愛玩フェアリー
 

『宗麟さまー、いずこへ、宗麟さまーっ?』

「ん?どうしたジュリア」

『キャプテン!宗麟さまを見ませんでしたか?城の方々が探しているのですが…お仕事の時間だというのに』

「あー…なるほど」




城の中を走り回り、困った顔して口元に手を当てるジュリア。探しているのは大友で、なるほど忘れてたがアイツは城主でもあったな

仕事を放り出して今頃は、京極の姉ちゃんと遊んでんのか。妙にイラッとしちまったがジュリアは仕方ありません、とため息を一つ




『代行できるものは片付けてしまいましょう…お騒がせして申し訳ありませんキャプテン』

「おう…」

『失礼いたしますっ』




そう言って俺に一礼したジュリアは、パタパタと余所へ駆け出していった

その背中を見送りつつ…思わず口に出した疑問は言わずもがなジュリアについて




「あいつ、何者なんだろうな」

「ジュリア殿のことでしょうか」

「うぉおっ!!?な、なんだ立花か驚かせんなっ!!」

「失礼しました。いやはやジュリア殿には頭が上がりません」



そんな俺の独り言に返事が返った!…と思えば、隣にはいつの間にか立花宗茂の姿

こいつも大友を探していたのか、困ったように頭を掻き…視線はジュリアが消えた廊下の向こうへ




「我が君は外交は得意なのですが、内政はどうも奔放と言いますか…」

「奔放なんて可愛い言い方すんなよな。しかし、まさか政をジュリアに任せてんのか?」

「いえ、そんなまさか…ただ雑務と言いましょうか、ジュリア殿にも可能な限りを肩代わりしてもらっています」

「いや、それも問題だろ…だがジュリアはずいぶん教養があるんだな」




女としての仕草と教養、それだけじゃなく一部だが政にも手を出している

それはいつどこで身につけたのか…感心半分、興味半分。そんな俺をちらりと見た立花は、そうですな、と小さく呟いた




「私も人伝で聞いただけなのですが…ジュリア殿はザビー様が日の本にいた頃からの古株です」

「あー…いつも主よ、主よって慕ってるもんな。その主に言いくるめられて入信しちまったってか」

「はい。それ以前のジュリア殿は…どこかの城の姫君であったとか」

「ほぉ、姫君……て、姫ぇえっ!!?」

「ちょ、長曾我部殿っ!!しーっ、静かに!内密に!」

「お、おうっ!!」




慌てた立花と共に廊下の隅へ座り込み、コソコソと話を続けるがおいおい姫って何だ

確かに姫様って言われてもしっくりくるが、その姫様がどうしてザビー教なんかにいるんだよ




「小国ではありますが…城主の娘としてその生をうけたと聞いております」

「そ、りゃ…ジュリアの国はどうなったんだ。まさか…!」

「聞く限りではもう…どのような経緯でジュリア殿が入信したのかは分かりかねますが、仇であることに違いはないのです」

「………………」

「…我が君には内密に願います。ジュリア殿に確証のない疑いがかかることは、長曾我部殿も不本意でしょう」

「…当たり前だ」





真剣に顔を見合わせる俺と立花。そんな俺たちの耳に大友のはしゃぐ声が届いたから、揃ってため息をついた



















「ジュリアの出身、か。気にはなるが聞くのもアレだしなぁ…いやいや、どんな経緯だろうと俺は、ジュリアを…」

『キャプテン!杯が空です、お注ぎしますねっ』

「ん…おう、頼むっ!!ははっ!!ジュリアの酌ならどんな酒も旨いぜっ」

『ありがとうございます!さぁ、サンデーもどうぞっ』

「ふん…酌は手慣れたものよな。貴様、どこぞの小国の娘であったか?」

「うぉおぉおいっ!!!?いきなり核心をつくなっ!!」

「…何故、叫ぶ長曾我部」

『どうしたのですかキャプテン?』

「い、いや…!」




何度目かの宴の席。盛大に開かれたそれは今日も今日とて賑やかだった

最近は互いに疲れのせいか、喧嘩を売り合うことも減った毛利と共に隅っこで酒を飲んでいると、チョコチョコと歩み寄ってきたジュリア。その手には酒の瓶


俺の杯に酒を注いでくれたまではいいが…次、毛利にも注ごうとした時だった。俺が悩みに悩んでいた話をあっさり切り出しやがった毛利の奴!




