コンコンッ




「入れ」

『失礼します〜』




校舎の2階、職員室から10歩隣。昼休みで生徒たちが学食に消えた頃を見計らい、軽く2回、その扉を叩く

そして返事を確認した後、挨拶と共に開いた扉。ここは…





【生徒会室】





『生徒会ちょー、屋上の鍵を貸してくーださいっ』

「可愛げがない、やり直せ」

『えっ!!?今世紀最大の可愛さでおねだりできたと思ったのに…』

「どこぞの鬼であれば下品に鼻の下を伸ばしていよう…が、我を誰だと思っている?」

『才能溢れた天才生徒会長さま…?』

「よかろう、昼休みが終わるまでには返せ」

『ありがとうございまーす』




“いつもの”茶番を終え、投げ渡されたのは屋上の鍵。その持ち主である彼は我が校の生徒会長…毛利先輩だ

真っ直ぐな髪とツンとした表情。小柄な割に威圧感がすごい彼もまた、神の子になれなかった人間じゃない人間


その身体に“光”を宿す婆裟羅者だった





「まったく…学校の屋上なんぞ、閉鎖されるべき場所だというのに貴様は」

『あはは、毎回すみません。でも校則に屋上立ち入り禁止なんて書いてませんよね?』

「暗黙のルールを知らぬか。まぁ、はみ出しモノである我らにとって、ルールなどあってないようなものかもしれぬが」

『……………』

「いや…もうよい、行け。会長権限で屋上の使用は許可するが、我の専用スペースには立ち入るでないぞ」

『はーいっ』




文武両道、冷酷非情、極悪非道の生徒会長として生徒から恐れられる毛利先輩

けど私や幸村君、あと少しだけ又兵衛…といった同じ婆裟羅者には僅かな優しさを見せてくれることがある。一般社会に未だ馴染みきれない私たちを哀れんでか…ただ少なからず、仲間意識は持ってくれているらしい


…そう、ある一人を除いては




ガラガラッ





「おっ真澄!やっぱり此処にいたなっ!!アイツが探してたぜ、早く行って…」

『あ゛…ちょ、長曾我部せんぱっ…!』

「鬼が我の生徒会室へ足を踏み入れるでないわっ!!!」

『ふぎゃあっ!!?』

「うぉおっ!!?」




ガッシャーンッ!!!



ノックも無しに開かれた扉!そこから現れた大男!私に向けられるニカリとした良い笑顔!

そしてそして、そんな私たちの間を勢いよく通り抜け廊下の壁にぶつかり砕け散ったのは…!





