「はぁぁぁ…どこぞの馬鹿のせいで今日は散々な1日だった…」

「む…又兵衛殿!今日“は”ではなく今日“も”でござろう?」

「ああ〜っ確かに〜っ…って、原因の馬鹿が言うなってんだぁああっ!!」

「いたたたたっ!!?鼻が!鼻がもげるっ!!」

「私にはどちらも馬鹿に見えるが…いや、どちらも馬鹿に見えますが」

『三成君、三成君、敬語で言い直しても先輩には言っちゃいけない台詞だよソレ』




じゃれ合いにしては暴力的な又兵衛と幸村君を眺め、冷静に毒を吐く三成君の隣に並んで歩く下校途中


今から仕事だという三成君との帰り道は、どうしても人目を避けた裏道に偏ってしまう

彼は人気モデルだし…能力を公表してる人と一緒に過ごす事を良しとしない、官兵衛さんから隠れるためだ




『まったく…過保護な保護者だよ官兵衛さんは。最近は特に口うるさくてさぁ』

「ケケッどうした真澄、反抗期ですかぁ?一緒に下着も洗いたくないって例のアレですかぁ?」

『ソレは中学時代に克服済みでーす。それに官兵衛さんはパパってより、年の離れたお兄ちゃんって感じだし』

「げっオレ様、あんな兄貴はごめんなんですけど…」




あからさまに顔をしかめる又兵衛こそ、万年反抗期みたいな態度で官兵衛さんに接している

そんな私たちを黙って眺める三成君は一人っ子。そして…




「うむっ!!やはり兄と慕うならば、俺の兄上のような男が良いっ!!」

『わかるーっ!!カッコいいもんね信之さんっ!!』




満面の笑みで語る幸村君は、見た目通りの弟属性持ちだった

そんな彼の自慢のお兄さんの名は真田信之さん。今は多忙な大学生だが、昔は私たちともよく遊んでくれていて

…私が初恋を捧げた事は秘密だけれども、とにかくカッコ良くて逞しい白馬の王子様だ




「あー…確かにちょっとばかし賢いとは思いますけど?あんなムキムキは、ねぇ…」

「むっ…筋肉の何が悪いのだ又兵衛殿!強さを求める事こそ、日本男子というものっ!!」

「い、いつの時代生きてんだぁ…?おら石田、お前も真田に何か言ってやれぇ」

「何か、か…私も筋肉には一定の憧れがある方だ」

『え、意外!三成君って確かに筋肉はあるけど、ムキムキじゃなくて細マッチョって感じでしょ?』




でも確かに、三成君の所属する豊臣事務所。前にホームページを見た時、載っていた写真に写る社長は筋肉むっきむきだった

社長に心酔しているという彼だから、ムキムキ筋肉に憧れるのもおかしくない…けど、三成君がムキムキな姿は見たくない気がする




「私が社長ほどの筋肉に至れるとは思っていない。その上、モデル業の間は細マッチョで推せ、と半兵衛様…副社長から命じられている」

『き、企業戦略なんだね三成君の細マッチョって…』

「又兵衛殿…石田殿の筋肉をいつ、どこで、何ゆえ見たのか、真澄に問いただすべきだろうか…」

「やめとけぇ…お前の望まない返事しか返ってこないでしょうよ」

「なっ…!?」

『あ、又兵衛!幸村君に変なこと吹き込まないでよ!雑誌!雑誌で見たの!』




いや、現役高校生を脱がせる雑誌もどうかと思うけど!仕事を選ばない三成君もアレだけど!

