『あ…いた!又兵衛ーっ!!幸村君ーっ!!』
「ん…おお、真澄っ!!」
「ぁあ…なんだ、まだ学校行ってなかったんですかぁ?」
登校中…官兵衛さんの家と学校までのちょうど中間に差し掛かった時。私は見慣れた2つの背中を見つけた
肝心な朝の挨拶もなしに名前を呼ぶと、その声に振り向いた2人。猫背で眠そうな顔の男の子と、背筋を伸ばした元気な男の子
対称的な彼らは私の幼なじみ…そして秘密を共有する仲間だ
『官兵衛さんがなかなか起きなくて。又兵衛は幸村君の家からそのまま来たの?』
「まぁ…このお馬鹿さんがぁ?財布と生徒手帳見当たらないとか言い出すから?又兵衛様が朝から鞄をひっくり返して探してやった挙げ句?」
「教室のロッカーに入れたのを失念していたっ!!」
「とかほざきやがりましたから?こんな時間に登校なんだろぉが馬ァ鹿…!」
「す、すまぬっ!!財布が無ければ購買でパンも買えぬ故、焦ってつい連絡を…」
「速弁用のパンとかほんっ…とに食い意地張り過ぎやしませんかねぇ」
「又兵衛殿の食が細過ぎるのだ!育ち盛りの高校生はこのようなものでござるっ」
『足して2で割ればちょうど良いでござる』
さらっと2人の間に入り、それぞれにお弁当箱を渡す。さあ急がないと私たちまで遅刻するよ
「毎日すまぬな真澄!昼まで我慢できるか、今日も己との勝負…!」
「はぁあ…すまぬと思うなら、カロリー消費を抑える努力できませんかねぇ」
『幸村君は燃費悪いから。私や又兵衛と比べるのは、ほら、ちょっと』
…又兵衛と幸村君もまた、婆裟羅者と呼ばれる人だった
私よりも先に黒田家に居候していた又兵衛は雷、近所で道場を営む真田さんちの幸村君は炎
特に幸村君の能力はクセが強くて、小さい頃はよく燃えていた。本人が
「何かあるたびに燃えてりゃそうなるでしょうよ。真田ァ、今日は喧嘩するんじゃねぇぞ」
「もちろん!俺も早く、又兵衛殿や真澄のように己の力を上手く扱ってみせる…!」
「まぁ…又兵衛様ほどじゃないですけど?お前だって筋は悪くな−…」
「むむっ!!?あの男!先日、真澄にちょっかいをかけた男ではないかっ!!待てーっ!!今日こそ悔い改めさせるっ!!」
「言ったそばからお前ぇえ゛ぇえっ!!!喧嘩するなって聞こえなかったのかぁあぁあっ!!!」
『…行ってらっしゃーい』
幸村君が走り去る間際、チリリと彼の炎が目の前を掠めた。ああ、また燃えてる
彼は怒ると身体から炎が漏れ出る。昔に比べたらコントロールできるようになったけど、むしろ今までよく隠し通せてたよね
今日のアレは又兵衛が止めてくれるなら大丈夫だろう。見た目は優等生な幸村君だけど、あの血の気の多さは“お兄さん”に似たのかな
『それにしても…みんな、過保護だなぁ。私がのんきすぎるのかな』
ちょっかいを出されても、仲間外れにされても、私には今の家族がいればいいのに
家を出た時より軽くなった荷物。お弁当箱は残り2つ…2人には悪いけど、私は遅刻しないよう学校に行こう
−−−−−−−−
「真田ぁあ…!お前の!猪突猛進っぷりは!本物の猪もビックリなんですけどぉおっ!!?」
「すすすすまぬっ!!あの男の顔を見るとついカッとなり…!」
「あの男ぉ?って言っても、真澄を遊びに誘おうとしただけだろ」
「……………」
「あぁ…ソレも駄目ってか。別に真澄が誰と遊ぼうがオレ様たちには関係ないでしょうが」
捕まえた真田を引きずりながら、もう一限目が始まっているだろう学校へ向かう
さっきまでの荒れは静まったが、変わりにこのふてくされた顔。今のところ、真澄絡みでしか見ない顔だオレ様には関係ありませんけど
「俺は…兄上より、真澄を守るよう言われている」
「あー、あのでっかい兄貴。でぇ?あの野郎が?真澄にどんな害を働くって?」
「……………」
「…それ、兄貴を言い訳にしてるだけでお前が気に入らないんだろ?あの男をさぁ」
「ぐぅぅっ…わ、解らぬ!俺は、又兵衛殿が何故そうも平然としていられるか理解できぬ!」
「だぁから、真澄が誰と仲良くしようが関係ないって言ってるじゃあないですか。だってさぁ…」
どうせ真澄もお前もオレ様も、一般人と共存なんてできない身体なんだから
いつか必ず人目を避けて、隠れて暮らす日がくるんだ
「それまでは真澄もお前も、普通の人でいりゃいいさ」
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