『あわわっ…!し、ししCD-ROM…!』

「ばっ…か野郎っ!!毛利っ!!真澄に当たったらどうすんだっ!?」

「こ奴も我と同じ婆裟羅者…防ごうと思えば防げる、弾こうと思えば弾けるであろう」

『毛利先輩の殺意…もとい光の込められたモノを防ぐとか無理ですよっ!?』

「ならば避けよ。しかし長曾我部、貴様は避けるな狙いが逸れる」

「ぁあ゛っ!?相変わらずいきなりだが、売られた喧嘩なら買ってやるぜ!」




そう言ってメラメラと燃え始めた彼は長曾我部先輩…幸村君と同じ炎を宿す婆裟羅者


弱きを助け、強きを挫く。頼もしく正義感溢れる彼は、生徒からアニキと慕われる人気者だ

…ただ校則は破ってなんぼ、おまけに出席日数は毎年デッドラインで教師泣かせの問題児さんでもある




『って、先輩!燃えてます!燃えちゃってますよ!』

「燃やしてんだよ!俺の火力で今日こそ降参させてやるぜ、生徒会長さんよぉ」

「我は貴様の降参など認めぬ。我が光をもって焼き焦がしてくれよう暴走族め」

『うわっ!毛利先輩もスタンバイしちゃった…!』





生徒会長と不良…対極にして似たもの同士な二人。ああ、なんとなく又兵衛と幸村君にも似てるんだよなぁ




『こっちは又兵衛が折れてくれるから、上手くいくんだけどね…』





さて…目的の鍵はゲットしたし、本格的に彼らの喧嘩へ巻き込まれる前に私は去ろうかな

長曾我部先輩曰わく、“あの子”が私を探していたみたいだから






−−−−−−−−





…ガシャン



さっきの生徒会室より重い扉の音。開いた先に広がるのは…少し苔のついた床と、フェンスと、空

学校の屋上。ここは毛利生徒会長が私物化…あらため婆裟羅者たちに開放している避難所である




『はぁー…晴れて良かった。鍵持ってきたの私だから、当たり前だけど一番乗りか』




又兵衛と幸村君は、今日の遅刻について先生に事情聴取されてるから遅れるとして

今朝用意したお弁当の最後の受け取り手。それは…




「………おい、」

『っ………』

「…入らないのか?」

『ううん!ごめん、入り口塞いでたね。行こうっ』




背後から私に呼びかける低い声。振り返ると立っているスラリとした男の子

特徴的な髪型をした銀髪と長い手足、見下ろす目は鋭いけど綺麗な顔。私が屋上に一歩踏み出せば、黙って後ろをついてくる




『はい、三成君の分のお弁当!又兵衛たちは遅れてくるから、先に食べ始めとこうね』

「…ああ、」




私からお弁当を受け取った彼は後輩の石田三成君。この屋上に入る許可を得ている…闇の婆裟羅者

万年仏頂面でクールな彼は、そのルックスを活かした“モデル”として活躍している有名人。タレント事務所にも所属していて、この前、CM出演が決まったとか


そんな人気者に何故、私なんかがお弁当を作っているのか

ひとつ、三成君はマネージャーさんと同居してるが彼が忙しい&病気がちで食事の面倒が見れないため。ふたつ、事務所と本人の方針で婆娑羅者以外が作った食事を口にしたくないため。みっつ…




『…三成君、また喧嘩したって?』

「喧嘩ではない。どこぞの人間が投げてきた石を振り払っただけだ…愚かな犯人は卒倒したがな」

『そっか…』

「馬鹿な男だ、私を異能者と知りながら自ら寿命を縮めにやって来る。小石程度で私に傷が入ると思ったのか」

『……………』





婆娑羅者を、自分と違う人間を、恐れ拒む人が彼を標的とするからだ


三成君は私達と違い、自分が婆娑羅者であることを公表していた。彼だけでなく、所属事務所は社長含め全員が公にしている。自分たちこそ神に選ばれた人間だと、日本中へ知らしめるために

確かに外国では歌手や俳優など芸能人のほとんどが婆娑羅者だという。日本では公表されないだけで…これも毛利先輩の言う“暗黙のルール”だろうか?彼は見世物にしているだけだ、と顔をしかめていたが




『でも、怪我が無くてよかった。モデルさんなんだから、顔に傷が入ったら大変だよ』

「…投石なんぞ目を瞑っていても避けられる」

『私、さっきCD-ROMを顔面キャッチしかけたんだよねー』

「貴様は動きが鈍いからな」

『ちょ、私、一応先輩なんだけど!』

「この屋上では対等だと、はじめに言ったのは明石ではなかったか?」

『そうだけど!』




本気で首を傾げる三成君は私を先輩扱いしないけど、こうやって隣でお弁当を食べてくれる以上、信頼はしてるらしい


…彼が宿す“闇”は婆娑羅者の中でも特に危険で、一般人なら触れるだけで気絶する人もいる

命を吸い取るとも言われ、その扱いはまさしく吸血鬼…知ってて近づく人間はほとんどいない




『…私みたいな婆娑羅者も吸いとられちゃうのかな、命』

「試す価値はない」

『えー、でも興味ない?』

「ない。貴様は自分をもう少し大切にしろ、神から授けられた力を持つ選ばれた人間だぞ」

『うんうん、そうかも。でも私に触っても平気だって、少し期待してるから…隣にいること許してくれるんじゃないの?』

「貴様の隣は…」

『……………』

「涼しいからだ」

『そっかー、涼しいからかー』




氷属性は重宝するな。屋上の日陰でそんなことを言う三成君は、本当に吸血鬼さんなのかもしれない







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