鞄から取り出した雑誌を又兵衛に叩きつける。そして、それを覗き込む二人の顔は…ページを開く前、表紙を見た時点で酷く歪んでしまった




「げぇっ…お前ぇ…こんな表紙の雑誌、買ったのかぁ?書店でぇ?恥じらいもなくぅ?」

『いかがわしい雑誌みたいに言わないでっ!!健全っ!!全年齢向けっ!!』

「ぐぐっ…さすがの俺も、これには苦言を…!石田殿っ!!」

「な、何だっ…なぜ私を睨むっ!!」

「貴殿ならば"この男"に代わり表紙を飾れたのではないかっ!?なぜ巻頭を奪われたのだっ!!」

「う゛っ…そ、それは…!」

『幸村君が珍しく言葉で他人を傷つけてるっ!!待って待って!雑誌の表紙がそこまで気に入らないのっ!?』

「当然だっ!!この表紙の男はっ…!」

「今、テレビやネットを揺るがす人気役者…日本屈指の伊達男だから、だろ?」

『あっ…!』

「なっ…!?」

「ん…?」

「げぇっ…それを自分で恥ずかしげもなく言っちまう声は…!」




みんな揃って振り向いた先。裏道の少し薄暗い中、何故かぼんやりと浮かんで見える影が二つ

隣町の高校の制服に身を包み、ヒューッと口笛を吹き笑う男の子と、少し困ったように頭を掻きながら笑う男の子

又兵衛から押し返された雑誌の表紙と、壁にもたれかかった方の男の子を見比べる。そう、自信に満ち溢れた自己紹介をする彼こそ、雑誌の表紙を飾った伊達男…!