「何を焦る?褒めてはおらぬがこれの教養はある程度評価できる」

『ハレルヤっ!!ああ、サンデーに褒めて頂けるなんて…恐悦至極!』

「褒めてはおらぬ、と言ったではないか」

「い、いや、だがな、人には言いたくねぇ過去ってやつもあって…!」

『はい!我が父は城を治めていましたっ』

「言うのかよっ!!あ、い、いや…!ジュリア…本当だったのか」

『過去の話です。当時の名は捨て、今は主に仕えるジュリアですから』




毛利が差し出す杯に澄んだ酒を注ぎながら、ニコニコと笑うジュリアはいつもと変わりない

むしろチラチラと顔をうかがう俺の方が怪しいだろう。だが何故、平気な顔で話せるんだよ。アンタがここにいるってことは、もう…




『ザビー様に愛と金を差し出せと迫られた時…恐れ多くも我が父は、一族総出で抗うことを決めました』

「玉砕か。小国が無謀よな」

「黙ってろ毛利!ジュリア、それでアンタたちは…」

『主の炎によって城はあっさりと落ちました。今でも鮮明に思い出します…私と、主の出会いを』




そっと目をふせたジュリアが思い出すのは自分と身内、そして家臣を包む炎と…立ち塞がるあの南蛮人

それに恐怖するわけでもなく平然と語るどころか笑顔を見せるジュリアは、酒瓶を傍らに置くと昔話を続ける




『嫁入りを直前に控えていた私の前に降り立った主。あの方は私に迫りました、デッドオアアライブ!と』

「で、あら…?」

「生か死を迫ったか」

「はあっ!!?」

『そうです!私は主により!初めて選択肢を与えられたのです!』

「っ……選択肢?」

『私は生まれた時から将来を決められていました。何一つ、自分自身で決めたことはありません』




そう言ったジュリアは立ち上がり、俺と毛利の前で両手を広げてくるりと回る




『しかしその時!生きるか死ぬか!私が選べた!ああ、目の前の主の、なんと眩かったことか…!』

「…それが自分の家を壊した奴でもか?」

『もちろん!色づいた七色の世界、私は迷わず名を捨て飛び込みました。今はここが私の家です!』

「………………」

『そしてキャプテンも新たな私の家族…私がそうであったように、キャプテンにも新たな彩りが見つかりますように…アーメン…』




両手を合わせ俺のために祈ったジュリアは、一礼すると島津や黒田の座る方へ行っちまった

残された俺と毛利。ジュリアに注いでもらった酒はまだ一滴も飲んでいない




「…選択、か。アイツにとって家は窮屈だったのかもな」

「やはり盲目を患ったか長曾我部。家を捨てた女に同情など不要よ」

「うるせぇな、そんなんじゃねぇよ…たぶん」

「…断言できぬか」

「…うるせぇ」




毛利に言われた通り、ジュリアだから何だかんだ理由をつけてるだけかもしれねぇ

ただそれでもジュリアにとって主の存在が、この教団が、何よりの寄りどころってのは確かな話だ。そのために過去を捨ててまで




「…はぁ、やっぱり俺にはよく分からねぇぜ」

「我にも分からぬ」

「いや、アンタ信者だろサンデー毛利」

「黙れキャプテン長曾我部っ!!」

「キャプテンじゃねぇよっ!!もういいだろ、このやり取りっ!!」





俺は入信なんかしていない、それでもさっきのジュリアの言葉

ジュリアにとっての家族に俺はなりきれない。アイツの期待には添えられないと、いつになったら言えるんだろうか





20150912.

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