製だ


そして私の隣の文系少年…松寿くんは今日も変わらず食べるのが遅い




「ヒヒッ、松寿よずいぶん甘えたよなぁ。骨くらい自分で何とかせよ」

『こら刑部さん、そんなこと言うと松寿くんは魚を食べないってのを選ぶんすよ』

「……ぬしも甘やかしすぎよ」

『子供限定です』

「松寿はもうそのような年でもなかろ…見やれ、弥三郎は綺麗に骨を処理しておる」

「え、お、俺っ!!?」

『おお…!』




刑部さんに唐突に名前を呼ばれ、肩が跳ねた男の子。綺麗な銀髪と可愛い顔立ち、そして左目を覆う大きな眼帯

彼は長曾我部さんちの弥三郎くん。齢12の彼は我が家の良心だ


上品に正座する彼の前には皆と同じ焼魚。それは綺麗に骨が除かれていて、彼の育ちの良さが現れている




「さ、作法とか厳しくてさ…俺、魚も好きだし」

『それにしてもだよ、その年で作法バッチリとか。すごいね弥三郎くんっ』

「え、へへ…」

「姫であるからな」

『流石は私の姫っ』

「ひ、姫って言うな!」

『あ、涙目』




宗兵衛くん同様、弥三郎くんも年のわりに体格が大きい

だがいかんせん彼の性格は気は優しくて泣き虫だ。今もその目に涙を溜めている…あ、松寿くんが止めをさした




『……やれやれ、』





とにもかくにも可愛い子供たちと居候を迎え、独りだったはずの私は大家族になっていた

嫌いじゃない、彼らは私が守るんだと。かつて初恋のお兄ちゃんと交わした約束を胸に秘めながら


わいわいと楽しそうに笑う彼らを眺め、私も小さな幸せを感じている


そして―…






「………」

「ん?どうした、佐吉?」

「……音がした」

「音?」

「ぎょうぶ、貴様はここにいろ、私が見てくるっ」






これから始まるのは、少しだけ違った道の話





20141026.


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