『ま、政宗君…!』

「…と、家康か。こんな所で何をしている?」




私と三成君の呼びかけに、笑って返事をする伊達政宗君と徳川家康さん。他校生同士ではあるが、私は彼らを知っていた


政宗君は現役高校生にして、役者としても舞台に立つ芸能人。最近では雑誌モデルやテレビ出演もこなすタレントとして売り出し中で…いわば三成君のライバルだ


そして隣の徳川さんは、三成君の幼なじみにして生徒会長

うちの学校にも何度か来たことがあり、話もするんだけど…その度、同じく生徒会長である毛利先輩の機嫌が悪くなるので苦労している




「ははっ、久しぶりなのに挨拶もなしか三成!あと真澄も久しぶりだな。元気か?」

『は、はいっ…徳川さんは政宗君とお出かけですか?』

「ああ、今日は独眼竜と遊ぶ約束だったんだ。ここに来たのはたまたまさ」

「伊達政宗と徳川家康…遊ぶにしてはこんな裏道に来て?ナンパですかねぇ?さっさと帰って自分の町で盛っとけ馬ァ鹿」

「Ah?言うじゃねぇか…後藤又兵衛、だったか?アンタこそ女一人、裏道連れ込んで何やってんだ」

「はぁあ?お前には関係ないだろ、ああ、もしかしてオレ様に喧嘩売ってますぅ?」

『ちょ、ちょっと又兵衛…って、あっ…!』




人気役者に喧嘩を売りつつ…二人を睨む幸村君の前に回り込み、彼を背中に隠した又兵衛

そう、今朝と同じ。二人に敵意を向けた幸村君から…チリリと炎が漏れ出ていた。それに気づいた三成君も、私たちと彼らの間に立つ




「家康、用が無いならば私たちは行くぞ」

「ああ、三成も仕事が忙しいだろうから。話はまた後日としよう」

「オレの話はまだ済んじゃいねぇぜ石田。珍しいな、アンタが“一般人”と一緒にいるなんて」

『っ……あ、あの、私たちはっ…!』

「…私の交友関係など貴様には関係ない、明石も相手をするな。行くぞ真田、後藤」

「ぁあ゛?後藤先輩って呼べってんだ後輩のくせによぉ!あ゛ーっ!!ムカつく後輩だなぁお前は!」

「…………」




そう喧嘩を演じながら、未だ黙ったままな幸村君を引きずり来た道を引き返す二人

私も政宗君と徳川さんに一礼して、三人のあとを追った






「…なるほどな」

「何がなるほどなんだ?独眼竜、三成や真澄をあまり困らせないでやってくれ」

「HA!アンタこそ、真面目なふりして他校の女と仲良くなってんじゃねぇよ。生徒会交流じゃなかったのか?」

「…真澄を挟まないと、毛利がまともに会話してくれないんだ。彼女も苦労している」

「苦労、か…そりゃあの爬虫類野郎だろ。真澄と真田幸村の子守りだ。おまけに、あの石田もついてくる」

「……………」




子守り…というキーワードに家康が顔をしかめれば、悪い悪いと片手をあげる独眼竜

そして今一度、四人が消えた先を見つめる。顔見知り程度の他校生。一人を除けば同業者ではなく、自分のファンでもない





「だが気になるのは…引っ掛かることが多いからか。家康、アンタはどうだ?」

「うぅん…確かに不思議だな、三成が彼女らにあそこまで懐くとは。昔から“自分と違う人間”を見下す癖があったんだが」

「ああ…だから、アイツらも同じなんじゃねぇか?」

「同じ…婆裟羅者ということか?ははっ、まさか。真澄は普通の女の子だ」

「解ってねぇな家康。女は隠し事が得意な生き物なんだぜ」





−−−−−−−−








「はっ!!こ、ここはっ!?」

「オレ様んちだ。真田ぁ…お前、怒りが限界突破したらボケるの辞めてくれませんかねぇ」

『ボケるというか我を忘れるというか…身体の中が燃えちゃって、熱に頭が耐えられないのかな?』




ハッと我に返った幸村君の頭を又兵衛が叩く。未だ状況が飲み込めてない彼の額に濡れタオルを乗せれば…じゅっと水分が蒸発する音がした


政宗君たちとの邂逅の後。三成君はそのまま仕事に向かい、私と又兵衛は幸村君を連れて家まで帰った

さっきまで意識が朦朧としていた幸村君の顔は…とても、怖い。野生の中で生きる獣…例えば虎、のような目だ




「す、すまぬ…また迷惑をかけた…」

「…別にぃ、オレ様もあの野郎たちは気に入りませんし?ただ真田が怒る姿にドン引いて、逆に冷静になったっていうか?」

『そうそう、それが幸村君の個性だし。仕方ない仕方ない』

「見てみろ、真澄のこの冷めた態度。あーあ、流石は氷女。もう少し優しく慰めてやれませんかねぇ」

『又兵衛に言われたくなーい。えーっと、えーっと……この雷野郎!』

「馬鹿丸出しの悪口吐かないでくれますぅ?オレ様は野次られるような能力じゃなく、最強最高の雷様ですしねぇケケッ!」

『へーい、ムッツリ野郎ー』

「誰がムッツリだってぇっ!!?」

『あ、怒った!毛利先輩がこう呼ぶと、長曾我部先輩もブチ切れるんだよね。炎属性だからかと思ったけど、雷も同じなんだ』

「っ…ふ、ははっ!!では又兵衛殿も、俺と同じく怒りっぽいのだな!」

「笑ってんじゃねぇぞ真田ぁ…!」

「いたたたっ!!また、また鼻を…!鼻がもげる!」




ああ、良かった。幸村君が笑ってくれた。又兵衛とじゃれるいつもの姿にほっとして、私はもう乾ききったタオルを受け取る


怒り、敵意、あとは憎しみ。他人に向けた攻撃的な…ちょっと良くない感情を抱いた時、幸村君は燃える

官兵衛さん曰わく、又兵衛も昔は癇癪を起こしてよく放電していたらしい。それを克服し上手く扱えるようになったから…幸村君のことも気にかけるんだ




『…私は小さい頃から、制御できてたからなぁ。氷の出し入れも自由自在』

「そりゃあ氷の粒を出したり冷やしたり?しょーもない能力だから制御も楽勝だろぉよ、ケケケッ」

『え、凍りたいって?もう仕方ないなぁ又兵衛は、えーいっ』

「冷たぁっ!!?い、いいいきなり首筋冷やすのはやめろっ!?ってこら触るなぁっ!!」

「おおっ!俺も少し頭を冷やしたい、故に頼む真澄!俺の額にも触ってくれっ」

『あ…ご、ごめん…幸村君に触ると私が溶けちゃいそうだから…』

「なんとぉっ!!?真澄が溶けるのは困るっ!!お、俺に近づかないでくれっ!!」

「真澄…この馬鹿が本気にする笑えない冗談はやめてやれぇ…」

『…えへへっ、大丈夫だよ幸村君。私は貴方に触っても、絶対に消えないから』




だからずっとずっと、私たちは一緒にいよう
 



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