寵愛シリウス
みんなを導く星の君
『ああ…主のように、貴方も私たちのもとから去るのですかサンデー…憂いの理由も告げぬまま…』
「おい、ジュリア?ジュリアー?」
『貴方を失い路頭に迷いし我らへ、再び光と音楽を届けてはくれないのですかっ…!』
「おーい、ジュリアー?」
『まさか、これは主より与えられし我らへの試練…!これを乗り越えし時、真の救いが届くのですねっ!!』
「ジュリア…」
『ああ蒼天の日輪よっ!!どうか私を、サンデーのもとへお導きください…アーメン』
「・・・・・・」
あれ以降、毛利軍はまったく姿を現さなかった
あの時の毛利はまるでジュリアから逃げるようだったと思い返すが…いや、まさかな
何度か浮かんだ仮説を振り払い、俺たちは怖いくらい順調に航海を続ていた。そして今日、ついに見えた陸に皆が安堵する
この旅の目的地、ジュリアの故郷だ
「あのお嬢さん、なんか関わっちゃ危ねぇ気が…早いとこ届けちまいましょう」
「お、おう…」
「妙な奴らと関わるとろくなことになりゃしねぇ…陸まで上がれば後は帰れるでしょ」
「え?あ、いや、せめて家族のところまでは…」
「あ、アニキ正気ですかっ!?大丈夫っすよ、あの娘そんなか弱くありゃしませんぜ」
「まさかアニキ、あのお嬢さんを本気で…」
「ばっ…!んなわけ、そんなわけ、っ…!」
『あ、キャプテーンっ!!見てくださいっ』
「っ…って、おいっ!!バカ、乗り出すなジュリアっ!!」
船の先から身を乗り出すジュリアを慌てて引っ張る。あれ、あれっと無邪気に指差す場所へ俺も視線を向けた
そこに並んだ色とりどり旗
そして海からでも分かる、どでかいカラクリに俺も野郎共も目を疑った
「こ、ここが噂の…!」
『イエスっ大友ザビーラーンドっ!!!』
まるでジュリアの帰りを待ちわびていたように、陸から海辺へ向かい土煙が立ち上ってきた
「ジュリアーっ!!!」
『宗麟さまーっ!!』
ガシッ
船から降りたジュリアを迎えたのは怪しい南蛮の着物を着た集団
その先頭に立っていた餓鬼が駆け出せば、同時にジュリアも両手を広げ走っていく
そしてガシッと、抱き合った
大きな帽子の男は、噂の大友宗麟で違いない。ジュリアと抱き合いながらぐるぐる回ってるが…おいテメェそろそろ離れろ
「いったい僕をどれほど心配させるつもりですっ!!お前が船を出したと聞いた時はっ…!」
『ああ、ごめんなさい宗麟さま…サンデーが心配でつい…』
「ジュリアまでいなくなっては誰に頼れというのですかっ!!宗茂は相変わらずで話になりませんっ」
「ぐっ…我が君のご意向に沿えず、申し訳ありません…そしてジュリア殿、ご無事で何より」
「………………」
…そして大友の後ろに立つ男。こいつは確か忠臣立花宗茂
妙な宗教連中と共に風の噂はこっちまで届いている。家康のとこの最強と鬼島津、それに並ぶ男と言えばこの立花だ
主君のワガママに振り回されてるとは聞いたが、それにしては貫禄つれてたたずんでるじゃねぇか。さすがは…
「(ジュリアちゃんがいないと我が君、すこぶる機嫌悪いんだよなー。ついに家出したんじゃないかって肝冷やしたなー)」
「ん?今、なんか聞こえ…」
『あ…宗麟さまっ!!こちらキャプテン元親、私の命の恩人なのですっ』
「キャプテン?」
「っ…………」
大友とその一味がばっとこちらへ視線を向けてきた
上から下へ、俺を品定めするような目だ…なんだ、文句あるのか?よそ者は信用ならないってか
「お前!よくジュリアを連れてきてくれました、礼を言いますよ」
「…………へ?」
「僕は大友宗麟、このザビーランドの主です!ささっ皆、恩人を迎える準備をするのですよっ」
「御意」
「お、おう…」
ぱんぱんっと大友が手を叩けば、連中は慌てて建物の方へ駆けていく
一戦ぐらいあるかと思っていたが、なかなかの歓迎の雰囲気に拍子抜けだ。そしてそんな俺の隣にはいつの間にかジュリア
『キャプテン、改めてお礼を…貴方のおかげで無事に帰り着くことができました』
「い、いや、俺が言い出したんだ、それに…帰れてよかったな」
『はい!ありがとうございます、今宵は宴となりましょう!どうか皆様、我らの城へお越しくださいっ』
「は、はは…いや、それは…」
「おやキャプテン元親!ジュリアの酌では飲めないと?」
「!?!?!?」
ぬっと現れた大友がさらりとジュリアの肩に腕を回し、ニヤニヤと俺を見上げてそう言いやがった
この餓鬼…!と睨む俺に対しは勝ち誇った顔。こいつ、さっきから解ってやって…!
「せっかくジュリアがもてなしてくれると言うのに…据え膳食わぬは男の恥ではありませんか?」
「なっ…!テメ、餓鬼のくせに何言って…!」
『キャプテン…来てくださらないのですか…ここ、で、お別れっ…!』
「っい、いや行くっ!!行くぞジュリアっ!!安心しろ、な?」
「はい決定っ!!キャプテン元親、では入門の前にここへ名前をお書きなさい」
「お、おう、……って、これ入信届けじゃねぇかっ!!」
「チッ……!」
渡された紙を破り捨てれば盛大な舌打ちをお見舞いしてくるクソガキ
代わりにジュリアが渡してきた「入信(仮)」と書かれた名札を手に…ついに俺は、禁断の軍に足を突っ込んじまった
20150123.
これも神のお導き
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