急転ジハード
その男、誰も追いつけない
「…ついに、国に帰る日が来たな」
「ようやくよ…船の手配にどれほど手間取っておるのだ」
「俺の船、壊したのアンタだけどな」
「どうですサンデー!キャプテン!僕が手配できる最高の船を用意しましたよっ」
「おう!なんだかんだ、大友には世話になっちまったわけか」
快晴、絶好の船出日和。俺と野郎共が感心したように見つめる先には、海に浮かぶ立派な船がある
四国に流れ着いたジュリアを故郷へ届けるため。大友領へやってきたあの日、毛利によって俺の船は壊された
そして今、ようやく代わりとなる船が出来上がったんだ。大友作だからな、妙な形をしてるのは仕方ねぇ
「さあさあ、今夜は宴です!あなたたちを盛大にお見送りしますよっ」
「お、宴か!最後まで悪いなっ」
「いえいえ…いいですか宗茂、彼らが酔いつぶれた隙にまた船を木っ端みじんにしてしまいなさい」
「御意」
「聞こえておるぞ馬鹿共。どう足掻いても我らを逃さぬつもりか」
「…今晩は交代で見張りを置くか」
『ついに行ってしまうのですねキャプテン…寂しいです』
「っ、ジュリア…」
大友と立花を絞めるため毛利が側を離れると、代わりに近づいてきたのはジュリア
出会った頃から変わらない綺麗な目に、じわりと涙を浮かべている。待ちに待った船出、だが思い残すのはジュリアのこと
『ありがとうございましたキャプテン、遠く離れても私はアナタを忘れません…』
「…そうか、もちろん俺もだぜ」
『母なる海でつながったアナタの人生が、光あるものであるよう祈り続けます…どうか、どうかお元気で…』
「………ジュリア、」
…言えよ俺、一緒に来いって
胸の前で手を組み俺のために祈りを捧げてくれるジュリア。だが俺は、ジュリアと離れたくはねぇ
もしジュリアが首を縦に振ってくれるなら、俺はこのままコイツを連れ去るだろう。ぐっと拳を強く握り込む、覚悟はできた
「…聞いてくれ、ジュリア」
『何でしょう?』
「明日、俺たちがここを出る時…俺と…」
『キャプテンと?』
「っ、俺と一緒に−…!」
『あ、キャプテン見てくださいっ!!空にっ!!』
「え、そ、空っ!?いや、今は俺の話を聞いて−…」
「危ないっ!!!」
「っ!!!!?」
ジュリアが空を指差し大声を出した瞬間、毛利に文句を言われていた立花が俺たちに向かって駆け寄ってくる
その手には雷切、そして大きな体に似合わず高く高く飛び上がると−…
「はぁあっ!!!!」
ガシャーンッ!!!!
『きゃあっ!!?』
「うおっ!!?」
「ご無事ですかお二方っ!!」
ドッカーンッ!!!!
『あ』
「あ゛」
「あ゛」
…いったい、何が起こったのか
ジュリアが指差していたのは、俺たち目掛けて飛んでいた巨大な大砲の玉だった。それに飛び込み一刀両断した立花は流石としか言えねぇ
そして真っ二つになった大砲はそれぞれ飛ぶ方向を変え…狙ったように船の柱を、看板を、ぶち抜いた
……………は?
「アニキーっ!!ふ、船がーっ!!!」
「あ゛ぁあぁあっ!!!!」
「や、やりましたね宗茂っ!!上出来ですっ!!」
「なっ…!わ、我が君のためならば(あ゛あ゛あーっ!!やっちゃったっ!!やっちゃったっ!!?)」
「な、何をしておる貴様らっ!!何をどうしてこうなったっ!!」
「知るかっ!!いきなり大砲が−……あ゛?」
…待て、何故、俺ら目掛けて大砲の玉が飛んできたんだ?
未だ状況が分かっていないジュリアを傍らに俺たちは周囲をうかがう
次が来るのか、来ないのか。そう身構えていると遠くに見えたのは、大慌てで走ってくるザビー教信者だ
「た、たいへんです宗麟様ーっ!!敵襲っ敵襲ですっ!!」
「敵襲っ!!?まさか、ザビーランドを乗っ取りに…!」
「そんな悪趣味な奴がいるのかよ…いや、それよりどこのどいつだっ!?」
「あ、あの旗印は…!」
「大友宗麟っ!!!」
「っ!!!!?」
信者が答えるより先に、つんざくような怒号が海辺に響く
それを聞き庇うように大友の前に飛び出した立花、俺もジュリアを守るように立ち塞がる…その背後に毛利、いや、アンタは前に出やがれ
聞き覚えのある声の主は、いつの間にか俺たちの前に現れていた
敵襲と呼べる程の人影はない。ただ十二分に殺気立った男の傍らに、1人部下が控えているだけ
「今日という今日は秀吉様に対する貴様の狼藉を、その首で償わせてやろう…!」
「ってわけで悪いけど!大人しく、三成様に斬られてくんない?」
…この教団は、あの豊臣を敵に回してるらしい
20151215.
佐和山襲来
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