飛翔ギャロップ
手前はそれでも飛びましょう




『それではここで!先日、まりーあ様より教えて頂いた舞を一差し…』

「よ、待ってましたよジュリアーっ!!」

『キャプテンに捧げますっ!!』

「ぶふぉあっ!!?」




宴の席の真ん中で、くるりくるりと見慣れない舞を踊り始めるジュリア

その間際に呼ばれた俺の名前と、ものすごく不機嫌にこっちを睨んでくる大友に酒を吹き出す。他の連中はそれに気づかず、華麗なジュリアに釘付けだった


ジュリアを故郷まで無事に届けた俺たちは、怪しい宗教連中の歓迎を受けていた

最初は警戒したが料理に何か入れられてるわけでもなく。見た目の割に美味いし酒も悪くねぇ


…おまけにジュリアのアレだ。悔しそうな大友に少し気分がいい…大人げねぇな、俺




「しかしジュリアは南蛮の出かなんかか?それにしちゃ言葉は…」

「ジュリア殿は生まれも育ちも日の本です」

「うおっ!!?アンタ…立花…」

「我が君がザビー様に心酔する以前より、ジュリア殿は彼に仕える身…サンデー殿もまたしかり」




手前の酌で申し訳ない、と杯に酒を注ぐのはあの立花。共に視線を送るのは、手を取り踊り始めたジュリアと大友だ

あのクソガキ、近すぎだろ




「チッ…それじゃ、すっかり洗脳されちまってんのかジュリアは」

「それは…」

「ああ…アンタが言うわけにはいかねぇか、妙なこと聞いて悪かったな」

「いいえお気になさらず。それにジュリア殿がザビー教へ入信したのは己の意志、そう聞いておりますゆえ」

「自分の意志…ジュリアが…」

「はい。ああいや、ザビー様にお会いする前のジュリア殿を手前たちは知りませんので、何とも言えませんが」

「……………」




揺れる酒を見つめるふりをして、その境界越しにジュリアをうかがう


その見目に相応しい仕草はどこで仕込まれたのか。ザビーって南蛮の野郎か、それとも生まれの器量か

ここまで同じ船に乗り、一緒だったってのに俺はアイツを知らない。その見目に惹かれただけかと自嘲した




「ハッ…まさか西海の鬼が、こんな無様晒すのか」

「そう言いなさるな。ジュリア殿をここまで送って頂けたこと、感謝しております。ありがとうございました」

「へっ、あの立花宗茂に頭を下げられるとはな。やめてくれ」

「そして…このご時世、潤いを求めるも一興。恥じることではありますまい」

「っ………!」

「この戦乱の世であるからこそ、あのように翻弄されども明るく生きる女子に、荒れた心を預ける。そんな一時も必要かと」




立花の言葉に今度は隠すことなくジュリアを見る。次は大友が舞い、それに手拍子を送っていた

それを眺める野郎共も楽しげで…いいのか、この一時が。許されるのか




「…いや、深く考えるもんじゃねぇかもな。しかしさすがは立花宗茂だな、言葉に深みが…」

「(あんな女子らしい子がいてくれなきゃ男も夢見てらんないもんなぁ…いやいや逞しい女子が悪いとか言ってない!わし言ってない!)」

「ん?」

「いかがしましたか?」

「い、いや…何か聞こえたような…気のせいか?」

『キャプテーンっ!!』

「っ…………!」




宴の席を掻き分けて俺のもとまで駆けてきたジュリア

立花が席を空ければ深く深くお辞儀をし、俺の隣へちょこんと座る




『キャプテン、遅くなり申し訳ありません…』

「いや…気にすんな。十分楽しませてもらってるぜ!さっきの舞もよかった」

『ハレルヤっ!!ありがとうございます!まりーあ様の足元にも及びませんが、キャプテンを思い回りましたっ』

「っ…そ、そうか…」

「…長曾我部殿、」

「っ…………」

「我が君は手前にお任せください。どうか最後の宴、ジュリア殿とお楽しみを」

「お、おう」




そう耳打ちしてきた立花は深々と頭を下げ、ジュリアと入れ替わるように大友のもとへ向かう

その背中を見送り、俺はジュリアが注ぐ何杯目かの酒へと視線を向けた。それをちびちびと時間をかけて飲む




「…後でもう一度、さっきの見せてくれるか?」

『はい!キャプテンのためならばっ』

「ははっ」





明日には、俺らは船を出さなきゃならねぇ






20150215.
そう簡単に帰れるはずがない

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