妖艶マリーア
「ちょっとそこのアナタ、妾をあの城まで連れて行ってちょうだいっ」
「お、おう…?」
昼間の海を散策していた時。いやにきわどい着物を着た姉ちゃんが、大友の城を指差し俺に命令してきた
「まりーあ様っ!!」
「マリアさんっ!!」
『マリア様ーっ!!』
「あらあら、仲良く揃ってお迎え?よくできた玩具たちにはご褒美かしら、ふふふっ」
「長曾我部…!何故あれを拾ってきた!馬鹿か貴様っ!!」
「悪いっ!!よく分からんが悪いっ!!いや、困ってるみたいだったしよぉ…」
「あの女が困った顔などするか!怪しめ!どう考えても厄介の種であろうっ!?」
ものすごい剣幕で怒鳴る毛利に対し、俺は勢いに負け思わず謝ってしまう
女を城まで案内すれば、まるで城内は熟知しているかのようにさっさと歩いて行っちまった
そしてたどり着いたのは大広間。そこには城主の大友と客人である山中鹿之介、そして仏頂面の毛利と今日も輝いて見え…いや、いつも通りなジュリアがいた
…まりーあ?
「お、おい…あの姉ちゃんもザビー教の仲間か?」
「いや、奴は京極マリア…将軍、足利義輝が侍らす女よ」
「将軍のって…!おいおい、じゃあアイツが鹿之介の裏にいる大事な客かっ!?」
「ゆえに厄介と言ったのだ…!」
「何をしているのですっ!!まりーあ様がいらっしゃったからには、昨夜よりももっと盛大な宴を開くのですよっ!!」
『ハレルヤ!お任せくださいマリア様、ジュリアが素敵な宴をお約束しますっ』
「期待せずに待つわね。そういえばジュリア、アナタ帰ってたの?国を飛び出したと聞いたけど」
『はい!主のお導きです、ねっ、キャプテン!』
「ん?あ、おう、まあなっ」
「キャプテン?」
ジュリアが満面の笑みで振り向いたから、思わず上擦っちまった返事を慌てて誤魔化す
それに合わせて女が振り向き鹿之介が睨んでくる…いやいや、睨むなよガキ
「アナタ、ジュリアの男だったのね残念っ」
「ぁあ?…って、違うっ!!そんなんじゃねぇよ絶対、いや多分、いやいや恐らく、いやいやいや極力っ…!」
「はっきりしないわねぇ」
「違いますマリアさんっ!!この人とジュリアさんは恋人なんかじゃありませんっ!!僕の推理によればっ…!」
「じゃあこっちの男?」
「もっと違いますっ!!」
「我を巻き込むな」
ああ、毛利がものすごく嫌な顔した理由が分かったぜ。これはまたザビー教より別の意味で厄介なやつだ
すでに諦めたのかグッタリし始めた毛利に近寄ろうとするジュリアを阻止しつつ、今回は心の中でしっかり謝罪した。本当にすまねぇ
『いかかですかキャプテン!我が師匠のマリア様、お美しいでしょう?』
「ん?ああ、そりゃ……師匠?」
『はい!昔、マリア様に舞を教わったことがあるのです。女としての嗜みは、マリア様より手ほどきを受けましたっ』
「へぇ…なるほどな」
嬉しそうに笑うジュリアからの話に俺は少し納得した。あの姉ちゃんがジュリアの師匠…か
通りで無垢な女のくせ、その所作に時々色気が見える。演技ではないが少し見えるあざとさ。まあ、それはそれで俺は好き…
「長曾我部、」
「うおっ!!?な、何だよ毛利っ!!俺は別にっ…!」
「馬鹿か。大友らは行ったぞ、貴様もぼーっとするな」
「っ、なっ…本当だな」
いつの間にか大友やジュリアの姿はなく、ここには俺と毛利だけが残されていた
ああ、そうか今日も宴って言ってたもんな。またジュリアの舞が見えるなら参加してやるか
「どうせアンタも宴には来るんだろ?我がおらねばーっとか言い訳してよぉ」
「黙れ長曾我部…!貴様は盲目に侵されたゆえ、奴らの異常さに気づいておらぬだけよ!」
「へいへい、アンタだってこの前までその異常だったんだろ、サンデー毛利」
「貴様が言うなキャプテン長曾我部っ!!」
「キャプテンって呼ぶなっ!!」
「ジュリアに呼ばれデレデレしておるくせに。せいぜい鹿之介や京極マリアにジュリアを奪われぬよう、無い頭で考えることだな」
「うっせぇな、だから、ジュリアとはそんなんじゃねぇし、奪われるって言われても…!」
「…ふんっ」
鼻で笑った毛利だが、その目は決して笑ってはいなかった
むしろ面白くないと言いたげで。それを不思議に思いながらも俺たちは、ジュリアを追って中へと進んでいく
「師匠って言う程だ、あの姉ちゃんもジュリアと仲良いんだろ?どんな感情向けてんだろうな…」
「自分で聞け、馬鹿め」
20150627.
師匠と弟子
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