Σ-シグマ-2 | ナノ
私の君に恋をした


背伸びをすれば届くかな







『今日はお買い物楽しいねー、お手伝いしてくれてありがとう佐吉くん』

「ぞうさもない!ナキは女だからな、重い物は持つなっ」

『ぐっは、やだ可愛い紳士だこと…!うんうんお願いね、頼りにしてるよ』

「任せろ!」

「ん…おい、ナキ!」

『ん?あ、えっと…ああ、そうだ、かすがさんっ』




片手に買い物袋、もう片手で佐吉くんと手をつなぎながら歩く帰り道

信号待ちをしていると不意に声をかけられた。そこにいたのはパツキン美人、確か高校の同級生だったかすがさんだ




「…お前、私のことを忘れかけてただろ」

『やだなー、こんなギャルギャルした人なかなか忘れないって』

「相変わらず腹の立つ呼び方だな…!で、だ。その隣の子どもはまさかだが…」

『イエス、まいじゅにあ』

「や、やはりか」




挨拶もそこそこに、かすがさんの視線は私の隣の佐吉くんへ向けられる

以前、プチ同窓会をした時にお披露目したのは梵だけだったっけ?怪訝なかすがさんなんて何のその、可愛い息子はちゃんと紹介しないとね




『私の佐吉くんでーす。ほら佐吉くん、お姉ちゃんに挨拶してね』

「む?…ナキの佐吉だ!」

『ぐっは!聞いた?今の聞いた?ナキの佐吉だってさ、可愛すぎじゃない?』

「お前が半ば強引に言わせただろ!だ、だが、いいな…その自己紹介…謙信様のかすが…とか…」

『おやおや真っ赤だねかすがさん、イチゴさんかな?』

「梅干しか?」

「誰が梅干しだっ!!まったく…お前によく似た息子だっ」

『あはー、もっと言って』

「褒めてないっ!!!」




こんなやり取りを何故か懐かしく感じながらかすがさんとの掛け合いをしていると、隣の佐吉くんがちょいちょい手を引っ張ってくる

あ、そうだね。買い物袋にはいつも通りアイスがたくさん入ってるから、早く帰らなきゃ溶けちゃう




『よし、ごめんねかすがさん。もう帰らなきゃ』

「ああ、私も軽く声をかけただけだ。じゃあなナキ、あとナキの息子」

「ナキの息子ではない、私の名は佐吉だ!」

「…ではな佐吉。あまり母親に似るんじゃないぞ」

「………………」




最後にカッコ良く笑ったかすがさんは、軽く手を振り颯爽と帰って行った

…あんなスマートな歩き方、私には無理だな。そんなことを考えながら小さくなる背中を見送り、佐吉くんの手をぎゅっと握り直して家までの道を急いだ
















「ぎょうぶ、何故、私とナキは親子に間違われる?」

「う、うむ…今日はまた唐突な質問よな佐吉、いや、まぁ…」




われの前にちょこんと座り、そのような質問をぶつけてくる佐吉に頭を抱えた

今更よな、ナキと親子に見えるのは当然。ナキは佐吉を息子として、母親代わりに育てておるゆえ




「私の母は別にいる」

「…佐吉、それはナキの前で言ってはならぬぞ。あれが悲しむ」

「何故だ?」

「い、いや…どうした佐吉。いつもの素直なぬしと違うではないか」

「っ……わ、私は、素直ではないのかっ!?」

「んん…?」




われの言葉に慌てだした佐吉。これはまた一体全体どういうことか

親子でない、母でない、息子でない、では何だ?ナキが原因であるのは確かだが…はて、幼い佐吉に何が起こっている





「佐吉?」

「…ナキは私を素直と言った」

「ヒヒッ、もちろん佐吉は素直なよい子よ、ヨイコ。皆が知っておる」

「あと、ナキの好みは素直な人間だ」

「そうか、ナキは素直な男が好みか……ん?」

「そして私はナキの佐吉だ!だから親子ではない、息子に見られてはならんっ」

「さ、佐吉…それは…」




いや、まさかよな。次はわれが慌て出せば、佐吉は何事かと首を傾げた

ナキの好みは己だと言う。そして己はナキのだと言う。いったいいつからそう思いだした。そしてその考えは思いは…






「親子でなく、いずれ夫婦になるはずだ」

「ヒッ……」




…しばらく息ができなかった

まさか佐吉の初恋が、あのナキに奪われてしまうなど誰が予想したか

固まり動かぬわれの目の前で、ひらひらと手を振ってみせる佐吉。安心せよ、気は失っておらぬ。失えたらどんなに楽だったか




「よ、よいか佐吉…ぬしとナキが夫婦になるのはちと厳しい」

「何故だ?」

「ほれ、年齢とやらがな。あれはわれと近しい年よ、ぬしとは親子にもとれる年の差ゆえな」

「そのうち私も大人になり、背も追いこすから平気だ!」

「いや年は背丈のように差が縮まらぬ。それに身分がなぁぬしは次男とはいえ豊臣に奉公する石田の子よ」

「ナキはこの家の主で、女だが立派につとめを果たしている。位の問題はない」

「そ、そうよな、だが…」




佐吉の返しはごく一部はもっともよ。だがそれでも…いくら佐吉の願いでも、叶えることは難しい

それをどう納得させようかと久々頭を働かせていると、突然、佐吉の顔色が曇り始めた




「…私がダメなのか」

「は?」

「今の私が、ナキにふさわしくないのか?足りないのか?」

「っ…………」




ナキに自分が相応しくない、そんなことを言い出す佐吉に慌てて否定を…できなかった

それはつまりナキの方を否定することになる。佐吉にとってはあの女がよいのだ、それを否定されては佐吉がより傷つく


それほど、この恋とは言えぬ小さな思いは拙いながら真摯なのだ




「…素直だけでは足りないのか、背丈はじきになんとかなる…しかし…」

「さ、佐吉、まぁそう焦るでない。時が経てば心も変わる…ああいや、ナキに相応しき男となろう」

「本当かぎょうぶっ!!?どれほどたてば、私はナキにふさわしくなるっ」

「ヒッ…ど、どれほど…そうよな、あ、ああ!片倉ほど大きくなればよい、うむっ」

「片倉…10年か…」

「………………」

「…分かった!10年のうちに私は、ナキにふさわしい男になってみせる!」

「そのいきよ佐吉!ヒッ、ヒヒヒッ………はぁ」





…すまぬな佐吉、これもぬしのための重要な嘘よ

残る10年…いや、われらがこちらに居られる期間のうちに、佐吉の心に変化がうまれるとよいが


だがそれも難しい

佐吉はこうだと信じれば、テコでも動かぬ意志のカタき子ゆえ





20150805.


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