Σ-シグマ-2 | ナノ
俺の花嫁さん


大きくなったらお嫁にしてあげる






「…なぁ、かついえ」

「何だ、キヨ」

「かついえってさ、ナキが好きなんだろ?」

「…そうだが、それがどうした」

「誰かを好きになったら、まずどうするんだ?」




織田貿易のオフィスの隅っこ。そこにちょこんと座りそんな話をする勝家とキヨ

大人しく待つことを条件に滞在を許された彼らは、忙しく働く彼女の姿を眺めながら時間を潰していた。すでに待つのに飽きてきたキヨに対し、勝家は今もナキから目をそらさない




「そーべーに聞いてもむずかしくて分かんねぇし、さきちも分からないって言うし」

「それで私に…」

「うん!だって、かついえは俺の友だちだし!ぼんてんまるの先こすんだっ!!」

「と、友…そう、か…私はまず好きな女性を見つめる」

「見るだけ?」

「だけだ」




勝家の言葉に、キヨも視線をナキへと戻す。今は明智部長と仕事の相談中…かつセクハラ攻防戦中らしい




「今日は髪が少しだけ外に跳ねている、とか。スカートの日は良い日に当たった、とか。彼女にも近づく浅井氏は滅びればいい、とか。私も彼女の拳を一度は受けてみたい、とか。あとは…」

「かついえ、かついえ、よく分かんねぇしなんか怖い」

「そうか?」

「…それで、見終わったらどうすんだ?」

「見ることを終えれば…きっと会話を求めるだろう。そして次に触れる許しを請う」

「なぁ次は?次っ」

「次…その次か…」




少し考える間を置いた勝家が、ナキから視線を外してキヨを見下ろす

彼女は今、まさに明智部長へ一撃を加えようというところ。強く逞しい彼女だけれど、そんな彼女といつか−…





「…共にいる約束を、契れたならばこの上ない幸せだな」

「いっしょに?」

「ああ。彼女にはウエディングドレスも似合うが純和風…白無垢も捨てがたい。むしろ海外挙式などを好むだろうかそれとも…」

「………………」




ぶつぶつと独り言を繰り返し始めた勝家は置いておき、ナキの方を見れば明智部長を片付けたらしい

浅井先輩の小言を上の空で聞き流しながら彼女の視線はキヨへ。そして小さく笑い、手を振ってきた




「………………」




それに大きく振り返す



















「なぁなぁぎょーぶさん!ナキを俺のにしたいって思ったらどうしたらいい?」

「ぬしもかっ!!!!」

「????」

「…いや、怒鳴ってすまぬ、すまぬがわれにどうしろと言うのだ」




柴田に送られ家へと帰り着いたキヨ。それがわれの元へ駆けてきたかと思えば、ナキを自分のものにしたいなどとマセたことを言い始めた

先日の佐吉といい、あのナキのどこをどう見てその思いに至ったか…幼心は難解よ




「かついえがさ、ナキを好きだから見て話してさわって一緒にいる約束したいんだって」

「…あの男も理解不能よな。そしてキヨもその約束がしたい、と?」

「でも俺、ナキを見るし話すしさわるし…今は毎日いっしょだから、これ以上なにしたらいいか分かんねぇ」

「ゆえに独占か…ぬしが大きくなった時が恐ろしい」

「ぎょーぶさんなら分かるだろ?なぁなぁどうしたらいい?ぎょーぶさんならどうする?なぁなぁなぁ」

「嗚呼、嗚呼、煩わしい…余所へやりたくないならば、嫁にでももらってやれ」

「よめ?」

「夫婦よ、夫婦。ぬしの父上と母上も夫婦であろ。あれと同じよ」

「………………」




半ば投げやりに答えてやれば、ピタリと固まったキヨは何か考え込んでいるのだろうか

これはまだ7つ。出自は分からぬがされど嫁を取るにもまだ早い…と高をくくったわれが浅はかだった





「分かったっ!!よめにするっ!!」





…これは宗兵衛にも負けぬマセガキであった





「ヒッ…待て、待て。佐吉もあれが欲しいと言っておってな…」

「かえったら父上と母上にもあいさつするし!俺、そんなとこはちゃんとしてんだぜっ」

「想像以上のマセガキよな、少しは弁丸を見習え。いや、それより…」




…ぬしはナキを、連れ帰るつもりなのか?





「でも、かついえも…またべぇのおっさんもナキがほしいって言ってたから…」

「言っていたから…」

「ツバ付けとくっ!!」

「っ、これキヨ待たぬかっ!!」




来た時と同じように勢いよく駆け出していったキヨ。急ぎ追いかけたいが生憎、杖が手元にない

佐吉にも負けぬ猪突猛進。ただ質が悪いのは、人の話を一切聞かぬところ。果たして何をしでかすつもりなのか


嫌な予感しかせぬとは…それは今か。それとも未来か



















「ナキっお帰りっ!!」

『ん…お迎えありがとうキヨ、今日は会社で大人しくできてて偉かったねー』

「俺のおよめさんになってっ!!」

『どうしてそうなった』




玄関で出迎えてくれたキヨが挨拶もそこそこに求婚してきた

ドーンと抱きついてくる彼を受け止めながら奥の方を見れば、居間から顔だけ出した刑部さんがこっちを見つめてる。だからなんでこうなったんすか




『う、うん…ありがとうキヨ。いろいろ言いたいことはあるけどそれは無理かな』

「えぇーっ!!?」

『君と結婚しちゃうと私、たぶん犯罪者になっちゃうんだよね』

「大丈夫だ!だれがてきでも俺が守るっ!!」

『ぐはっ!!揺らいだ、今、めちゃくちゃ揺らいだけど刑部さんの目が怖いから踏みとどまる』




可愛い可愛いキヨの願いでもお嫁さんにはなれないかな。年の差とか…何よりキヨはまだ子どもだから

そう伝えればぶーっと頬を膨らませてくる。もっと大人になれば話は別だけどね、その気持ちのままでいてくれる前提で




「…じゃあ俺が大人なるまで、ナキはだれのでもない?」

『えーと…どうだろ。今のところ予定はないから大丈夫だと思うよ』

「………………」

『え……』




がぶっ




次の瞬間、私の手を取ったキヨがそれを引き寄せ…左手の薬指、その付け根にがぶりと噛みついた

ピリッとした痛みは一瞬だったけど、口が離れたそこには小さな可愛い歯型





「へへっ、じゃあ約束だ!すぐ大人になってやる!」

















「ほらここ!けっこんしたら左手にわっかはめるんだって!」

「…して、キヨ。この書を誰に見せられた?」

「そーべぇ」

「やはりな」






20150825.


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