Σ-シグマ-2 | ナノ
サヨナラは言わないで


「もしもしナキさんですかっ!?明日帰国しますよっ!!あぁ、例え地球の裏側にいようとも貴女のことを一時も忘れたりは…」



ブツッ

ツーッ…ツーッ…




『よし、早速お別れ会始めよっかレッツパーリー』

「よし、じゃねぇよっ!!今、部長からの電話ぶち切っただろ…!」

『国際電話はお金がかかるんだよ堅物男子。それに今日は勝家くんが主役だもんねー…勝家くん?』

「たいへんお世話に、なりました…実家に帰らせて頂きます…!」

『うん、それは何か違うと思うから落ち着いてね勝家くん』




勝家くんが我が家にやってきてから二週間。明日、明智部長の帰国と共に彼もここから去っていく

神妙な面持ちの勝家くん。その足にしがみついてるキヨと梵は、彼を帰したくないらしい




「いやだっ!!かついえもずっといろよっ!!帰んなっ!!」

「キヨ…」

「オレもやだぞっ!!なんで帰るんだよ勝家のバァカッ!!」

「梵っ…すまない…」

『ほらほら勝家くん困ってるでしょ。仮にも部長は保護者なんだし…』

「じゃあナキは、ぶちょうのとこ行けるのか?」

『部長の家に住むなら迷わず高架下とダンボールを選ぶ』

「テメェも乗ってどうすんだっ!?梵天丸さま、初めから二週間という約束だったはずです」

「でも…」

「大丈夫だ梵、キヨ…私はまたお前たちとナキさんに会いに来る。その時にまた遊べばいい」

「う゛ぅ…」




勝家くんが頭を撫でると、キヨと梵は互いの顔を見つめ合う。そのまましばらくアイコンタクトで会話をすると…そっと勝家くんから離れていった

駄々っ子二人が納得してくれたところで改めて…




『それじゃあ勝家くん、二週間ありがとう!そして私たち家族が明日からも頑張れるように…かんぱーいっ』

「「「かんぱいっ!!!」」」

「か、乾杯っ」




カチーンと鳴ったグラスとグラス。中はジュース、テーブルにはご馳走

新しい家族との絆を再確認するために、今日は目一杯楽しもう















「どうだった勝家?憧れのお姉さんと一緒に暮らしてみてさっ」

「もちろん至福だった」

「本音は?」

「…もう少し甘い生活を期待していた」

「あー、そりゃ健全な男なら仕方ないよな」

『勝家くんに何言わせてんだマセガキこの野郎』

「いてっ!!?」

「あ…い、いえ、そんなつもりは決して…す、みません…」

『謝らないでいいよ勝家くん、ほらほらこのサラダ私が作ったんだよ。召し上がれ』

「は、はい…!」




勝家くんのリクエストで作ったポテトサラダ。片倉くん監修の元だから味は安心だ

竹千代くんや弁丸くんはお肉を口一杯に頬張っているし、佐吉くんもせっせと刑部さんの料理をよそっている

松寿くんと佐助くんが何か言い合ってるけど味付けの喧嘩かな?弥三郎くんの作ったウインナーの細工はすぐ完売しちゃったから、明日もお願いしようね




「かついえーっ!!今日は俺らの部屋でねようぜ、なっ?なっ?」

「キヨ…そうだな…」

「えぇーっ!!?勝家はオレらの部屋だぞ!そうだろっ!?」

「梵…いや、それは…」

「俺らといっしょだっ!!ぼんてんまるのアーホッ!!!」

「なんだとっ!?キヨのバァカッ!!!」

「あ、いや、ふ、二人とも…」

『こらこら勝家くんをめぐって争わないの!じゃあ今日はみんなで居間で寝ようね』

「ナキもかっ!!?」

『うん、私も仲間』

「やったっ!!勝家、今日は夜更かしだぞっ!!」

「あ、ああ…そうだな」

『あはーっ』




ほんと、キヨと梵は勝家くんが大好きだね。この二週間はあっという間で、それでいて家族になるのは早かった

そして明日からその家族が一人減るとか…実感が、湧かないや




『…うん、そうだよね』

「っ…ナキさん?」

『ううん、なんでもないよ。ちょっと寂しいなって、思ってさ』

「寂しい…」

『あ、気にしないで。勝家くんはたくさん食べてね、明日からまた部長の家なんだから』

「………はい」




早くしないとちびっこに食べ尽くされちゃうよ、それを言ってる最中にも弁丸くんと竹千代くんはバクバク

そんな姿も可愛いねと私は笑うんだけど、勝家くんはなんだか浮かない顔になってしまった
















「…弁丸さま?あ、やっと寝た。今日ははしゃぎまくってたねチビ共」

「キヨも…梵天丸もか?ヒヒッ有言実行、確かに今宵は夜更かしよ」

「ああ、勝家と最後の1日だったからな…その勝家はどうした?」

「ナキさんと二階。お別れの挨拶してるんじゃない?」
















「…ありがとうございました」

『ん?んーん、こっちこそこれぐらいしかできなくてさ。二週間、楽しかった?』

「はいっ…兄と弟がたくさんできたようで…」

『うん、そっかそっか』

「…もちろん、ナキさんと、すごせたことも」

『…そっか』




お別れパーティーも終わり、疲れた子どもたちはもう寝落ちただろうか

勝家くんと一緒にベランダで夜風に当たりながら、見上げれば満天とは呼べない星空


ある日いきなり家族になって、一緒に暮らして、仲良くなって…そしてまたバラバラになる




『…あのさ、勝家くん』

「ここに来たばかりの私なら…今日という日をただただ受け入れられず、貴女に醜態をさらすばかりだったと思う」

『っ…………』

「しかし、貴女が心配することなど何一つない。私は明日から、また同じ毎日に戻るだけ」

『勝家くん…』

「だが情けなく泣く私ではない。この二週間で気づけたことが山ほどあった」




勝家くんが私へと振り向いた。綺麗な黒髪が揺れて、その隙間から覗く目に涙も迷いもない




「水底に沈む私でも、もがけば貴女に手が届きそうだ」

『……へ?』

「やはり私は、貴女を諦めることはできない。だから…また、会いに来てもいいだろうか?」

『…うん、もちろん。部長が嫌になったらいつでもおいでっ』

「いや、会えない時間でさえ今の私には糧になる。例え離れようと貴女を思い浮かべるだけで幸せだ」

『うん、最後までやっぱり血は争えないなコノヤロー』

「……ははっ」

『っ…………!』




最後に笑った勝家くんは、高校生らしいあどけなさの残る顔をしていた

そしてスゥッと深く息を吸い込み、ハァッと一気に吐き出す。さぁもう日付が変わってしまうよ




「…覚めない夢を見るよりも、この一時が私の幸せだ」

『ささやかな幸せだね』

「今まで気づかなかっただけかもしれない」

『………………』





気づかなかった幸せ…それはきっと、私も同じ

子どもたちと出会えたから私は、毎日の幸せを実感できるようになった














「はぁあぁあっ!!?ほ、ほんとに一緒に寝るのっ!?」

『大声出さないでよ思春期忍者、ちびたち起きちゃうじゃん』

「あ、じゃあ俺、ナキちゃんの隣に…」

『禿散れマセガキ』

「酷いっ!!」

「で、では私が…」

『あー…勝家くんか…ギリギリ…大丈夫、かな?』

「大丈夫じゃねぇよ」

「佐吉、ぬしがナキの隣へ行け」

「分かった」





20150726.


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